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人間は神様に勝てない  作者: 永瀬けんと
32/75

クエスト

「アオとは、青色の毛並みを持つタピス族のこと」

 おれはレベル五十ぐらいの時にサザール遺跡で青いタピス族を見たことをふと思い出した。ストライクファンタジーではモンスターが存在する各エリアにビッグモンスターという、各エリアの(ぬし)のようなモンスターが存在しており、サザール遺跡のビッグモンスターが青い悪魔と呼ばれていたタピス族だった。

 堂々とした立ち振舞い。鋭く光った黄色い目が非常に印象的で、青い悪魔を倒すことを目的としていた高レベルの冒険者たちを、(あざ)やかな体術で次々と返り討ちにしていた。別のクエストクリア目的でサザール遺跡を探索していたおれたちはそれを遠くから見ていて、青い悪魔がこちらに目玉を動かした瞬間、一目散に逃げ出したことをよく覚えている。

「かつて我々はアオたちとここで一緒に暮らしておった。アオたちは身体能力が高く、こと戦闘においては他の色の者たちより大きく抜きん出でおり、村の警護を(おも)な役割としておった。ある日、アオたちは我々を見下し始めた。力が無く群れる我らを嘲笑(ちょうしょう)した。元々アオたちは自分達の完璧な毛並みに別の色が混じることを嫌い、我々の誰とも交じることは無かった。次第にアオたちは、青色こそが本物のタピス族であり、その他の色のタピス族は偽者であると主張し始めた。自分達の身に危険を感じ始めた我々は結束し、卑怯な先制攻撃を持ってアオたちを村から追い出すことに成功した。そして、我らはすぐに人間たちと物々交換をし始めた。野菜と武器。前から人間たちは我らの作る野菜に興味を持ってくれていた。それを知っていた我らは人間たちに武器と交換してもらえるよう、交渉した。アオたちはいずれこの村を襲う。偽物のタピス族を根絶やすつもりで。だから、我らには武器が必要だった」

 毛の色の違い。能力の違い。現実世界の人間たちの中にも優越感(ゆうえつかん)を養分にして大地に根を張る(やから)が多数存在する。だくだくの優越感に浸りたいがため、どうでもいいことを引き合いに出し、相手を攻撃する。自分の存在価値こそがこの世界において上なのだと、主張する。優越感はおれにもあった。アロンダイトやシールド・アイアスを手にしたときに生まれた濃厚な光悦感(こうえつかん)。あれこそが間違いなく多くの者が喉から手を伸ばす優越感であり、神が創り出した危険な感情。人間を闇へと導くその感情は、やがて××に発展する。

「そして、アオたちは来た」

 真剣に話を聞いていたトマソンが言った。

「左様」

 長老が口を開くと、茶色い幹部は下がった。

「しかし、我らはアオたちの目論見を見誤ってしまった。わしにはほんの数分後だけじゃが先の未来が見える。アオたちの夜襲(やしゅう)も予見し、皆の者に戦闘準備を促した。だが、戦闘中に避けられない未来が見えてしまった。アオたちはわしの予知能力を逆手に取った。夜襲は陽動であり、真の狙いは我らの心の支えである神杯(しんはい)にあった」

神杯(しんはい)?」

「遥か昔、この世界を創った神がタピス族をこの世界の種族の一つとして認めた証として贈られた(さかづき)じゃ。神杯(しんはい)は我ら信仰深きタピス族にとって、神そのもの。それをアオたちに盗まれたと民衆が知れば、心を壊すものが多数あらわれ、たちまち我らは自滅の道を歩みかねん。幸い神杯(しんはい)のことはここにいる我らしか知らん事実。冒険者たちよ、無理を承知でおぬしらにお願いしたい。そなたらでアオたちから神杯(しんはい)を取り戻してきてくれんか」

 トマソンはくるりと振り向き、おれたち五人の顔を見た。もちろん、このクエストを受けるためにおれたちはここへ来たのだから、誰も断る理由はない。おれたちはトマソンに向かってゆっくりうなづいてみせた。

「分かりました。我々で良ければ、タピス族の未来のために尽力(じんりょく)いたします」

 トマソンは長老に向かって力強く返事をした。

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