人間と同じ
「おお、冒険者たちよ、心優しくて勇敢な者たちであれば、この頼みを受けてくれると信じておった。神杯を取り戻してきてくれたあかつきには我らもそれ相応のお礼ができるよう、準備させていただく」
「ありがとうございます」
「冒険者たち、これを」
黒いタピス族が前に出て、おれたちにお守りらしき物を配った。
「それはタピスのお守り。我々の毛を編んで作ったもの。手に握った状態でライフポイントを全て失うと、身代わりにそのお守りが消滅し、ライフポイントは半分まで元に戻る」
「ありがとうございます」
レアアイテムが大好きなトマソンはほころんだ顔を隠しもせず、お守りを腰の道具袋に入れた。しかし無自覚ながら顔をほころばせたのはおれも同じだったようで、「あんたら、ほんとアホ兄弟ね」とリンリンさんに言われてしまった。
「アオたちの住処はダークラインを越えて、北西に見える山をさらに越えた先にあると聴く。知っての通り、ダークラインの向こう側は非常に危険なエリア。非力な我々では到底、アオたちの住処でさえ辿り着くことはできない」
ダークラインの向こう側。冒険者であれば、ふざけてそのラインを越えた者も多くいる。おれもその一人。レベルが低かったから、そこにいるモンスターを一匹でも見たらすぐに引き返すつもりだった。
多分、首を切り落とされたんだと思う。おれは敵の姿を見ないまま三時間前の状態となり、直前のセーブポイントへと強制的に戻された。
タピス族の長老からクエストをもらったおれたちは洞窟を出て、村にある水晶壁へと向かった。人の背丈ほどあるその壁はこの世界のいたるところに立っており、おれたち冒険者はその青白く輝く壁に五秒以上触れるとクエストの進捗をセーブでき、死んだときにここへ戻ってくるようになる。また、空間移動魔法を使うことでここへ戻ってくることもできた。
「さて! 行きますか! ダークラインの向こう側!」
リンリンさんは首を回した。
「おっしゃ。気合い入れていこう」
ガジュマルさんは屈伸をした。
ダークラインはここから大して遠くはない。ビッグドッグに乗れば、十分ぐらいで到着する。おれたちは荒れた村を出て、つなぎとめていたビッグドッグに再びまたがり、走り始めた。
「レンくんはどうなの、ああいうストーリー」
ビッグドッグを巧みに操りながら、リンリンさんがおれに話しかけた。
「弱い物を助ける的なやつですか?」
「そうそう。それに村があんなボロボロになってて、腕や足が切り落とされたタピス族たちが血だらけで斃れてて。これは全部コンピューターで、ただの作り物なんだって分かってはいるけど、心傷むじゃん。うちのガジュマルなんて、いきなり入り込んじゃったし。見てよあの顔、タピス族は俺が救うとか、今めちゃくちゃ思っちゃってるよ、あれ」
おれは後ろを走るガジュマルさんの顔を横目で確認した。精悍な眼差しが瞬きも忘れてダークラインに向いている。
「確かに」
「二次元でゲームやってた頃とは明らかに違うよね。リアルさが半端ない」
「そうっすね」
おれの家にはお金がなかったから、二次元のゲーム機はない。ただ、友達の家でならそれなりにやったことはある。
「結構、ストーリーには冷め冷めのあたしでも正直熱くなっちゃうよ、これ」
「弱い物イジメとか、ぶっちゃけ許せないっすよね」
「あれは弱い物イジメとかいうレベルじゃ無いじゃん。虐殺だよ、あんなの」
「酷すぎますね」
「同じタピス族なのに、殺し合ってるとか悲しいよね」
「ですね」
同じ種族で殺し合う。……人間と同じ。人間という生き物の自由度の高さ。他の生き物を遥かに凌駕し、あぶくを理由にしてクソみたいなことがいくらでもできる。
「レンくん」
「はい?」
「ミーナとシンジって、あれ、できてんのかな?」
リンリンさんの話題の切り替えについていけず、一瞬フリーズした。
「え? ああ」
振り返ると、ミーナとシンジが仲良く並んで会話をしていた。距離が近い。近過ぎる。
「どうなんすかね」
「あれ、妬いてる?」
リンリンさんがおれの顔をのぞき込んできた。
「妬くって。なんでおれが」
「フフ。レンくんって顔に出やすいよね」
「やめてくださいよ」
おれはあからさまに嫌な顔をした。
「あ、そーだ」
リンリンさんの興味がまた別のことに向いたようで「トマソーン!」と少し遠くにいたトマソンを呼んだ。




