怪しげな三人組
おれはミーナの様子がおかしいというシンジの言葉が気になりはじめた。やはり、あの日の時計台でのことが……いや、そんなことはない。あんなこと、ミーナにとっては大したことではないはずだ。いつも通りのミーナがそこにいる。おれと目が合うと笑いかけてくれるし。まあ、さっきセイントシャワーしてくれたときは確かにいつもと違っていた気がする。でもあれは良い意味で違ってた可能性もあるわけで……つーか、やっぱり今日はシンジの野郎が独占状態で、おれ自身はミーナの声をあまり聞けていない。ミーナがおかしいんだったら、シンジの野郎が何かミーナの気を触るような言動をしたに違いない。あの野郎はそれを棚に上げて、何だったらおれのせいにでもしようとしていたに違いない。
おれは葦の原っぱの前で立ちつくすシンジを細くした目で見つめた。性懲りもなく、またミーナの横にいることにイラ立ちを覚える。
「レン、目が三角になってるよ」
トマソンがおれの肩をそっとつかんだ。
「別に」
おれはイラ立ちをごまかすように視線を空へと移した。
トマソンはおれが深く息をするのを見て、今度は背中を軽くぽんぽんと叩いてくれた。
「アイツ、ムカつかねぇ?」
おれはシンジの背中を見ながらトマソンにしか聞こえない声で言った。
「いまは仲間じゃん……でもまあ、ボクが持っていないレアアイテムをいくつも持っているっていう点ではムカムカしてる」
トマソンがマジなのか冗談なのか分からない真剣な目でシンジをにらんだ。おれはそれを見て思わず、「ブッ」と口からもらしてしまった。
「どした?」
「別に」
おれは少し口角を上げて言った。なんかムカついてた心がちょっと晴れた。おれは続けてトマソンに訊いた。
「んで、アイツ、何持ってんの? レアアイテム」
「この前、消時の羽を使ってんの見たよ」
「マジか! 神速より速く動ける超レアアイテムやん!」
「でも、闇魔法使いがそんなアイテム持ってても仕方なくない?」
「トマソンがそれを言うのか……でも、確かに闇魔法使い風情ごときがいったい、どんな場面で使うねんって感じやな」
「だろ!」
トマソンのムダに力強い相づちを見て、また笑ってしまった。シンジみたいなクソ野郎もいるけど、トマソンみたいな最高なやつもいることに気付いて、おれは嬉しくなってしまった。
リンリンさんとガジュマルさんも葦の原っぱの前で足を止めていた。
「どーする、これ」
リンリンさんはほっぺたを人差し指でかいた。
「炎で燃やそうか?」
シンジが言葉少なく提案した。
「自然を破壊するのは気が進まねーけど。それが安全だろうな」
ガジュマルさんは額を軽く掻きながら言った。
おれたちの背丈を超える葦の原っぱがどれだけ続いているか、全く視認することができない。中にかき分けて入ろうものなら、視界がほぼ奪われてしまうことは確実。この状況で、モンスターと遭遇する危険度については誰の説明を受けなくてもみんなわかっているようだった。
シンジが様子見がてら、初級の炎魔法である火の玉を葦に向かって放った。レベルが高くなれば、初級魔法ぐらい詠唱無しで放つことができた。
葦は一本も燃えなかった。焦げて黒くなることもなく、何事もなかったようにそこに生えていた。
今度はシンジが中級の炎魔法である火炎放射を放った。中級となると、フル詠唱は必要なくともシンジのレベルでも多少は詠唱が必要だった。
結構迫力のあるゴォーという音に加えて、熱い空気がおれの顔にも当たる。しかし、葦は一本も燃えなかった。先程との違いと言えば、水に火を当てた音が大きくなっただけだった。
ガジュマルさんが「おりゃ」という声とともに自分の腕ほどあるノコギリ型の刃物を葦に向かって振り回した。
葦は切れなかった。フニャリとしてノコギリにいくつも張り付いてしまい、ガジュマルさんは最後まで振り切ることができなかった。
「いっそ、引っこ抜いてみる?」
トマソンの提案に、リンリンさんが「んなことしてたら、日が暮れちゃうよ」と却下した。
「もうこの草、システム上、破壊できないようになってんすかね」
おれもガジュマルさんみたいにアロンダイトを一振り入れようかと思ったけどやめた。
「せっかく山の麓はすぐそこだってのに。ダークサイドを舐めんなってことね」
リンリンさんは深いため息をついた。
「テメーら、何やってんだ?」
突然、後ろから声がした。振り向くと、レベル二十台で装備するような防具や武器を装備した三人組のパーティーがこちらを見ていた。
「あなたたち、いつから?」
リンリンさんが警戒した様子で、三人組に質問を投げた。
「いつから? まあ、ついさっきぐらいじゃね?」
リーダー格らしき男がテキトーに答えた。
「ていうか、ここは君らのレベルで歩き回れるような場所じゃないよ、ここらへんがどういう場所か知らないなら早く戻ったほうがいい」
トマソンは、心配した様子で黒い木が並んでいる方向を指差した。
「それはテメーらだろ。お前らみたいな弱小にそんなこと言われるとか、超ウケるわ」
乱暴にそう言うと、リーダー格の男はスティンガーナイフという武器屋で二千アーレほどで買える安物の短剣を腰の鞘から抜いた。
リンリンさんとトマソンがあたりを忙しく確認しはじめた。どうやら、また敵が現れたらしい。




