一筋の光
神木が話を続ける。
「小さい頃から、君は死んだ人間が視えていたはずだ。そんな力があったおかげで、君は普通の人がしなくてもいい苦労をこれまでしてきているはずだよ、違うかい?」
レンは口を閉じたまま再び視線を乾いた地面に落とした。神木が話を続ける。
「君のその力は何のためにあるか、知っているかい」
ガジュマル、リンリン、トマソンが静かにレンを見守っていた。
「……ク……」
レンが口を開けた。みんな、レンに耳を傾けた。
「……ク、クソです。こんな力」
菜月が「それは違うわ」と言うと、続いて浩平が「いや、確かにその大きすぎる力は、いまの君にはクソなのかもしれない」と言った。
レンが再び口を開く。
「元はと言えば、こんな力があったから、田中やま……リアリスみたいな変な奴に目をつけられて、こんな結果になってしもた……」
レンは顔をしわくちゃにした。
「いや、まだ結果は出ていない」
神木のその言葉に、ガジュマルが「結果が出ていないとは?」と訊いた。
「死の部屋の話を詳しくしていなくて申し訳ない。死の部屋の仕様については確定ではないが、部屋に送られてすぐにその送られた人間が死ぬとは限らないんだよ」
リンリンが「どういうこと?」と訊くと、次に菜月が答えた。
「死の部屋へ送られた者が死に絶えてしまう時間には個人差があるようなの」
トマソンが食いつくように「じゃあ、もしかしてミーナはまだ!」と尋ねると、浩平が「ああ、まだわからない」と静かに答えた。
「でも、助ける手段がいまのところないんじゃ?」
と、すぐにトマソンが訊くと神木が「いや、それについては」と答えたところで、ちょうど全員のリンクストーンが光り始めた。
「どうにか間に合わせてくれてありがとう。助かったよ」
神木がリンクストーンを通して連絡してきた相手に伝えた。
「別に私としては、あなたたちが全滅してくれても良かったんですけどね」
憎たらしくそう答えた相手について、トマソンが浩平に小さく「誰です?」
と訊いた。
「アナザー社の取締役兼研究員代表の秀川という人で、オープン化したこの仮想世界のトップだよ」
浩平がそう答えると、トマソンは目を丸くして驚いた。
神木が話を続ける。
「元凶がこの世界から抜けてくれたおかげで、通信手段も復旧したようだね」
「ヒューマン・ノーマライザー。どうせあなたたちも知っているんだろう。全く、タチの悪い連中だよ」
「そんな話がしたくて、僕たちに連絡をよこした訳じゃないんだろう」
「……。ああ、そうだ」
「完成したワクチンを現在、死の部屋に送られてしまった被害者へ全力で配布中といったところか」
「いつも、話を早くしてくれるところだけは評価しているよ。察しの通りだ。残念ながら、元凶をワールドから排除しても死の部屋は消滅せず、被害者も死の部屋から解放されてはいない。まだ、身体がどこかへ転送されると、死の部屋へ送られてしまう報告もわずかだが受けている。まずは被害者のヘッドギアにSDカードを差し込むことで、被害者が死の部屋から解放できることを確認している。しかし、被害者は世界中に散らばっていて、不本意にもだいぶ難航といった状態だ」
「インターネットにつながっていないのか?」
「死の部屋へ送られた瞬間、被害者はアナザー社外の悪サーバに送られて、その悪サーバ以外とは一切つながらなくなってしまう」
「キャリアに頼んでその悪サーバをインターネット上から切り離すことはできないのか」
「切った瞬間、被害者全員が死んでしまうことも捨てきれない。さすがにそれは出来ない」
「この連絡は頭脳労働ではなく、僕たちにもマンパワーに加われということだったか。確かにタチの悪い連中だな……僕たちが救助に注力している間に証拠隠滅で尻尾をつかませない流れか」
「分かっていても、我々は救助を優先しなければならない」
「で、僕らの近くには何人の被害者が?」
「三名だ」
「距離は」
「緊急車両で、二十三分、五十一分、八十五分」
「八十五分が遠いな」
「その子については、この通話に入っているレンさんの家に近いことがわかっている」
レンは急に立ち上がって、「それって」とつぶやいた。




