ライフポイントゼロ
「レン。もう分かっているんだろう。この場はいい。さっさと逃げろ」
トマソンが優しくレンの肩を叩いた。
「全部投げ出して、ここから去るとか、そんなんでけへんわ……」
レンは締め付けるような胸の痛みをどう処理していいか分からず、顔をしかめた。
倒れ込んで意味不明な奇声を上げていたリアリスが立ち上がった。右手にはアロンダイト。目の焦点は合っていない。足元も変わらずフラついている。
「大丈夫か、レン」
「あかんわ。さっきの一撃が深すぎて、すぐに力が入らんみたい」
リアリスが両手でアロンダイトを握った。
「あああああ!」
リアリスはまた咆哮を上げて、アロンダイトを振り上げた。トマソンはレンが斬られてはいけないと思い、「あかん!」と言うレンと無理矢理身体を入れ替えた。
カラン、カラン。
よく分からない音が鳴った。斬られることを覚悟していたトマソンは力いっぱい閉じていた目を開け、リアリスの方へ振り向いた。
「あああ! あがあがあがあがっ」
リアリスはアロンダイトを地面に落とし、頭を抱えてしゃがみこんでいた。
それを見ていたレンはゆっくりとトマソンから離れた。そして、リアリスへ近づき、アロンダイトを拾った。
レンはアロンダイトの刃を額に当てて目を閉じた。
―――お前はついてきてくれるよな?
そう心の中で思い、レンが右手に力を込めるとアロンダイトはそれに応えるように蒼く光り始めた。
「愛剣で何するつもり?」
ミーナがレンの前に立ち塞がった。
「もう、覚悟できたから。おれがリアリスを殺す。これ以上、みんなが傷つくとこ見たないから」
「アカンよ。神木さんの言ってたこと、信じてないの?」
「シンジはリアリスを倒せって」
「あれはもう、あたしらが知ってるシンジちゃうやん。シンジも冒険者に攻撃できるとかありえへんやん」
「そんなん、どっちでもええねん」
「どっちでもええことないよ。見てみいやこのリアリスを。これはゲーム内の何かで苦しんでるんやない、現実世界で何かされておかしくなってるんやって」
「……」
「レンだって、神木さんたちが正しいこと分かってるんやろ!」
「せやかて、どないしたらええねん! リアリスを倒さな、仲間の誰かが殺されてしまう」
「……」
「それに、おれは現実世界で、こいつに嫌がらせを受けてきた。だから、おれはこいつに復讐してもええんや! 殺したって正当防衛やろ!」
「……」
「ミーナ、そこをどいてくれ」
「……」
「おれは不幸な人生を歩んできた。だからおれがさらに不幸になるぐらいどうってことあれへん。でも、だれかが不幸になるのをおれは見てらへん」
「……」
「さあ、そこをどいてくれ」
「うちの……」
「?」
「うちの……あたしが大好きな琴平くんは、そんな闇に呑まれるような軟な人や無い! あたしの大好きな琴平くんは、絶対どんな困難も乗り越えるって信じてるから!」
「ミーナ?」
スティンガーナイフは敵のレベルが高くなると、使い物にはならなくなってくる。ただし、リアリスにとっては違った。ギャンブラーという職種は武器の強さに関係なく大技を一か八かで使うことができてしまう。自分のレベルが低ければ低いほど、大技であればあるほど、技の発動率自体も低くなる。ただし、リアリスにとっては違った。ウィルスによって冒されているヘッドギアにより、100%の確率でどんな技でも発動することができた。
一撃必殺技、ナイフオブデス。そもそも成功率は10%程度。さらに、武器の性能が低く、相手のレベルが高いため、普通なら成功率はゼロに等しかった。しかし、リアリスにとっては違った。スティンガーナイフを手にしたリアリスは静かにナイフオブデスを発動。ミーナを背中から襲い、ピンポイントで心臓を貫いた。
レンの目の前で、ミーナはライフポイントを全て失った。
「え? おい? なんやねん、いきなり」
レンは混乱して、道具袋から回復アイテムを出しては、ミーナに使った。効果はない。一度ライフポイントがゼロになると回復させることは一部のアイテムを除いて、魔法でも無理だった。




