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人間は神様に勝てない  作者: 永瀬けんと
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秀川取締役兼研究員代表

「うそだろ……」

 トマソンは開いた目も口も閉じない。そんなトマソンのことなど気にもかけず、おれは身体中に充満した喜びを力いっぱい表現した。

「うおっしゃあああああ!!!」

 力の限り胸のまえで両拳を握りしめて叫んだ。

「たった二ヶ月で二つも……」

 トマソンの顔に強烈な嫉妬心が浮かび上がる。

「さいっこおおおおおおおおおおおおお!!!」

「ボクは一年以上いるのに。一回もそんな体験したことないのに」

「日頃の行いってやつだよ、トマソン君」

 もう、にやけた顔を元に戻す方法を忘れてしまった。

「うそだ! ボクは善良な一般冒険者!」

「いやいや、シールド・アイアス転売するとか曲がった気持ちで溢れてたし」

「君は聖剣アロンダイトに続いて、シールド・アイアスまで……」

「ほんま最高。たった二ヶ月でもヒーローになれるとか、めっちゃええシステムやわ」

「ああ、せっかくだし、ボクから何かお祝いさせてくれよ」

「なんやねん急に。そりゃ祝ってくれるのは嬉しいけど」

「ジャイアントアントのかぶと焼き」

「いるかボケ!!」

「しかも二つ、ご馳走してあげる」

「トマソン。目がマジでこえーから、いったん落ち着こう。どうどうどう」

 おれが背中を軽く叩いてやると、トマソンはガックリ肩を落として小さくなった。

 そんなトマソンには悪いけど、おれはまたこらえきれずに青空に向かってガッツポーズを何度もして、「しゃー!!」と何度も叫んだ。

 運だけで。運だけで仮想世界ではヒーローになれる。才能を含む、持って生れたものとかいう不平等を作り出す元凶は仮想世界にはない。神が創った土台自体が不平等を作り出すシステムであるのに、人間がどれほど平等になるよう頑張ったところで、結果はご覧のありさま。成功者に対して、さも努力とかそういう美的解釈を施したくなる人種に吐き気がする。マイナスをもって生まれてきた人間たちはすでに詰んでいるんだ。強者とか勝ち組とか時代によって名前を変えていく成功エリアは、おれたちには一生辿り着くことのできない蓬莱山(ほうらいさん)なんだ。それが仮想世界では、運だけで辿り着くことができる。誰に対しても平等に成功エリアが開かれている。



「秀川代表、想定外の事象が」

 アナザー社、VRオペレーションセンター。略してVOC。仮想世界に関する企画、営業からシステム開発、運用、保守までのすべてを担当している組織がある研究所。昨年度、VOC内の従業員数は千人を超えそうだということで、急遽、五階建ての研究所のとなりに十階建ての新社屋が建てられ、所在地名もVR研究所からVRオペレーションセンターへと変更された。VR市場拡大戦略部、VR営業部、VR研究開発部、VR運用監視部、VR保全部。これらの部で構成された組織はそれぞれが取締役兼研究員代表である、二十八歳の秀川の下でうまく機能し、仮想世界市場はアナザー社を先頭に破竹の勢いで成長を続けていた。

「次は何だ」

 秀川はメールを読んでいたPCから目を離し、眉をひそめた幹部研究員の顔を見た。

「複数のコンテンツ内にてブラックアウト現象が出ております」

「ブラックアウト現象? そんなもの、神木のワールドじゃあるまいし、出る訳ないだろう」

 整ったショートヘアの好青年である秀川は二十三歳年上の幹部研究員に言った。

「そのはずなのですが」

「サービスに影響は?」

「ほぼありません」

「根拠は?」

「直径一センチほどの球体が各コンテンツに一つあるか無いかという程度で、誰かがその部分に触れたり通り過ぎたりすると消えてしまうことを確認済です」

 幹部研究員の言葉に秀川は腕を組んだ。

「小さいし、数も少ない」

 幹部研究員は秀川に近づいて小さな声で、「やつらでしょうか」と言った。

「いや、何でもすぐにやつらと結びつけるのは良くない」

「すみません」

「かといって、そのことを含めながら調査は進めるべきだが……」

「やつらはどこに潜んでいてもおかしくはありません」

「それを利用してビジネスに推進力をつけてきた。しかし、やつらの目的がいまいち不明な以上、いつ状況がひっくり返されるかも分からない」

「神木副代表に調査依頼を出しますか?」

「ダメだ。あいつがやつらの仲間である可能性は捨てきれていない。あいつは科学者のくせにたまに非科学的なことを言い始める」

「では、私ひとりで調査を進めます」

「いや、今回は私が対応しよう」

「秀川代表が?」

「君は研究員たちと距離が近い。色々とやつらの監視の目も多いだろう。今回の件は不可解な点が多い。もしかしたら、何か最悪な事態の前兆かもしれない。私が直接対応し、早期に原因を突き止め、対処方法を確立する」

「しかし、秀川さんには他に対応しなければならないことが山ほど」

「いや、この件は最優先で対応したほうが良いだろう。他の案件を無にする可能性がある。未確定とはいえ、そんなリスクは潰しておくべきだ」

「了解いたしました」

「本件で取得したデータは例のフォルダの中か?」

「ええ。念の為、秀川代表が許可した者しかアクセスできないところに入れております」

「分かった。君は引き続き、仮想世界の安全確保に努めながら、本件に関するデータをそのフォルダへ置いていってくれ」

「承知いたしました」

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