表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人間は神様に勝てない  作者: 永瀬けんと
29/75

リンリンとガジュマル



 昨日は地獄から家に帰って、いつも通りヘッドギアをすぐに被った。こんなボロ家でも仮想世界への入口があるというだけで輝いて見えるから、ヘッドギア様はやはり偉大だと思った。

 今日は土曜日。学校へ行かなくてもいい。俺は朝ごはんの菓子パンをサクッと食べて、ヘッドギアを手に取った。

 今日はヘッドギアについた指紋が気になったので、仮想世界へ入る前に、柔らかめのタオルでヘッドギアを入念に拭いた。このヘッドギアから入れる仮想世界は開発コードネームをKAMIKIと言っていたらしい。おそらく“かみき”と読むこのコードネームは開発者の名字なんじゃないかと、俺は勝手に想像している。つまりはこのかみきさんが俺にとっては神様を超えた存在ということになる。

「あ、いけね」

 ダイパーをはくのを忘れていた。ダイパーとはおむつのことだ。ダイパーは結構値段がするので、おれは長く仮想世界に入り込む週末しか使用しない。もちろん、トマソンのように毎日ダイパーをはくやつを(うらや)ましいといつも思っているけど、おれは自分の財布と相談の上で週末だけ使うことを決めていた。みんなかっこ悪いから、仮想世界の中で「おむつ」と言うやつは少ない。せめてダイパーというおむつを英語にした言葉をストファンではみんな使っていた。

 ダイパーをはいたあと、俺はしっかり手を洗ってからヘッドギアを装着する。昨日はだいぶ脳みそを汚されてしまった。汚れはだいぶ取れたつもりだが、まだ心が少しモヤモヤする。まあ、今日でしっかりきれいになるだろう。二ヶ月前まで、歯の裏についたヤニのように脳が汚れたまま生きていた自分が今は信じられない。

「起動せよ」

 目をつぶった俺は、ヘッドギア様からのお言葉を待つ。

「ん?」

 反応がいつものように返ってこない。自分の声が小さかったかもと思った俺は、もう一度「起動せよ」と言おうとした矢先にヘッドギアから、いつもの言葉が返ってきた。

「目ヲ開ケテクダサイ」

 目を静かに開けた。おれの身体は重力から解放され、ガラス張りの向こう側には壮大な宇宙が広がっていた。

「なんやねん、いつも通りやん。今日は読み込みがちょっと遅かったか?」

 コンピューターにありがちな通信遅延。そう結論づけたおれは、ストライクファンタジーの映像が映されている球体を指差し、おれの大好きな場所へと身体を飛ばした。

「遅いじゃん!」

 身体が小さくて華奢(きゃしゃ)な女性が、おれの背中を叩いた。

「すんません、ちょっとダイパーはくのに手間どっちゃって……」

 おれは後頭部を()きながら言った。

「おい、リン。まだ五分も経ってねーじゃねーか」

 色黒で細マッチョの男性がおれのフォローに入ってくれた。

「だって、今日はあのダークラインの向こう側へ行く日だよ? みんなで気合い入れて行かなきゃダメじゃん!」

 華奢(きゃしゃ)な女性はリンリンさん。職業は武術家(ぶじゅつか)、レベル七十二。

「まあ、リラックスも大切じゃね?」

 細マッチョで長身の男性はガジュマルさん。職業は料理人、レベル七十四。

 先輩冒険者であるリンリンさんとガジュマルさんは恋人同士。この世界で親交を深め、現実世界でも会うようになったらしい。ガジュマルさんはなんか大人って感じで、言葉に温かみがあり、誰かをサポートするのがとても上手(うま)い。いざって時は、先頭に立って的確な指示でみんなを引っ張ってくれるし、おれはこの人みたいになりたいとずっと思っていたりする。

 リンリンさんの後ろにいるミーナと目が合った。「おっす」と小さく口を開いて、おれに手を振ってくれた。この前の時計台でのことが何もなかったようないつもの振る舞い。おれは自分の心に明るさが戻った気がした。今日おれは、最優先で回復役であるこの聖魔法使いを守る役割を担っていた。絶対に守りきってみせる。いつも以上の力を発揮して、おれは大好きな人の盾になることを胸に誓った。

全員揃(そろ)ったし、それじゃあタピス族の村へ行こうか」

 そう言って、とことこ先頭を歩き始めたのは今日からの危険な旅を提案したトマソンだった。事前の下調べ等はすでにトマソンがやってくれており、今日からおれたちはトマソンについて行けば良いという状態だった。

「トマソン! 今日はレアアイテム、ざっくざっく的な?」

 おれは目を輝かせて()いた。

「おお! 心の友よ! どうなるか分からないが、ボクもそうなることを信じているよ!」

 おれとトマソンは抱き合った。でも、リンリンさんが「街中で恥ずかしいからやめろっての」と言いながら、おれたちをすぐにひっぺがした。

 ダークラインの向こう側へ行くための条件は特に無い。行こうと思えば誰でもいける。「目的も無くさまようよりはクエストをクリアして何か報酬を得たほうが良くない?」と言い出したのがトマソンで、それに対しておれがうんうん! と力強くうなづいて、タピス族からのクエストを受けてからおれたちはダークラインを越えることになった。タピス族の村へは、おれたちが今いるハーバス共和国から、カラバールの森を抜けたあとに見える高台にある。

「それじゃあ、各自準備を整えて、ビッグドッグをレンタル後、街の東門に集合で」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ