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人間は神様に勝てない  作者: 永瀬けんと
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不思議な感覚

「えーっと、ポンコツのみなさん、この(あし)の原っぱはこうやって攻略するんすよ」

 おれたちの背丈以上あった(あし)たちは見事に刈られ、今まで(あし)の原っぱに隠れて見えなかった山の麓がしっかり見えるようになっていた。これなら、(あさ)の原っぱを安全に通ることができ、十分も歩けば、山の(ふもと)につくことができると思われた。

 上から目線のリアリス。おれたちはもう誰も何も言わない。リアリスとおれの言動に気味悪がってか。あるいはこれ以上想定外のことばかりするリアリスたちの矛先が自分自身に向けられるのが恐くてか。ミーナは視線を落とし、リンリンさんは腕を組んで眉をひそめていた。

「何やねん、せっかく価値のある情報をくれてやったってのに、だんまりかよ。まあ、現実から逃げ回っている(はい)ゲーマーどもなんてこんなもんか」

 リアリスはあっち向いてホイで遊び始めていたシュー太郎とソウルナイトを呼んだ。

「おい、お前ら行くぞ!」

「マジで? ストファンまだやんの?」

 シュー太郎は小指で耳の穴を掻いた。

「せっかくやし、トップらでも攻略できてねーこの奥がどんなんか見に行こーや。あの青い悪魔とかうじゃうじゃおるらしいで。どうせお前らヒマやろ」

 リアリスは親指で山の(ふもと)を指しながら言った。

「あー、まあ、ヒマっていうのは否定でけへんね。しゃーない、大和先生に付き合ってあげますか」

 シュー太郎はリアリスの「ばーか、リアルの名前出すんじゃねーよ」という言葉を無視して軽く伸びをしたあと、「で、お前はどうすんの?」とソウルナイトに()いた。ソウルナイトが「まあ、俺もヒマやし」と答えると、二人はリアリスとともに、べらべらしゃべりながら、山の(ふもと)のほうへと向かっていった。

 ガジュマルさんもリンリンさんも下を向いたまま何もしゃべらない。シンジは両手で口を押さえていたミーナに「どうしたの?」と()いている。

 おれは、おれはと言えば、右手から剣を失って、左手から盾を失って、心の中にあった優越感とか希望とか、戦う気持ちとか、あと言葉で表せないいくつかの感情とか根こそぎ悪魔に奪われて、世界が灰色になっていくのをただ立って見ていた。

 ぽっかり空いた穴に流れ込んでくる大量の惨めな気持ち。現実世界では慣れっこのはずなのに、仮想世界で体験するとズキズキという痛みが何倍にも感じる。いや多分、これはいままで安全だった仮想世界もそういう世界じゃなくなったってことが激しい痛みの原因になっているのかも知れない。

「ほら」

 トマソンがおれの右手に剣を握らせた。

「ヴォーパルソード?」

「ああ。ジャバウォックを千七百六十三回倒してやっと出たやつ」

「あの厄介な敵をそんなにも? ていうか、武術家に剣は装備でけへんやん」

「動画のネタになるし、ジャバウォックはボクのレベルなら一人でも倒せるし、レアアイテムハンターとしては努力で手に入れられるものなら努力は惜しまないよ」

「はは」

 不思議な感覚。

「アロンダイトが返ってくるまでの間、貸してあげるだけだからね」

「ええの?」

 回復魔法をかけられているわけでもないのに。

「利子分の返しは期待しているよ」

「お、おう。ありがと」

 痛みが和らいでいく。

「ほれ」

 今度はガジュマルさんがグレートシールドを差し出してきた。

「あ、いや、」

「俺も貸してやるだけだ。まあ、料理人に転職した俺の盾はこのフライパンだし、それはもう必要ねーんだけどな」

「す、すみません」

「謝ることねーよ。お前が悪いんじゃねえ。悪いのはさっきのクソ野郎どもだ。俺たちのいい感じの空気感までぶっ壊しやがって」

 ガジュマルさんの目に精悍(せいかん)さが戻っている。

 おれは左腕にグレートシールドを装備した。おれが知っているグレートシールドより軽い。顔が広いガジュマルさんは、おそらくレベルの高い鉄鋼師(てっこうし)の知り合いに鍛え直してもらったのだろう。

「いいグレートシールドっすね」

「だろ? 特別製だぜ?」

「さすがガジュマルさんっす」

 まだ、心の中に惨めな気持ちはたくさん残っている。痛みもまだある。だけどおれは歩ける気がした。(あらが)うことができない悪魔を目の前にして、硬直していた足を再び動かせそうな気がしてきた。

 そんな時だった。それは突然だった。

 みんなの耳につけているリンクストーンが赤く点滅し、ストライクファンタジーの運営者から緊急のアナウンスが入った。

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