滅びの欠片
「あかん、あかん、あかん」
レンはまばたきすることも忘れて、道具袋をあさった。メナン海岸でミーナにもらった神の貝殻。それを取り出し、レンが右手に力を込めると、神の貝殻は粉々に砕けた。レン、そして近くにいたガジュマル、リンリン、トマソンは七色の光に包まれてライフポイントが全回復した。しかし、ミーナのライフポイントはゼロのままだった。
「それって、メナンのときの?」
ミーナが声にならない声で訊いた。
「そうやで。だから、すぐミーナも回復するから」
レンは身体が震え出した。受け入れがたい現実を前に、「ああ」という情けない声を何度も発して、また道具袋に手を入れようとした。
「まだ持っててくれてたんや」
ミーナはレンに微笑んでみせた。そして、「離れて」と言って、道具袋から滅びの欠片を取り出した。今度はレンが声にならない声で訴える。
「あかん、あかんって。ああ、そうや、ミーナのタピ、タピスのお守り」
次の瞬間、神の貝殻によって腕と足が回復していたトマソンがレンを抱えて神速を発動。ミーナは滅びの欠片を起動させた。
リアリスはミーナの胸を貫いたまま、訳の分からない雄叫びを上げていた。そして、滅びの欠片によって生成された暗黒の球体にミーナもろとも呑まれ、その暗黒の球体は半径五メートルのありとあらゆるものを消滅させて自らも消えた。
「ああああああ!!」
レンはその場に崩れ落ちた。乾いた地面を叩き、次から次へと涙を落とした。
シンジは眉をひそめた。ヒューマン・ノーマライザーとして、望ましくない出来事だった。シンジは菜月と浩平の相手をしながら、耳のリンクストーンに触れた。
「リアリスとミーナが滅びの欠片で消滅した。……。ああ、そうだ。……。いや、ミーナはレンにとってそこまでの存在にはなりきれていない可能性が。……。その話をするのは時間の無駄だ。彼女がケチャップからウイルスを入手しなかった時点で終わっている話だ。……。分かった、レンの仲間を全て死の部屋へ送り、さらにレンを深い闇へ落とす術を改めて考えよう」
浩平は額の汗を拭いもせず、シンジの攻撃を防ぎ、神木や菜月を守ることに集中していた。
菜月がボウガンの矢をシンジに放つ。何回目だろうか。ボウガンの矢は見えない壁によって空しく弾かれた。この一連の流れを見て、浩平は神木に秀川のことを聞かなくなった。
呪術師は変な呪術が使える代わりにステータスが低い。神木自身もそこまでゲームに詳しくないため、神木はシンジからなんとか攻撃を避けたり防いだりしていた。
シンジが今までとは違う魔法を詠唱し始めた。目を閉じ、杖を胸の前にかざして集中している。浩平も菜月もかなり強力な魔法が来ることを察し、距離を取った。
菜月がまたボウガンを構えた。ダメでもともと。それでも、菜月はもう一度矢を放った。
矢は見えない壁に当たらなかった。シンジの胸を貫ぬき、その場でシンジの膝が地についた。すかさず、菜月がアロンダイトをシンジに向けて、激流を放った。それに呼応して、浩平が雷切を振り、激流に電撃を乗せた。
稲妻をまとった水龍がシンジを襲う。菜月はさらにボウガンをシンジに向かって二連発で放ち、浩平は神速からシンジへ電撃を帯びた斬撃を最後に浴びせようとしたが、シンジはすでにその場にいなかった。
「逃げたな」
神木がそう言うと、浩平は舌打ちをした。
「間一髪、秀川君が間に合わせてくれたみたいね」
菜月は肩を撫で下ろした。秀川サイドは神木と浩平と菜月が他の冒険者を攻撃できるよう、シンジとの戦いの裏でソフトウェアに手を加えていたのだった。
「ってことは?」
浩平が神木にそう訊くと、神木は「ああ、そういうことだ」とうなづいてみせた。
ガジュマル、リンリン、トマソンが目に光を失ったレンのそばで肩を落としていた。
「レン君、君に話がある」
神木がそう問いかけても、レンは座り込んで視線を上げることはなかった。
「レン君というか、僕から涼くんに話があるんだ」
神木が本名でレンに問いかけると、レンは少しだけ視線を上げた。




