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人間は神様に勝てない  作者: 永瀬けんと
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メンター



 目を覚ました。真っ白な天井に真っ白な蛍光灯。天井に汚れは一切見当たらず、出来たばかりのベージュの壁は、まだ人に慣れていないように見えた。

 おれは大きく息を吸ってから、ゆっくり吐き出した。

「ヘッドギア、外していいよ」

 神木さんがそう言ったので、おれは上体を起こしてから、研究用の青いヘッドギアを頭から外した。

「人を救うというより、元の自分を思い出してもらって、元の場所に戻ってもらう。そういうことなんですね」

 都会にそびえ立つ三十八階建てのビル。アナザー社のオフィスは三十階から三十八階まで入居しており、神木さん専用の研究室は三十三階の隅っこに位置していた。

 神木さんがおれの言葉に応える。

「そういうことだよ。僕らはサムシンググレートの投資なんだ。僕らが成長して帰ってきてくれてこそ、サムシンググレート自身の成長となる」

「ちなみに神木さんはなぜサムシンググレートという表現を?」

「僕に表現へのこだわりは無いさ。別に創造主でもいいし、神様や天でも宇宙とかでも何でもいいよ」

「サムシンググレートは何のために成長を?」

「さあ」

「神木さんでも分からないんすか?」

「それを知りたくて、こうして研究をやっているんだよ」

「そうなんすね。でも、さっき感じさせてもらった地球神的な存在たちは知っているんですよね?」

「いや、彼らも知らないだろう」

「え? 目的も知らないまま、使命を遂行していくのは難しくないですか?」

「どうだろう」

「だって、僕ら人間がサムシンググレートの目的を知った方が、より良くこの地球で生きようとする気がしませんか? なぜサムシンググレートは地球神的な存在たちにさえ、それを伝えないんすかね」

「答えをさがすというのも、成長の糧なのかもね。僕自身、研究を進めれば進めるほど、それを強く感じているよ」

「なるほど……。しかし人間って、めっちゃ小さい世界で生きてますよね。空間的にも、時間的にも」

「僕ら人間から蟻の営みを見れば、蟻の住んでいる世界は小さく見える。それと同じように人間より上の存在たちから見れば、僕らは本当に小さな世界で生きているように見えるだろう」

「神木さんが創っている仮想世界を世界中のヘッドギアからアクセスできるようになれば、みんな直感的にそれを理解できるだろうし、もしかしたら、自分の使命に目覚める人たちもいっぱい出てくるかもしれない」

「世界を変えるのはそんな簡単な話じゃないよ。琴平くんは理解が早い。おそらく、君は何度も他の惑星や地球で生を全うしているんだろう。僕が同じことを教えたところで、君みたいに理解が早い子はごくわずか。僕が創っている世界をオープンにしたところで、アトラクションがひとつ増えたと思われて、エンターテイメントとして消化されるだけだよ」

「……」

「人間になるとは、この精密な脳を手にいれるということ。脳はこの世界でより良く生きるために、サムシンググレートが用意したもの。脳は空間認識、時間認識、社会的な認識を僕らに与える役目を果たす。そして脳は元の世界の記憶を封じて、脳こそが自分と認識させることで、魂は何もかもが不完全な物質的な世界に拘束され、そこへマイナスの感情も付与される」

「……」

「ちょっとついてこれなくなったって顔をしているね」

 神木さんがそう言うと、おれは視線を落として頭をかいた。

「神木さんの言うことはたまに難しいっす」

「理解の早い君でもこれだよ。僕の世界をオープンにしても、琴平くんが思うように世界は変わってくれはしない」

「……なんとなく、分かりました」

「さあ、そろそろ彼女のメンタルケアも終わる頃だ。今日はこのへんにしておこう」

「神木さん」

「ん?」

「おれはいつになったら、人を救えるようになりますか?」

 ここへ通い始めて三ヶ月。そろそろおれは自分の力を使いたくなってきていた。

「君のところへ誰か依頼が来たかい?」

「依頼っすか?」

「そう、身体を失った魂からの依頼」

「身体を失った魂からの依頼?」

「ちんぷんかんぷんって感じだね。まあ、焦ることはないさ。君はまだ若い。君が望まなくともそのうち依頼がやってくるようになる。君はそのときに活動を開始すればいい」

「……」

 依頼なんて、そんなものはいままで一つも来ていない。どうやらおれはまだまだ力不足のようだった。

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