戦闘開始
琴平涼は田中大和のとなりの中学校に通っていた。それでも田中大和は琴平涼のことを知っていた。琴平涼と同じ小学校に通っていた友達から琴平涼が死んだ人間が視える気持ち悪いやつだということを近所で琴平亮を見かけたときに聞いていたからだった。
大阪都立大学は依然“カリスマ性の研究”と言い張っていたが、田中大和自身はそうではないことを見抜き始めていた。もちろん、大学入学の話が消えるのを避けるために気づかないフリはしっかりしていた。
“未来が視える力”
田中大和は自分にはそれがあり、大阪都立大学がそれを欲していることに気づいていた。研究員から「やっぱり君はすごいな」という言葉が漏れる度に田中大和は自尊心を蓄えた。同時に琴平涼という人間が落ちこぼれであるという認識を高めた。
梅田のスクランブル交差点を一人で歩いていた琴平涼は、間違いなく大阪都立大学の研究室からの帰りであると田中大和は思った。そして、琴平涼の能力である死んだ人間が視える力がただのガラクタであると理解した。
琴平涼と同じ高校へ通うようになった当初、田中大和は琴平涼と関わる気なんてさらさら無かった。しかし、想定外のことが起こってしまい、田中大和は赤い感情を琴平涼に向け始めた。
初めはいたずら程度で終わらせるつもりだった。人間は排除すべき対象を認識してしまったとき、とことんその対象に攻撃を加えるように出来ているらしい。排除すべき対象を攻撃しているときに快楽を得られる機能。排除対象が弱体化していくのを見て安心する機能。そして、排除対象の存在が大きくなると不安や恐怖感が増す機能。脳は間違った動きをしない。種の保存のために、田中大和の脳はいまだなお、正しい動きを続けていた。無意識ではなく意識のほうによって創られた現代社会が排除対象とその排除行動次第で罪と位置付けられるようになったことも知らずに。
「殺してー」
田中大和ことリアリスは目を開けて、作り物の空を見た。胸の痛みがあの日から消えない。選ばれた人間、学校カーストではすでにトップの人間、社会カーストでもトップに君臨する人間。そんな人間を苦しめるアリんこは踏み潰されて当然だとリアリスは思った。
複数人が近づいてくる足音。
「クズがそろいもそろって来よったか」
リアリスが上体を起こすと一時間前に視た光景と全く同じ光景が目の前に広がっていた。
リアリスは地面につばを吐き捨て、その場であぐらをかいてアロンダイトの柄を握った。
「わざわざ殺されに来たんか。人数増えとるし」
リアリスは首元を掻いた。レンのパーティーは誰ひとり帰ることなく、神木たちに同行していた。神木についていくと言ってきかないミーナが心配で結局レンもシンジも町へ帰らなかった。
「殺す? ストライクファンタジーは冒険者同士の戦闘ができないゲームであることも知らないの? 教えてあげようか?」
リンリンはリアリスを睨み付け、腰の双剣に手をかけた。
「いや、彼は」
神木は前に出ようとしたリンリンを制した。
「そこのチビッ子は分かってるようやな。脳筋女、命拾いしたな」
「誰が脳筋女よ!」
リアリスの言葉にリンリンは顔を赤くしたが、それを今度はガジュマルが「挑発だ。乗らなくていい」と言ってリンリンを落ち着かせた。
「他の仲間が見当たらねーけど?」
ガジュマルはリアリスに訊いた。
「お前らが遅すぎてハーバスのほうへ帰ったわ。今頃ログアウトでもしてんじゃねーの」
リアリスは立ち上がって、アロンダイトを地面から抜いた。
「ログアウト? 君はいま、この仮想世界が異常な状態であることを分かっているのか?」
今度は神木がリアリスに質問した。
「異常な状態?」
「緊急アナウンスを聞いてないのか?」
「緊急アナウンス? チビッ子、お前さっきから何言ってんだ」
「なるほど」
「もう話は終わりか?」
リアリスはそう言うと神速で神木に近づき、アロンダイトを振り降ろした。
ガキンという金属音が辺りに響きわたる。浩平は神速で神木とリアリスの間に入り、雷切でリアリスの攻撃を弾いた。次に体勢を崩したリアリスの腹に蹴りを入れようとしたが、見えない壁のようなものに阻まれた。
「おらよ」
体勢を立て直したリアリスが浩平の腹に向かって足を伸ばした。
「ぐっ」
腹に蹴りをもらった浩平は五メートルほどぶっ飛ばされた。
またガキンという金属音が辺りに響き渡る。今度は菜月とリアリスの剣が交わった。




