戦う
運営会社に自分に起こっている不具合を報告しようと思ったことは何度もある。レベル八になったのは、ストファンを始めてから三日ぐらいしか経っていないときのこと。今から考えれば、そんな短い時間をなぜ捨てられなかったのかと思う。ただ、当時はおれにとってその三日でさえ今まで生きてきた十七年間よりもかけがえのない時間だった。その時間を捨てることになるかもしれないなんて、おれにはできなかった。
「レンが殺されて、あいつが僕らを殺さないと思うか? 君のことを突き落とすことがあいつの真の目的なら、僕らのことも殺すに決まっているだろ」
シンジの言っていることは間違いない。田中大和ならやりそうなことだ。おれはシンジにうなづいてみせた。
「あいつは自分がこれからすることを分かっていない。本当に誰かが死ぬかもしれないんだ。僕の命なんて安いもんだ。でも、ミーナみたいな尊い命もたくさんある」
シンジは視線を落とした。左目から清んだ滴が落ちて、乾いた土がそれを飲み込んだ。
「ちょっと休んどいてくれ」
おれはシンジの肩を叩いて、立ち上がった。
ミーナが懸命にシンジを回復させている。リアリスのほうを見ると、仲間がそれぞれに手傷を負いながらおれたちにリアリスを近づけないよう、必死で身を挺してくれている。おれは情けなかった。みんながこんなにも傷つかないと自分は本気になれないのかと思った。おれは叫んだ。力いっぱい。胸から込み上げてくる感情を抑えることができなかった。
おれはリアリスをロックオン状態にした。普通はモンスターにしか使えない機能がおれには出来てしまう。
鞘に収まったヴォーパルソードが怪しい光をまとい始めた。おれがヴォーパルソードを鞘から抜くと、リアリスのホログラムが目の前に現れた。
抜剣、大上段からの真っ向振り下ろし。リアリスの左腕を地面に斬り落とした。
おれは舌打ちをした。異変を気づかれ、リアリスに回避されてしまった。本当は顔面から真っ二つにするつもりだった。
リアリスの左腕が地面の上で消滅する。仲間のみんなは何が起きたか分からない様子で、その場で状況を確認している。だから、おれはみんなに向かって言った。
「あいつはおれが強制送還させます」
おれはリアリスをにらんだ。
「ぜってぇー殺す」
リアリスも鋭い眼光をおれに向けた。
神速で一気に距離を詰めてくると読んだおれはすぐに盾を構えて、突進攻撃に備えた。
予想通りの動き。剣と盾が交わる大きな金属音が辺りに響き渡る。
受け流しからの薙ぎ払い斬り。リアリスの胸に届いたが、与えた傷は浅い。おれはまだ残っていたリアリスのホログラムにも斬撃を入れようとしたが、すでに攻撃が読まれているらしく、簡単に避けられた。
リアリスは少し下がるとアロンダイトを鞘に収め、回復薬を道具袋から取り出して使用した。リアリスの左腕が光に包まれながら再生していく。
「レン!」
ガジュマルさんが黒い玉をおれに投げてきた。さっきおれが使い果たしてしまったレアアイテムの上等玉。
「いまのおれに出来るのはこれぐらいだ。お前がなぜアイツに攻撃できるのかは後で訊く」
おれはガジュマルさんにうなづいてみせたあと、「あざす」と言って上等玉を腰の道具袋にしまった。
リアリスの左腕にシールド・アイアスが輝いていた。どうやらおれの攻撃を警戒して道具袋から取り出したようだった。おれのシールド・アイアス。リアリスの左腕を盾ごと引きちぎってやりたい気持ちになった。
「こいよ」
リアリスからの挑発。攻めたい気持ちはやまやまだが、聖騎士の戦闘スタイルはカウンター。おれはじりじりと間合いを詰めて、向こうから仕掛けてくるのを待った。
アロンダイトの淡い光。激流が来ると思ったおれはワイドプロテクトを発動させて、衝撃に備えた。
激流が来ない。おれは盾越しにリアリスを確認。すでに剣はこちらに向けて技を発している。ヒンヤリとした感覚。グレートシールドが凍ってきている?
嫌な予感がしたおれは直ちにワイドプロテクトを止め、グレートシールドを放棄して間合いを取った。
放棄したグレートシールドの表面が氷に覆われている。あのままあそこに立っていれば、おれは凍らされて機動力を失い、リアリスに切り刻まれていたかもしれない。
左から人の気配。神速からの中段突き。間一髪避けはしたが胸をかすめて、鎧が一部砕けてしまった。リアリスはそこから無理な体勢で回転切りを仕掛けてきた。剣道でいう、三所隠しでおれはそれを防いだあと攻撃に転じたが、さらにアイアスクラッシュを発動されて、おれはダメージをもらってしまった。




