希望
「で、ガジュマルは何を見つけたわけ? アオたちと平和的に解決する道があることを知ったことと差別問題の間で」
トマソンの言葉を受け、ガジュマルは遠くを見つめるようにして答えた。
「希望」
「希望?」
「ああ」
ガジュマルは一度目を閉じてから、ゆっくり話を続けた。
「差別ってなくせない。やっぱりそこは変わらねえ。けど、その先にあるのは絶望なんじゃなくて、希望なんじゃないかって。俺たちが出会えたのもひとつの希望だし、それに運営はこんな奥深くに用意したクエストに希望の選択肢を用意していた」
ガジュマルの話にトマソンが入る。
「奥深くに用意したクエストだけに誰がそのことに気づけるかって感じだけど、それでもそのうち平和的に解決する道を選ぶやつが現れるって、運営は信じてこのクエストを作った」
「俺、いまなんか、ふと思った。差別もそうだが、マイナスなことはこの世界から消すことができない。さみしい気持ちだってそう。もし、この世界にムダなもんが無いっていうなら、マイナスのことにも意味がある。もしかしたら、マイナスたちは俺たちのことを育てるために存在してくれているのかもな」
「ははっ。それ、超前向きな考え方だよ」
「でも、あたしはそんなことを言うガジュマルが好き。ガジュマルがいるから、あたしは暗闇の中だって歩いていられる。それに、神様って、暗闇の先に希望っていうごほうびを用意してくれているんだよ、きっと。だから、ガジュマルの今言ったことをあたしは信じたいって思う」
「ごほうびは希望か……」
トマソンは人差し指で軽くほっぺたを掻いた。そして、「じゃあ、今日苦労した先にはレアアイテム情ほ、いや、レンとミーナがまたこの世界へ帰って来てくれたらいいな」と言った。
「別にそこは無理しなくてもレアアイテム情報で良いんじゃねーか」
「いや、やっぱり相手がいてこそのレアアイテムだよね。それに、気の合う仲間とレアアイテム取りに行くのがこのゲームで一番楽しい時間だしね」
「ああ、それは間違いねえ」
「絶対帰ってくるよ」
ガジュマルとリンリンがトマソンに向かって力強くうなづいて見せた。それに応えるように、トマソンも力強くうなづいた。
おれは目を覚ました。見慣れた天井に、いつものにおい。頭に手をやると人工的な硬い感触。どうやら、無事に自分の部屋へ戻ってこれたようだ。
まだ、第一段階をクリアしただけ。すぐに上体を起こして、ヘッドギアを外す。仮想世界で緊迫した状況が続いていたからだろうか、おれは大量の汗をかいていた。
勉強机の上にスマホ。慌てて手を伸ばすと、スマホは逃げるように手から滑り落ち、イスの上でバウンドしてから硬い床に落ちてしまった。
「やば……」
おれは顔を青くした。前に画面をひび割れさせてしまったことを思い出した。高いスマホは画面にひびが入っても操作できてしまうらしい。しかし、おれの安物はひとつでもひびが入ると操作できなくなってしまう。
うつ伏せのスマホをそっと持ち上げる。ひびはない。電源ボタン押すと、普通に画面から光が溢れた。知らない宛先からのメール通知が表示されている。これは秀川さんのものだとすぐに分かった。おそるおそる画面に指を当ててスライドさせる。スマホは無事に問題なく動いてくれた。
おれは一度深呼吸をした。
秀川さんからのメールを確認。そこには添付ファイルをすぐに開けるよう本文に記載されていたので、おれは急いで添付ファイルを開いた。
スマホが勝手に動き始める。どうやら、ドアロック解除アプリのインストールとワクチンらしきものをSDカードへ書き込む処理が同時に行われているようだ。




