辞退
「さて、さっきでよく分かったと思うけど、僕たちはこのゲームの素人。だから、君たちに僕らの仕事を手伝ってくれないかというのを相談したい」
話の流れから、だいたい手伝ってほしいと言われるような気がしていた。みんなガジュマルさんを見た。ガジュマルさんは、静かに目を閉じていた。
「あなた方と行動するからと言って、危険が無くなるわけではないですよね?」
ガジュマルさんが目を開けて、神木さんを見つめる。
「ああ、申し訳ないが危険は伴う。僕ら運営側は、現実世界と仮想世界の両方から今回のインシデントを全力で対処している。仮想世界側の担当として、少しでも解決できる確率を上げたいというのが本心だ」
多分、ガジュマルさんの心にいま火がついた。ガジュマルさんの瞳にもともと宿っている精悍さがさらに増した気がした。
「みんなはどうする?」
ガジュマルさんがおれたちの顔を確認した。
「あんたが行くなら、アタシが行かないわけないじゃない」
リンリンさんが一番に答えた。
「いいのか、リン」
「ガジュマルのことだから、こんな危険な仕事をしている運営さんに感動してるんでしょ、いま」
リンリンさんの言葉にガジュマルさんは静かにうなづいた。
「もちろん、報酬はあるんですよね?」
トマソンがなんの躊躇もなく、神木さんに訊いた。
「もちろん、お礼は考えている。ただ、僕はゲーム運営社の人間ではなく、仮想世界そのものを管理しているアナザー社の人間だから、君たちの要望に添えない可能性があることは考慮しておいてほしい」
「なるほど」
トマソンは浩平さん、というか雷切をジロリと見た。いつもながらに分かりやすい行動。しかし、毎度のこと装備できないのにレアな武器を欲しがるのは何故なんだろうか。刀は剣と同じカテゴリーの武器。武術家が装備できるわけがない。
「ていうか、ゲームの運営社の人間がなぜここに一人もいないんですか」
シンジが神木さんに訊いた。
「契約さ」
浩平さんが横から答えた。
「契約?」
シンジは浩平さんに言った。
「ハザードレベルによって、アナザー社が仮想世界で活動しても良い人間を絞っているんだよ」
「もしかして、今回はかなりヤバめってことですか?」
「俺たちが来ている時点で、そうなるね」
浩平さんが片方の口角を上げて、鼻の下を軽く擦ると、菜月さんが「いや、そこドヤ顔するとこじゃないから」とすかさずツッコミを入れた。
「僕はやめておきます」
シンジが言った。
「おれも、やめときます」
おれも言った。シンジが辞退した理由はミーナだろう。シンジはこれ以上ミーナを危険な目にあわせたくはないはず。ムダかも知れないが、自分がやめると言えばミーナも一緒にやめるかもしれないと思ったんじゃないかと思う。残念ながら、おれが下りた理由はシンジみたいにカッコよくはない。今回の問題を起こした張本人は恐らくリアリスこと、田中大和。おれの一番の望みはアイツを成敗することではない。アイツと無関係になりたいという思いが一番強い。おれの望みは学校でひっそり過ごして、仮想世界で幸せな時間を過ごすこと。おれの人生にアイツはいらない存在で、接触する必要は全く無かった。
ガジュマルさんと目があった。寂しさというのか慈悲というのか、そんな感情が籠もっている様子でおれの判断に理解を示したように小さくうなづいてくれた。
「ボクは行くよ」
トマソンが胸を叩きながら言った。もしかしたら、優しいトマソンは何も言わずおれのアロンダイトとシールド・アイアスを取り戻してくれるのかもしれない。そんなことを考えると、おれは行ったほうが良い気がした。さっきの敗北感がふとよみがえる。リアリスを目の前にして、言われるがままになっていた自分。また、足がすくみ出した。想像レベルでこれでは、やはりリアリスにまた会うことは到底ムリだと思った。




