残された三人
「さて、俺らも急ぎますか」
浩平は首を傾けて関節を鳴らした。
「その前に、彼らは?」
菜月はガジュマル、リンリン、トマソンの三人を見た。それに対して神木が口を開いた。
「まだ、死の部屋へ転送されてしまう可能性が残っている。君たちには申し訳ないがこのテント中でしばらく待機しておいてくれ」
ガジュマルが静かに「分かりました」と答えると、リンリンとトマソンもそれに続いてゆっくりうなづいた。
神木、浩平、菜月が目を閉じてログアウト操作を行うと、三人の身体は光となって仮想世界から消え去った。それを見て、リンリンが言った。
「神木さんたち三人は、ログアウトしても死の部屋には送られないんだね」
それに対してトマソンが答えた。
「いや、秀川さんの話から、死の部屋に送られる可能性はあると思うよ」
「え! それってヤバくない?」
「いや、もしそうなったら、すぐにワクチンを当てる準備ができているんだと思う」
「なるほど、そういうことか」
トマソンとリンリンが話している間に、ガジュマルはテントの出入口に顔を出した。
「ガジュマル、どしたの?」
リンリンが呼びかけると、ガジュマルは顔をテントの中に戻した。
「いつの間にか、アオたちの死体が消えてんなって思って」
「え? そうだったっけ?」
リンリンはそう言うと、トマソンと一緒にテントから顔を出した。
「確かにいなくなってるね」
トマソンはテントの中に顔を戻して眉をひそめた。
「それに、集落の中でなぜここだけ安全地帯なんだ? 水晶壁まである」
ガジュマルは腕組みをすると、リンリンが水晶壁を指差して「セーブしとく?」と言ったが、トマソンの「強制転送先がここになったら、無事ダークラインの外へ出られなくなるかもよ」という言葉に、「ああ、そっか。ダメだね」と答えて水晶壁に近づくのを止めた。
ガジュマルが話を続ける。
「俺さ、タピス族の長老からあのクエストもらったとき、アオたちのことをボッコボコにしてやろうとか思ってたけど、もしかしたら、平和的に解決する道も用意されてるのかもな」
「まさか、そんな、」
と言ったのはリンリンだった。
「だって、クエストではアオたちのこと、全滅してくれみたいなこと言われなかったっけ?」
リンリンの記憶に対してトマソンが「いや、それは違う」と否定した。
「長老は神杯を取り返して欲しいとしか言ってないよ」
トマソンがそう言うと「そうだったっけ」とリンリンは自分の記憶が誤っている気がしてきた。
「人間は差別をやめない生き物って、俺は今でも思ってる」
ガジュマルの何かに火がついたことにリンリンは気がついた。
「それは、あたしも思ってるよ。だって、あたしはお母さんが中国人っていうだけで差別を受けて育ってきたから」
「俺やレンだってそうだった。多分、ミーナも。そして、シンジ。おそらくお前もなんだろ、トマソン?」
トマソンは少し黙ったあと、「まあ、顔がブサイクだと、色々ね」と言った。
「俺は、お前らと話してて同じニオイを感じてたよ。仮想世界にどっぷりつかっちまう理由が何かあんだろうなって。俺はばあちゃんの住んでいる場所が悪いってだけで愛する人と別れることになったよ。今はリンのおかげでだいぶ元気だけど、当時はだいぶこたえた。まあ、もちろんストファンのトッププレーヤー全員がそういう理由を抱えているっていうわけじゃねえだろうけど」
「あたし、さみしいって気持ちを恨んだことあるよ。バカでしょ? 気持ちとか見えないものを恨んだとこで無謀なだけなのに」
「リンは優しいんだよ。お前は人を恨まなかった」
ガジュマルはリンリンの頭を軽く叩くと、リンリンは柔らかな顔になってガジュマルにそっと身を寄せた。




