シンジ
おれを呪われた力から解放してくれるのではないかと期待した大阪都立大学の研究員からは「君がうちに残ることはないやろなあ」と言われ、母親と親父にもそれが伝えられ、家に帰るとがっかりした二人の顔が待っていた日のことが頭に浮かんだ。母親も親父もおれをどこかで化け物だと思っていた。大阪都立大学がもしかしたら、子どものおれをまともに戻してくれるかもしれないと期待していたんだと思う。親にも忌み嫌われる化け物は消え失せるべき存在なんだろう。
もちろん本当に死ぬんだったら、さっきみんなを助けて死にたかった。でもおれはどうもそういう星の下に生まれてはいないらしい。一番殺されたくない相手に殺される。それがおれの最後のようだった。リアリスこと田中大和はおそらくウィルスのせいで緊急アナウンスのことを知らない。だから、ゲーム上のおれが三時間前に戻されるだけで、本当におれが死ぬことを分かっていないだろう。でもそれでいい。すべてが終わった時に、このアホに人を殺してしまった罪悪感を与えるのもいいだろう。
おれはヴォーパルソードを地面に落とした。
リアリスは口角上げた。神速で近づかれ、おれは自分の愛剣アロンダイトで貫かれると予感して、目をつぶった。
バカ! とか 何してんだ! とか仲間から聞こえたがすぐに静かになった。
「戦えよ……」
ふと誰かの声が前方から聞こえてきて、おれは目を開けた。
「シンジ?」
おれの目の前にはリアリスにアロンダイトで胸を貫かれたシンジがこちらを向いて立っていた。
「ケッ」
リアリスはつまらなそうにシンジの背中を蹴飛ばして、アロンダイトを引き抜いた。
ぐったりとシンジが抱きつくかっこでもたれかかってきた。おれはすぐに両手でシンジを支えて、「なんでやねん」と言った。
「関西人ってこんな状況でも、なんでやねんって言うんだ」
シンジは冗談を言ったあと、すぐに咳き込んだ。
リアリスが剣を持ってこちらに近づいてきた。すると、すぐにガジュマルさん、リンリンさん、トマソンがおれの前に立ちはだかってくれた。
「アホなこと言うてる場合ちゃうやろ」
おれは急いでシンジを地面に寝かして、腰の道具袋からタピスのお守りを取り出し、シンジの手に握らせた。タピスのお守りが淡く光り始める。タピスのお守りが発動したということはシンジのライフポイントがゼロであったことを物語っていた。このゲームはライフポイントがゼロになっても首と胴体が繋がっていれば一分弱の活動時間が与えられている。そのため、最後の悪あがきが功をそうする場合も多い。
「消時の羽、使ったんか?」
おれが訊くと、タピスのお守りの光に包まれだしたシンジはゆっくりとうなづいた。
「おれみたいなやつに、もったいないことしやがって……」
ミーナも詠唱しながら駆けつけてくれて、すぐに回復魔法をシンジに施した。
胸の傷が塞がったシンジが上体を起こしておれの左肩を掴んだ。
「僕は知っている。君はあることを隠しながら、いつも戦っていた」
この状況ではもう惚けることはできなかった。
「ああ、やっぱり気づいてるやつがおったか」
インターネットで自分と同じ症状が出ている人間がいないか探してみたが、いなかった。自分が他の冒険者を攻撃できることを知ったのは初めてパーティーを組んだレベル八のとき。モンスターを切ったつもりが誤って仲間の指を切り落としてしまったときがあった。パーティーのみんなはモンスターの攻撃だと勘違いしていたが、おれはその時、間違いなく自分の攻撃で仲間のライフポイントを削ってしまったことを認識した。他の冒険者に攻撃を加えてしまったのは一回だけではない。誤って仲間を切ってしまう度におれはモンスターの攻撃のせいにしてなんとか今日までやってきた。
戦士はレベル十になると一部の職業へ転職可能となる。おれが聖騎士を選んだのも誰かを守りたいという崇高な動機ではなく、他の戦士系の職業に比べて攻撃回数が少なくて済むからだった。




