冒険のはじまり
トマソンがビッグドッグレンタル屋の前でそう言うと、おれを含めて何人かが町着から戦闘着に着替え始めた。鎧を着るにしても、魔道着を着るにしても、下に薄手の服はすでに来ており、裸になる必要は無かった。
リンリンさんは町着とか特になく、いつも漆黒の武闘着姿だから伝説の双剣を腰にぶら下げるとさっさとビッグドッグに乗って東門に行ってしまった。それをダークブラウンのコック服に着替えたガジュマルさんが追いかけるようにして、東門に向かった。
「干将・莫耶をあんな雑に扱うなんて……。ガジュマルの野郎はアンダラード国王からもらった特注のコック服とか来てやがるし……ボクなんて、ボクなんて」
この着替えの時間にいつものごとくブツブツ言い出すトマソンにおれは「そのうちトマソンもええもん当たるって」と言ってポンポン肩を叩いた。
「シンジ、もしかしてそれ、晴明の狩衣?」
準備を終え、ビッグドッグに股がったミーナが闇魔法使いのシンジに話しかけていた。
「この前のセレクションで当たったんだ。今度ミーナも着てみる?」
「え? いいの!?」
ミーナの目が一瞬輝いた。
「この服、ミーナのほうが似合うと思うよ」
深みのある藍色の服を身にまとったシンジもビッグドッグに股がり、ミーナと楽しそうに東門へ向かっていった。
おれの背中にあるシールド・アイアスと腰に差したアロンダイトがミーナに見てもらうこともなく、寂しそうにしていた。
「旬の輝きってやつか……」
おれは唇を噛みしめてビッグドッグに股がった。その横でビッグドッグにすでに乗っていたトマソンが怒りに震えていた。
「どいつもこいつも一億超えの品をボクに見せつけやがって……」
トマソンはそう言い残して東門へ向かった。おれもみんなに遅れないよう、トマソンの後ろを追いかけた。
ハーバス共和国の東門から街を出たおれたちはどこまでも続くバロー大草原を一路カラバールの森へ向かって走った。
顔全体に当たる風が爽快感を与えてくれる。四本の足が織り成す振動が寝ていた細胞たちを起こしてくれる。
「ひゃっほー!」
ビッグドッグは何度乗っても気持ちがいい。みんなも同じ気持ちのようで、「ヘイ!」とか「ヤー!」とか声を上げていた。
カラバールの森には道があった。だから道をたどれば迷うこともなく、木が邪魔でビッグドッグのスピードを落とす必要も無い。
もちろんモンスターには遭遇する。遭遇するけど、ビッグドッグの足について来れるモンスターはそういないので、大体は無視できてしまう。珍しいアイテムを落とすモンスターがいたり、その土地その土地に存在する主みたいな強モンスターが現れれば、おれたちはビッグドッグから降りて、そのモンスターたちを倒すだろうけど、今回は全く現れる気配が無かった。
ビッグドッグに乗って二十分ぐらいになろうかというところで、タピス族の村が見えてきた。
「なんか様子がおかしい」
タピス族の村から、いくつか煙が上がっているのを見たガジュマルさんが眉を寄せた。
「どうやら、ちゃんとクエストが発動しているようだね」
トマソンが嬉しそうに言った。トマソンの話ではレベル七十以上でハーバス共和国の裏路地にいる老人に話しかけると、「今日は大好物のタピスサラダを食べられなかったんじゃ、タピス族に何かあったのかのう」と言われるらしく、これがトリガーとなってクエストが発動するらしい。
おれたちはタピス族の村の入口にビッグドッグをつなぎとめて、煙の上がる村の中へと入った。
「うーわ」
先頭のリンリンさんが無惨な光景を前に口を覆った。
小学校三校分はあろうかという土地に、至るところでタピス族たちが血を流して倒れていた。




