嫉妬
「ぐっ」
吹っ飛ぶおれに、リアリスが近距離で盾を投げてきた。ヴォーパルソードでなんとか受け流したものの、腕への衝撃が強くてさらにライフポイントを奪われた。地面に足がついたものの、体勢は崩れたまま。リアリスは間合いを詰め、横一閃でおれの首を狙ってきた。間一髪なんとか上体を反らしてリアリスに空振りさせたが、横っ腹に思い切り蹴りをもらってしまった。
また身体が飛ばされる。おれは地面にヴォーパルソードを突き刺して、飛ばされていた勢いを止め、体勢を直した。
視界が少し赤い。いまの蹴りでだいぶ削られ、おれのライフポイントが半分を下回ってしまったようだ。
「レン!」
ミーナが心配そうに呼びかけてきた。回復魔法の詠唱。ミーナが長めに唱えている。
「おい、コラ! オレらの戦いにちゃちゃ入れるんやったら、お前からいてまうぞ、聖魔法使い!」
リアリスに怖気づくことなく、ミーナは詠唱を続けた。このままではいけない。おれはミーナに向かって言った。
「ミーナ! やめてくれ!」
ミーナは詠唱を止め、悲しい顔をした。
「おれは大丈夫やから」
死神の息吹が届く距離。足がすくもうとも、おれは笑顔でミーナに嘘をついた。
リアリスに視線を戻す。おれのことを見つめては来るものの、筋肉に力が入っていない。どうやら、すぐに攻撃を仕掛けて来る様子はない。ただ、おれが道具袋から回復アイテムでも出そうものなら、全力で阻止してくるだろう。試しにおれは腰の道具袋に左手をつっこんでみた。
神速からの、斜め振り降ろし斬り。リアリスのアロンダイトとおれのヴォーパルソードがぶつかって火花を散らす。おれは技でアロンダイトを弾き飛ばし、リアリスの体勢を崩すことに成功した。聖騎士スキル一つ、ソードパリィ。うまく作った隙きを活かすべく、連続攻撃技を発動させた。バイタルシュートからの上下二段薙ぎ払い斬り。おれはリアリスに向かって剣を突き出して疾走し、肩に一撃を与えたあと、今度は自分の体を回転させてリアリスの顔と胸、腹と太ももの計四箇所に斬撃を放った。
胸への斬撃が運良くクリティカルヒット。リアリスのライフポイントを大きく削ることができた。
ゲームの仕様上、技は連続で二回までしか発動できないため、おれは一旦後ろに下がる。それを見たリアリスが今度は自分のターンと言わんばかりに攻撃準備を開始。盾を地面に落としたあと、アロンダイトに氷をまとわせてフェンシングのフルーレのように先を尖らせた。
嫌な攻撃が来ると思った。斬るではなく、刺す。現にリアリスの構えはフェンシングのそれになっている。攻撃重視。盾があれば有利に事を運べる確率が高いが、おれの盾は数メートル先の地面に置かれたまま。取りに行く隙きを与えてくれそうもない。せめてアイテムぐらい使えないものかとおれは考えた。ここで回復できれば。そんな淡い期待を抱いた。
リアリスはじりじりとおれとの間合いを縮め始めた。どうやら、突進攻撃のカウンターを避けたいようだ。今、近づかれるとリーチの長いリアリス側に分がある。しかも、連撃で攻めてくるつもりだろう。盾の無いおれではしのぎ切れない。おれはリアリスに近づかれないよう、後ずさりをした。
「逃げんのか」
リアリスの挑発に乗る気はない。
「ああ、逃げる」
「腰抜けが」
「ああ、腰抜けや」
おれの返答に、リアリスは不敵な笑みを浮かべた。
「お前にええ事、教えたるわ」
リアリスが前に詰める。おれは後ろに下がる。
「お前がおれに嬉しいことしてくれたことなんてあれへんやろ」
「まあ、そないカッカすなや」
気味が悪かった。おれを精神的に揺さぶるつもりか?
「なんやねん、一応聞くわ」
リアリスは剣を構えたまま、足を止めた。
「お前はオレをずっと攻撃してた」
「はあ?」
おれはリアリスが何を言い出すのかと思った。
「だから、俺はムカついてずっと攻撃してた」
全く身に覚えがない。おれは首を傾げた。
「全く身に覚えが無いって面やな。それがまたムカついてくるで」
「おれはお前に何もしてへんわ。おれの霊感が強いところがキモくて、お前が一方的にいじってくるんやないか」
「ああ、半分はな」
「半分?」
おれが眉をひそめた瞬間、リアリスが一気に神速で間合いを詰めてきた。ただ、距離を縮めに来ただけ。攻撃は無い。これではこちらからカウンターを狙えない。下手に手を出して、こちらがカウンターを受けかねない。
「大池や」
リアリスは剣を構えたまま、おれにだけ聞こえる声で話してきた。




