最低というレッテル
「びっくりしてるだけ。ほんまに」
「なにそれ」
「あ! 見てや、あそこ! 冒険者がモンスターに追っかけられてる! この分やとうまく逃げ切れそうやなー」
話を誤魔化したおれの横で、ミーナが呟いた。「・・・ンジとは違うんやな」
ミーナの言葉を聞き取れなかったおれは、高台で寝そべってから、ミーナに言った。
「うーわ! めっちゃ気持ちええで! ミーナも寝転がってみーや!」
ミーナは首を横に振った。そして、「降りよっか」と言って、立ち上がった。
「ごめん! おれはもうちょっとここにいるわ。めっちゃ気持ちいいし!」
最低だ。自分でも分かる。
「そう」
ミーナは短くそう言って、静かにはしごを降りていった。
いま追いかければ、すぐに追いつける。そこで謝れば……何を謝れば? キスしなかったこと? 何かあったって訊けなかったこと? ミーナと顔を合わせて、いったい何を言えば……。
時間は過ぎていく。最低というレッテルはおれにお似合い。だから、このままでも。どうせ今まで片思いだったわけだし、これからも同じこと。
おれは自分に嘘をつく。嘘を重ねて、自分を慰める。現実世界で覚えた処世術。
おれはもう一度、壮大な自然をひとりで眺めてみた。分かってはいたけど、輝いて見えた大自然はもうそこにはなく、おれの目の前には味気の無いモノクロの世界だけが広がっているだけだった。
「エンドクラブて、腹の真ん中を攻撃したらいいんちゃうん?」
昼休み。毎度の油そばを食べ終えた俺は珍しく数少ない友達と教室でしゃべっていた。
「いやいや、エンドクラブは腹のど真ん中やなくて、横っ腹。硬い甲羅と柔らかいんとこの、ちょうど隙間を狙うねん。それがプロ」
先輩冒険者として、道林が新人の笠井にストファンのいろはを教えていた。
「ですよね、アロンダイト先輩」
道林はストファンの話になると、俺にぺこぺこし始める。
「それ言うのやめろって。先輩でもあれへんし、他のやつに俺がアロンダイト持ってるとか知られたくないから」
「すいませんした、アイアス先輩」
「道林、お前絶対、俺のことバカにしてるやろ」
道林は嬉しそうにケタケタと笑いながら、「ちゃいますよ、先輩。妬みっすよ、妬み」と言った。
「さらに厄介やわ」
おれがそう言うと、今度は笠井がケタケタ笑いだした。
笠井がレベル十一で、道林が四十五、おれが七十。レベルが違うから、俺たちがストファンの中で一緒に活動することは少ない。おしゃべりなら別に学校で出来るし、せいぜい俺が二人のクエストを手伝うぐらいしか一緒にいない。
「琴平、お前週末、ダークラインの向こう側に行くんやろ?」
笠井は俺がさっき教えたことを訊いてきた。
「マジか!」
それを聞いた道林が目を見開いて、「ほんまに行くんか?」と言ってきた。
「行くけど」
「お前、あそこがどういう場所か分かってんのか」
「まあ、地獄なんやろな」
「どうなっても知らんぞ」
「どうなるか分からんから、楽しいんやんけ」
「琴平」
誰かが俺の肩を叩いてきた。
「先生」
振り返ると、体育の吉田先生がいた。
「ちょっといいか」
「はい」
先生に呼ばれた。なぜだか分からない。笠井と道林が心配そうに俺を見つめた。
「大したこと、あれへんやろ」
俺は二人にそう言い残して、さっさと教室へ出ていった吉田先生の後を急いで追いかけた。
三階廊下の端っこにある教室。使われなくなった机や椅子が多数積まれており、昔は生徒があふれていたであろうこの教室は、時間を経て倉庫と化していた。
吉田先生は若い。一年前にこの高校へ赴任してきた。正義感みなぎるこの体育教師は、強豪テニス部の副顧問もしていた。
「俺は、生徒の安全を第一に考えなあかん立場や」
他に誰もいない教室で、吉田先生と俺はそのへんにあった椅子を動かして向き合って座っていた。
「僕、なんで呼びだされたんすか?」
「分かれへんか?」
吉田先生はそこまで大きい人ではない。普通の大人ぐらいだろうか。ただし、筋肉量は別格。白い半袖のポロシャツから出た二の腕を見ればすぐに分かる。
「……はい」
俺は呼び出されたのが担任ではなく、なぜ俺とあまり接点のない吉田先生なのか疑問に思った。
「次の被害者を出したらアカン。俺はいまそういう思いでここにおる」
「被害者?」
「大池のことや」




