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人間は神様に勝てない  作者: 永瀬けんと
3/75

ストライクファンタジー

 布団の上でヘッドギアの重みに浸るのがたまらない。自分の苦労とヘッドギアの物理的な重みが重なる気がして、手にいれた自分を褒めたくなる。

「ああ、おまえこそが俺の神様や〜」

 おれはヘッドギアくんをぎゅっと抱きしめた。黒いし、硬い。ふとさっき教室で見た、真逆の白くて柔らかそうな肌を思い出した。大きな瞳に淡い桃色の唇。

「あかん! あかん!」

 おれは頭に浮かんでしまった妄想をかき消した。

 俺はゆっくりとヘッドギアを被り、横になった。

「起動せよ」

 ヘッドギアが俺の声に反応して、ピピッという音を出す。このヘッドギアは俺の声にしか反応しない。そう設定してある。

「目ヲ閉ジテクダサイ」

 起動が完了したようだ。俺はゆっくりまぶたを落とす。こうしなければ、いつまで経っても、ヘッドギアは俺を向こうの世界に連れていってはくれない。

「転送完了。目ヲ開ケテクダサイ」

 実際は身体とか意識とかをインターネット先のサーバに転送しているわけではなく、ヘッドギアから出る疑似信号を脳に処理させて、あたかも仮想世界にいるように錯覚させているらしい。

 おれは目を開けた。宇宙に浮かぶ巨大なガラス張りの球体の中。近くには土星も確認できて、いつもながらこの壮大な景色に息を飲んでしまう。重力がなくて床に足がつけるのが難しいこの感覚もたまらなく好きだ。

「最高! 仮想世界最高!!」

 ナビゲーションが「コンテンツヲ選ンデクダサイ」とはもう言わない。すでに分かっていると判断した人間にそんな野暮なことは言わない。直径二メートルのこれまた球体が二十個ほど浮かんでおり、ひとつひとつがスマホのアプリのような感じになっている。これらはコンテンツと呼ばれ、常に魅力的な映像が流れている。ゲームにショッピングモール、古きよき居酒屋なんかもある。おれは未成年だから仮想世界であってもお酒を飲んではいけないことになっている。味を覚えてはいけないという理由でアナザー社が自主的にルールを決めた。あとアダルトコンテンツもあるが、高校生以下は使用できないようにこれもまたアナザー社がルールを決めていた。

 おれはいつものコンテンツに指をさす。初めてここへ来たその日から、ずっと通い続けている場所。

「GO!」

 一瞬の出来事。おれの身体は指をさしたコンテンツに思いっきり引っ張られて、ものすごい勢いで吸い込まれた。

 コンテンツゲートと呼ばれる今のような場所はおれが愛用している宇宙版だけではない。小型飛行機に乗って、ワープホール状のコンテンツにスカイダイビングするバージョンもあれば、大きな西洋風の屋敷の大広間に扉状のコンテンツがあって、自分の行きたいコンテンツの扉を開けるバージョンや大都会で逃げる人間型のコンテンツを追いかけるといったバージョンまである。おれも初めは日替わりで色々なバージョンを楽しんだけど、一番初めに体験した宇宙版がやっぱり最高だったので、一ヶ月前からずっと宇宙版に固定していた。

 コンテンツに吸い込まれたおれの身体は、前回のセーブポイントであるアンダラード王国の城下町に転送されていた。

 雑踏の音が心地いい。現実ではあり得ない足音、鎧を着た騎士たちが鳴らす金属音がファンタジックな気持ちにさせてくれる。聖騎士をジョブとして選んだおれもジェネラルアーマーという上級者しか手に入らない鎧を持っているが、町ではちょっとオシャレな刺繍が入った布の服を着ていた。おれを初めてダンジョンに連れていってくれた先輩冒険者が、町を出たときに鎧に着替えたのを見て、それからずっとそれを真似していた。ラフな格好からのキリッと引き締まった鎧姿になるギャップに魅力を感じてしまったのだ。

 こっちの世界に来るとまず確かめることがあった。聖魔法使いのミーナ。彼女がゲーム内に来ているか、いつも気にしていた。

「あれ?」

 ミーナはいなかった。だいたいいるはずなのに、おれのリンクストーンがミーナのリンクストーンを見つけられなかった。

 ストライクファンタジー、通称ストファンと呼ばれるこのゲームの冒険者はかならず左耳にリンクストーンというイヤリングをつけていた。これは冒険者同士のコミュニケーションツールで、現実世界でいう携帯電話みたいな役割をはたしていた。

「おー! レンじゃん!」

 急に名前を呼ばれた。振り向くとトマソンという知り合いの武術家が手を振ってくれていた。

「トマソン! 久しぶり!」

「久しぶりでもないんじゃない、三日前ぐらいに会ってるでしょ」

「トマソン細けー! 三日も会ってなかったら久しぶりでええやん!」

 おれはトマソンの背中を思いっきり叩いた。

「痛っ!」

「うそつけよ! ゲーム内はリアルと違ってあんまり痛み感じへんようになってるやん」

「相変わらず、ウザいぐらいの高いテンション……」

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