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人間は神様に勝てない  作者: 永瀬けんと
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トマソン

「トマソンも今日、セレクション?」

「もちのろん。まあ、千人にひとりぐらいしかあたらないとか、確率低くてゲロ出そうだけど」

「ちなみに今日ってシールド・アイアスやん? 盾が装備できない武術家にいるか?」

「ボク、サブで戦士やってるから」

「レベルは?」

「三」

「低っ! せめて三十ぐらいいってからサブって言えよ!」

「いーや、サブはサブだ!」

「シールド・アイアスゲットしたら、オークションで大金を手にいれるおつもりやろ」

 おれは目をじとっとさせた。

「バカをいうな! ボクをそんな(やから)たちと一緒にするな。ただ、干将(かんしょう)莫耶(ばくや)がほしいだけだ」

 予想通りの過剰反応。

「武術家が装備できる最強クラスの双剣……やっぱ大金を手にいれる気マンマンやんけ……」

「いまオークションで一億アーレで出てて……」

「一億!」

「課金でも一億とか絶対無理なわけで」

「一億アーレって、課金で買うなら一億円……。もし課金で買うやついたら、顔が見てーわ」

 おれは目を丸くした。

「レン」

「ん?」

「セレクションまで時間あるし、市場で軽くお腹を満たそうぜ」

「お、ええやん。いこう」

「よし、今日はおすすめのジャイアントアントのかぶと焼をご馳走しよう」

「絶対いらん、蟻の頭とかキモすぎ……」

 トマソンの変食家ぶりにはいつもビビる。

「いやいや、これが結構うまいから」

「ひとりで食うてくれ!」

 レンは本名ではない。ストファンの時だけ使っている名前だ。本名を名乗ってそうなやつらもいるけど、ほとんどがキャラ用ネームを使っている。本名を使っているのは、この仮想世界を現実世界の延長だと考えているんだろう。信じられない。悪臭漂う現実を身にまとってこちらに来るとか、心の底から楽しめないに決まっている。多分、おれも多少は汚れを持ってきてしまってるとは思う。浄化。そう、その汚れはすぐに浄化される。仮想世界に入ったときから、おれの細胞ひとつひとつが洗練された空気によってきれいになっていく。

「やっぱお前はこれか」

 背の低いトマソンがおれのお気に入りを指差した。

「炭火で焼くとなんでこんなに香ばしくなるんやろな」

 火食鳥(ひくいどり)というモンスターの焼き鳥。特製のタレに浸けられたその赤めの身は歯応え抜群で、噛めば噛むほど旨みが(にじ)み出ておれの舌を(よろこ)ばせてくれる。

「三本下さい」

 一本百二十アーレで三百六十アーレ。おれの口は勝手に動いて店主に注文した。

「あいよ!!」

 頭つるつるのいつも元気なおやっさんが威勢よく応えてくれる。

 和紙に包まれた熱々の焼き鳥を渡され、タレでツヤッツヤになった肉をがん見する。立ち上る(かぐわ)しい匂いにやられ、やっぱりすぐに一本目を口に放り込む。

「おやっさん! うめー! 超うめーよ!!」

「へへ。にいちゃん、いつもありがとな!」

 おやっさんからこぼれる笑顔。これがまた不思議な調味料となって焼き鳥の旨味が増す。

「焼き鳥王子」

 トマソンがテンションマックスのおれの肩を叩いてきた。

「ん?」

「なんか、レンの財布、超薄く見えるんだけど」

「ああ。えーと」

 おれは自分の布製の財布の中身を確認した。千二十三アーレしか入っていない……。

「うげっ」

「貧乏くん。今度、アガルド族討伐にでも行こうじゃないか」

 ぼっちゃん。やっぱりトマソンはぼっちゃんって言葉が似合う。幼い見た目から、成り金な雰囲気から、いかにもぼっちゃんだ。トマソンのことを心の中でこれからぼっちゃんと呼ぼう。トマソンの現実での姿は知らない。あえてこの姿を選んでいるのか、それとも現実のままなのかは不明。おれは百八十超えの身長と爽やかそうな青年男子にしたから、ある種、トマソンがすごい人間に思えた。

 アーレを手にいれる方法は二つ。現実のお金を課金するか、お金を持っているモンスターを倒すか。アガルド族はアーレを多く持っているので有名。ただし、強い。レベル七十のおれでもひとりでは倒せない。レベル七十以上の五人パーティーを組む必要があるし、組織的に戦ってくるモンスターなので倒すのにもコツがいる。

「アガルド族、おれまだ倒したことあれへん」

「うっそ」

 最近レベル七十になったばっかりで、アガルド族はレベル七十なってから倒しに行こうと思っていた。

「しかし、ストファンやりだしてたった二ヶ月ぐらいなのに、もうレベル七十とかやばくね」

「遅れを埋めたかったから」


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