団らん
「なんだ干将・莫耶」
トマソンは近くに来るなり、ボヤくように言った。
「その呼び方やめてよ」
「じゃあ、ガジュマルの嫁」
「それもイヤ」
「リンリンパイセン」
「あんたのほうが、一ヶ月ぐらいここ来たの早かったじゃん」
「干将・莫耶」
「戻すんかい」
「用件はなんだ」
「さっきからめっちゃ気になってんだけど、もしかしてこのクエストをクリアするまで、タピスバーガーお預けじゃないよね?」
「もちろん、食べられないよ」
「はあ?」
「高リスク高リターンのクエストに制限は付き物」
「やっぱりか……あんただけでコソコソ序盤のストーリーを進めてたから、なんかあると思ったわ……」
リンリンさんは右手で顔を覆った。
「トマソン」
おれはクリア報酬が気になってトマソンに話しかけた。
「なんだアロンダイト」
「おれもそういう呼び方かいな」
「早く用件を言え、シールド・アイアス」
「欲しがり感、半端ねーな」
「欲しがりは君もだろ? どうせレンのことだ、このクエストのクリア報酬を気にしてるんだろう」
「そうそう。さすがトマソン!」
「知らんよ」
「は?」
「このクエストをクリアした冒険者はまだ世界にいないんだ」
「全人未踏?」
「イエス」
「マジか」
身体が震えた。二ヶ月の間、おれはがむしゃらにレベル上げばかりしてきた。まさか自分が誰もやったことのないことに挑戦できる身分になっていたなんて、思いもしていなかった。
肌色の大地が広がるところに、杉の木のような背の高い木が等間隔に横一列で並べられている場所まで来た。木の幹は灰色で葉の色は黒。現実では絶対見ることのないその不気味な木は同じ高さで二、三メートルごとに立っており、目視ではどこまで立っているか確認できない。それぐらい長い。ビッグドッグはもう走ってはくれない。ブルブル震えてしまっている。ダークライン。地図上で一直線に黒い線が引かれているその目の前までおれたちは来ていた。
ビッグドッグから全員降りた。ダークラインの向こう側はダンジョン扱い。つまり、ビッグドッグは使えない。ハーバス王国へ逃げるかのように走っていくビッグドッグたちにおれたちは手を振って一箇所に集合した。
「ほいじゃ、メシだすわ」
ガジュマルさんが道具袋からレジャーシートを取り出し、肌色の大地に広げた。たたみ十五畳はあろうかと思われる広さのレジャーシートは快適で、ガジュマルさんはその真ん中にでっかい籠の弁当箱やスープが入っていると思われる銅製のボトルらしきものをいくつも並べた。
「この瞬間のガジュマルが一番カッコいいよね」
「リンはメシが食いてーだけだろ」
鮮やかに彩られた料理たちがおれのお腹を鳴らした。鼻から入ってくる匂いがまたたまらない。ガジュマルさんに割り箸と葉っぱの取皿を渡されたところで、さっそく唐揚げらしきものに手をつけた。
「うっひょー! うんめー!!」
ガジュマルさんの料理はめちゃくちゃうまい。毎度この時間はおれに幸せを与えてくれる。
「それ、ウィークラビットの南蛮漬けな。あいつら弱いくせして、肉は美味いわ、体力あがるわでスゲーんだよ」
「へー」
おれはガジュマルさんの説明を聞きながら、南蛮漬けを口に運んだ。旨い。酸っぱさと辛さと甘さが絶妙で、肉に適度な弾力があり、食感も良かった。
「それはアウェイフィッシュサラードキノコのスープ。魔力が三時間あがるから、魔法使いさんらにはオススメだな。そりゃ、イナズマ鶏の炒め物。瞬発力が一時アップすっから、お前ら武術家にはもってこいだわ。おいリン、もうデザートに手をつけんのかよ。ちなみにそれ、ホラーツリーの実をトラー酒っていう紅くて甘ーい酒に漬け込んだやつな。自己治癒力アップすっぞ」
「ホラーツリーとかいたよねー。物理攻撃利かないから、あたし大嫌いだったわ」
リンリンさんが後頭部をかいた。
「おい、干将・莫耶。その腰に下げてる干将・莫耶なら攻撃が入ることを知らないとかないよな」
トマソンが眉間にシワを寄せた。
「え! そうなの、この双剣、そんなこともできちゃうの!」
「伝説の武器は魔力をまとわせることができるから、ホラーツリーのようなやつでも魔力をまとわせれば攻撃を当てることが可能なんだよ」
「知らなかった……」
「はあ。神よ、なぜこの私ではなくこんな小娘なんぞに干将・莫耶を与えたのですか。これじゃ豚に真珠です」
「誰が豚じゃ、このチビ助」
おれはリンリンさんのツッコミに思わず吹き出しそうになってしまった。みんなもツボに入ったらしく、楽しそうに笑いだした。
「いやー、メシを食いながら団らんとか最高だな」
ガジュマルさんは満面の笑みを浮かべた。
「ガジュマル、笑ってないであんたもなんか食べなよ」




