あいつだけ殺してーの
「あれ、おねーさん、俺と同じ剣じゃん」
リアリスは菜月が持つアロンダイトをじろじろ見た。
リアリスが剣の柄に力を込めるとアロンダイトが淡く青色に輝き始めた。
「菜月さん! 下がって!」
レンの声に菜月は後ろに引いた。すぐにレンは菜月の前に立ち、ワイドガードを発動させた。
リアリスの剣から吹き出した激流がレンの盾を襲う。レンはその場で踏ん張り、五秒ほどの激流攻撃に耐えきった。
「今度はお前の登場か」
リアリスは神速でレンに近づき、剣を振り下ろした。レンは腰のヴォーパルソードを抜き、リアリスの攻撃を受け止めた。
「やめるんだ」
レンは交わる剣越しにリアリスに話しかけた。
「あ?」
リアリスは剣を両手で持ち、力を込めて押し込んだ。
「君のその力のせいで、いま仮想世界全体がおかしくなっている」
レンはほのかに身体が温かくなった。どうやらミーナが筋力アップ魔法をかけてくれているようだった。
「はあ? クズがウソついてんじゃねーよ」
「ウソやない!」
レンは叫んで、剣を少し押し返した。
「なんやお前、こっちの世界やとえらい威勢いいやないか」
トマソンとリンリンが神速でリアリスとの距離を詰めて蹴りを入れようとしたが、やはりまた見えない壁によって阻まれた。
「なんでこっちだけダメなんだ」
トマソンは双剣で回転切りをしてみたがすべて見えない壁に弾かれた。
「俺はお前らと格がちゃうからな。俺は仮想世界へ逃げ込むお前らヒヨコどもに現実のキビシさを教えたる存在や」
レンによって剣を押し返えされたリアリスは、いったん剣を弾いて後ろに下がった。
「こんなことしてる間にも誰かに死の危険が迫っているかも知れない」
レンが真剣な眼差しでリアリスを見つめる。続いて「君がログアウトすれば、この世界は元に戻る」とリアリスに伝えた。
「まだ言うんかい。どこまで必死やねん。ていうか、その必死さを現実世界で出していかなアカンのちゃうんか」
リアリスはいぶかしげな目でレンを見つめ返した。
「レンが言っていることは本当だ」
神木がレンとリアリスの会話に割って入った。
「なんや、またチビッ子かいな。お前何者やねん」
「アナザー社の社員だよ」
「ウソつけや」
「君は僕の呪術師という職業を知っているかい?」
「呪術師……まあ、知らんな。確かにお前は変なかっこしとるわ」
「アナザー社の社員じゃなくても、これで僕が運営側の人間であることは君がよっぽど馬鹿じゃない限り分かるだろう」
「あー、そゆこと?」
「何だ」
「もしかして、オレが貰い受けたアロンダイトとシールド・アイアスを元の持ち主に返す的なやつか?」
「何のことだ?」
「あー、もーええから。臭い芝居見え見えやわ。ここで運営もろとも返り討ちにしたらおもろそーやな」
リアリスはノーモーションから神木に、斬りかかった。今度はガジュマルがフライパンでリアリスの剣を弾いてみせた。
「神木さん、こいつは話が通じる相手じゃねーよ。ゲームマスター的な権限で強制ログアウトとかできねーのかよ」
ガジュマルはリアリスの次の攻撃に警戒した。
「さっきも言ったが、あいつのヘッドギアにはウィルスによるプロテクトがかかっている。我々にはどうすることもできない」
リアリスは構えていたアロンダイトを下ろした。
「あーもう分かった、分かった」
リアリスはアロンダイトを鞘に収めて、神木に近づいた。
「なんかめんどくさくなってきたから、オレの一番やりたいことだけ言うわ」
リアリスがそう言うと、神木が「それは何だ」と訊いた。
「俺はあいつだけ殺してーの。それが終わったら、ログアウトしたるわ」
“俺はあいつだけ殺してーの”
リアリスが指をさした先はおれだった。
おれは目を見開いてしまった。しかし、ふともう十分だろうという気持ちも芽生えた。




