神木が来た理由
リンリンさんが干将・莫耶を抜刀した。双剣は陰と陽をそれぞれ司っており、例えば空気の生成と消滅を繰り返すことで、ちょっとした大気の渦を作ることができた。
「ミストは私が吹き飛ばします」
リンリンさんはそう言って、身体をスピンさせながらミストの中へ入ると、ミストはすぐに飛散し、敵の攻撃を無効化させた。
神木さんの呪術が再び発動して、モンスターの動きを止めた。チャンスとばかりに菜月さんと浩平さんが再び十文字にモンスターを切り飛ばした。二人とも動きにムダがなく、判断も早い。特に菜月さんの動きはどの冒険者よりも優れているように思えた。リンリンさんが菜月さんに握手を求めた理由が分かった気がした。初めは有名人か何かと思っていたがそうではなく、戦闘好きのリンリンさんは相手を落とすためだけのムダが削がれた動きに惚れたんだと思った。
モンスターは電気を帯びながら四つに分かれ、受けた聖水攻撃によって溶けて消えた。
戦闘終了の電子ウィンドウが各自の目の前に現れた。おれのウィンドウが黄色くなっている。どうやら、レベルが七十一に上がったようだ。とうとうレベル七十一……不謹慎にも叫んで飛び上がりたい気持ちになったが、今回は拳を握りしめるだけにしておいた。そんなおれのことを見ていたガジュマルさんが、「無事に街へ帰れたらなんかおごってやるよ」と兄貴面して言ってくれた。
「ご覧のとおり、僕らはこのゲームの素人なんだ」
呪術を解いた神木さんが、おれとガジュマルさんに言った。
「どうやら、そのようですね」
ガジュマルさんがそれに応えた。
戦闘が終わって再びみんな一箇所に集まった。神木さんはまた敵に襲われたら面倒くさいからと言って、わら人形を地面に寝かせると、その人形の胸あたりに釘をトンカチで刺し込んだ。おれたちは淡い紫色の光に包まれた。神木さん曰く、モンスターと同じ気配になるらしく、一時的にモンスターが襲ってこなくなる呪術とのことだった。
浩平さんと菜月さんがレアな回復アイテムをホイホイと出してくれた。中には魔力を全回復できるものもあり、ミーナとシンジはその水を手に浴びせて魔力を回復させた。
敵が襲ってこないということで、おれたちはその場に座り込んだ。久しぶりの安堵感に思わずため息が漏れる。他のみんなも同じようで、それぞれ深く息をついていた。
「そういえば」
おれはあることを思い出した。
「なんだ、レン」
ガジュマルさんがおれを見た。
「おれ、上等玉割ったのに、身体が臭くなってない」
「ああ。それかよ。お前、俺のおにぎり食ったじゃねーか」
「おにぎり? ああ、そう言えば」
おれはみんなでガジュマルさんのお弁当を食べたときに、効能を秘密にされた苦いおにぎりを食べたことを思い出した。
「じゃあ、いいかな」
神木さんの言葉に、おれは「あ、すみません」と応えると神木さんは再び話し始めた。
「僕たちがここへ来た理由から伝えると、君たちも緊急アナウンスで知っての通り、自宅にあるヘッドギアから入るこの仮想世界がおかしなことになっているからだ。身体が転送されるようなことが起こると、ユーザーの意識が現実に戻らず、かといって仮想世界にもいなくなってしまう。ただ、僕たちの推測では仮想世界にいなくなったんじゃなくて、仮想世界のどこか別の場所に閉じ込められているんじゃないかと考えている」
「もしかして、コンテンツゲート?」
おれが思わず口にすると、神木さんは「いや、それは違う」と言った。
「今はまだエビデンスが取れていないから、確定ではないんだけどね。そして、調査を続けていると、あるユーザーがログインした直後ぐらいからおかしなことになっていることが分かった。そのユーザーはこのゲームの世界であり得ない職業でプレイしていることが先ず分かり、僕たちはそのユーザーが今回の犯人なんじゃないかと目星をつけた。それで、ストライクファンタジーなんて何も知らない僕たち三人はムリヤリこの世界に入らされて、なぜかミスター秀川ヤローは超安全な現実世界でトラブルシュートを続けているという。だいたいこういうことになるから、僕はオープン化に反対だったんだ。それなのに、あの何も分かっていない秀川なにがし君がビジネス優先でなんでもかんでもを考えているから、こんなか弱い僕たちはモンスターがウヨウヨいるキケンな世界に駆り出されるハメになって、」
「おい、なんか話が脱線し始めてんぞ」
と、浩平さんが冷静なツッコミを入れると、神木さんは「あ、つい」と言って話を戻した。




