ヒューノ
シンジが杖を下ろして、神木たちに近づき、口を開いた。
「どこで気付いた?」
「あんた、レンが馬乗りでリアリスを殴っていたとき、ちょっと顔をほころばせただろう。僕はそれを見逃さなかっただけだ」
神木も武器を下ろして、答えた。
「ほう。初めから我々が混ざっていることに気付いていたか」
シンジが不気味に口角を少し上げた。
「ここへ来る前、秀川にコソッと言われたよ。まあ、別にそんなこと言われなくても、僕は分かっていたけどね」
「我々をパーティーに誘ったのは罠か」
「ああ。他の子は断ろうとも、ヒューノのメンバーなら、必ずついてくると思ったよ。僕らの動向を押さえておきたいはずだからね」
神木の言葉に、シンジが鼻で笑った。
「顔をほころばせてしまうとは、私もまだまだ人間レベルだということか」
「人間をやっているんだから、そこは無理なんじゃない?」
「ああ、まあそうだな。ただ、現実はあれども理想は抱く。そうすべきではあるだろう」
「まあね。そこは否定しないよ」
「で、君たちの目的は?」
「この世界の正常化だよ。君たちが撒き散らしたウィルスの駆除だ」
「で、君たちの目的は?」
「はは」
今度は神木が鼻で笑った。そして、「とりあえず、なんのことだ? ってとぼけてみるよ」と言った。
「明るい未来プロジェクト。略して、AMP。日本政府が秘密裏に動かしている計画。我々がそれを知らないとでも?」
「末おそろしいね、ヒューノは。はじめはATPの類ぐらいにしか思ってなかったけど。でも、いまの言葉で確信したよ、AMPで検証したいくつかの案件がうまくいかなかったのは君たちヒューマン・ノーマライザーの見えない介入があったからだ。君たちのメンバーはアナザー社だけでなく、AMPの中にも入り込んでいると考えて良さそうだ」
「神木さん、あなたは頭が良い。ただ、色々思考を巡らせたところですべては無駄に等しい。君たちはずっと、我々の掌の上にいるだけだよ」
「だろうね」
神木は不敵な笑みをこぼした。
「だろうねって、おい」
浩平が神木にツッコミをいれた。
「で、アナザーの社員としての目的は分かったから、AMPの幹部としての目的を教えてくれないかな」
シンジは落ち着いていた。さっきまでの若くて青いシンジを感じることは難しくなっていた。
「AMPとしての仕事はここにはないよ」
神木が答えた。
「じゃあ、あまり考えたくはなかったけど、神木さん、君の判断ということだね」
「つれないことを言うなよ、僕だって僕なりにこの世界のことを考えている」
「この世界とは?」
「宇宙」
「やはり、あなたは頭が良すぎる」
「君たちだって大概だろう。僕並みの頭脳がなければ、仮想世界を犯せる程のウィルスを創り出すことはできない」
「神木さんだって、秀川が作ったこのエンターテインメントワールドが天にとって不要なものであることを分かっているだろう? それはそうだ。あなたは同じ仮想世界であっても秀川とは真逆のものを創ろうとしている。我々はあなたのヒト成長プログラムについては賛成の立場ですよ」
「なるほど。だから、今まで秀川以外に僕の開発を邪魔する人間はいなかったわけだ。しかし、そもそもなぜ秀川を消さない? 君たちならいつでも消せるはずだろう?」
「話がそう簡単では無いことぐらい、あなたが一番よく分かっているはずだ。それに彼も神木さん程ではなくとも頭は切れる。今の我々に彼を消せる力はない」
「まるで自分たちにまだ伸びしろがあるような言い方だね」
「もちろん。人間は成長していける生き物ですから」
「彼を取り込んで、ヒューノをさらに強化させるってこと?」
神木は親指で、レンを指差した。
「ふふ。やはり神木さんでしたか」
「ああ。彼はAMPには不要でも、日本、いや宇宙に必要な存在だからね。君らヒューノが言うところの天に必要な存在だ」
「AMPが彼を手放さないことに疑問を感じていました。君が彼をAMPに留まらせていた訳ですか。なるほど。なんて愚かな」
「いや、ほんのさっきまでヒューノが彼を狙っていたことに確証は無かったよ。君が顔をほころばせる瞬間まではね」
「彼を我々に譲って頂けませんか?」
「ふん、何を今さら。どうせ無理矢理にでも取り込むつもりだろ?」
「残念です。あなたは我々と目的地は同じでも、そこに向かうまでの道のりは別の道がお好みのようだ」
シンジは神木にそう伝えると、左手で左耳に触れ、リンクストーンで誰かと会話をした。
「があああはああ!」
突如、リアリスが苦しみ出した。神木がシンジに「何をした!」と訊いても返事はない。




