葛藤
菜月がリアリスに向かってボウガンを撃つ。矢は見えない壁によって虚しく弾かれてしまう。シンジからの魔法攻撃。蒼い焔が神木を襲う。ワイドプロテクトで辛くも浩平が防ぐ。
「秀川はまだなのか!」
浩平の焦りに、「ワクチン作成が先だ! 僕も秀川ならそうする!」と神木が答える。「浩平、冷静に相手を殺すことだけ考えて」と菜月が諭す。
「がはっ」
嫌な声がレンの方から響いた。ガジュマルが穴の開いた右肩を押さえている。白目をむいているリアリスの攻撃。ガーガーとしか言わなくなったリアリスが、今度はガジュマルを回復させようとしたリンリンを襲う。レンがソードパリィでリアリスの攻撃をうまく弾く。トマソンがリンリンにレア回復アイテムを投げる。
「もう、死ねよ!」
レンがあと一撃で沈むリアリスに向かってヴォーパルソードを振り下ろす。さっきと同じ感触。また、リアリスまで攻撃が届かない。
「ぐふっ」
レンがリアリスに腹を蹴られて、吹き飛んだ。
レンが叫ぶ。
「神木さん! 訳の分からない呪術をさっさと解いてくれ! おれがあいつを落とす!」
「ダメだ! 事情が変わった! 君は彼を本当に殺すことになってしまう!」
「なんで! あいつを強制転送させても死なないんじゃ!」
「これはある秘密結社の策略なんだ! 君はそれに乗ってはいけない!」
「策略って何すか!」
「合法的に君に殺しをさせることだ!」
「おれに殺しって。リアリスは強制転送させても死の部屋には転送されないんじゃ」
「どうなるかは分からない。ただ、彼のライフポイントがゼロになったら、何らかの仕掛けが発動して、彼を死に追いやる可能性が高い」
シンジが余計な事を言うなとばかりに、鋭い氷柱を神木に飛ばし、神木はその氷柱をトンカチでうまく弾いた。
シンジが叫ぶ。
「レン! 騙されるな! こいつらが君を嵌めようとしている! 僕が神木を攻撃して術を解かせるから、君はリアリスを倒すんだ!」
さっきは別人のようだったシンジ。そんなシンジと神木の会話についてはレンも聞いていた。しかし、内容はさっぱり分からず、どちらが敵でどちらが味方かレンは分からなくなっていた。
トマソンから、「あああっ!」という悲痛な声が聞こえた。
「レン! 急げ!」
シンジがレンに必死で訴えた。
「くっそ」
レンは訳もわからないまま、リアリスに向かって走った。
シンジがニヤリと気持ちの悪い笑いを浮かべて言った。「人間にはもう一度、神格化された存在が必要なのは分かるだろう。それを我々が創る。人を殺めるという罪を犯すことで、彼は深い闇に一度墜ちなければならない。そして、我々が彼に再び光を与える。彼はその光を得て神となる!」
さきほどの場所に戻ったレンは状況を確認した。傷ついたガジュマルをリンリンが介抱している。トマソンがリアリスに狙われている。ミーナは右太ももに大きな斬撃を受けたトマソンを回復させたいが、容易に近づくことができないようだった。
リアリスが無闇に咆哮している。そういえば、シンジがリンクストーンで誰かと会話したあとにリアリスがおかしくなったことをレンは思い出した。
「トマソン! タピスのお守りや!」
レンが叫んだ。トマソンは双剣を握ったまま、左手を腰の道具袋へつっこもうとした瞬間、リアリスによって左腕を切り飛ばされてしまった。
やばい! レンがそう思った瞬間、リアリスがまとっていた淡い闇が消えた。
「よし!」
レンは神木の術が解けたことを覚り、ヴォーパルソードを握りしめた。ライフポイントをゼロにしてもしばらく動くから何をされるか分からない。レンは確実にリアリスの首を斬り落とすことだけを考え、足で地面を蹴った。刹那、レンの目の前を何かがかすめた。レンは反射的に運動を止め、射撃物が放たれたと思われる方向を見た。菜月のボウガンだった。シンジの攻撃を必死で回避しながら、菜月も浩平もレンに首を横に振った。
仲間が殺されかけている。助けられるのは自分しかいない。それなのに、意図的ではないといえ、自分の人生を救ってくれた人物が首を横に振る。
リアリスがトマソンに向かって無情な斬撃を振り抜いた。
「うぐっ」
斬撃を受けたのはレンの背中だった。レンはトマソンに抱きついて、リアリスの攻撃からトマソンを守った。リアリスは足元がおぼつかず、その場に倒れ込んだ。
「レン!」
トマソンが心配そうにレンを見た。
「大切なヴォーパルソードをお借りしてますんで、これぐらいは」
「バカなこと言ってる場合か。ボクはいい、さっさと逃げろ」
「神木さんがリアリスを攻撃するなって。シンジはリアリスを倒せって……」




