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人間は神様に勝てない  作者: 永瀬けんと
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恋心

 恋という感情が(わずら)わしかった。勝手に湧いてきて、おれを普通ではいられなくする。おれは顔に出やすいらしい。クラスの知られたくないやつらにすぐにバレて、ネタにされてしまう。当然、好きになった女の子からも嫌われてしまう。

 そもそもおれは恋をしていい権利がない人間なんだろう。××された先人たちは無謀な恋を強いられ、命を自ら断つ者も少なくなかった話をよく聞く。現在はだいぶマシになったと言えど、依然ハードルは設けられていた。人間は××をやめない。人間を創ったのも神だとしたら、やっぱり神はおかしな存在だ。

 (みにく)い部分と美しい部分を(あわ)せ持つ存在、人間。醜い部分ばかりに触れていたおれだって、どこかで美しい部分に期待してしまっている。現に仮想世界では美しい部分に触れることが多い。

 おれの中でミーナはそんな美しい部分の真ん中にいる存在だ。大袈裟(おおげさ)なのは分かっている。ただ単に恋をしているだけと言えば、それだけ。仮想世界では学校のクラスのようなめんどくさい集団に所属しなくてもいい。誰かにさとられてネタにされることもない。あれだけ煩わしいと考えていた恋が、おれの生活に(うるお)いを与えてくれるなんて思ってもみなかった。こんなおれが誰かのことを好きでいてもいいなんて、やはり仮想世界は素晴らしい世界だ。

 飛空艇がハーバス共和国へ降りていく。おれは道具袋から取り出して眺めていた神の貝殻を、再び道具袋にしまい込んだ。この神の貝殻は、いつかミーナがピンチになってしまったときに使いたい。そう思いながら、おれは今もミーナからもらったその貝殻を大切にしていた。

 飛空挺を降りたあとは、駆け出したい気持ちを抑えて頑張って歩いてみた。ガツガツしていたら嫌われてしまう。身体は脳からたっぷり分泌されたアドレナリンで、完全に火照(ほて)っていた。この火照りを冷ます方法をおれは知らない。失恋の時に恋心を凍らせてしまいたいと思ったことがある。状況は違えど、いま同じことを思った。余裕のあるやつのほうが好感度が上がるに決まっている。それが頭では分かっているのに、身体は全く理解せずに蒸気を発していた。

 アイスクリームを売るお店でミーナは赤いアイスクリームを口に運んでいた。ハーバス共和国の気温は高い。太陽が照りつける路上に広げられたアイスクリーム屋には今日も多くの人が来ていた。

「おっす」

 パラソルの影からミーナがおれに手を上げた。

「おう」

 テンションがバレないよう素っ気なく応える。

「アイス食べる?」

「いや、おれはええわ」

 食べたところで、おれの熱は冷めない。

「ノリ悪いなあ」

 ミーナが少し低い声を出しただけで、おれの心は大きく揺れる。もしかしてミーナを失望させたのではと思ってしまう。どうやら、おれの病は相当進行しているらしい。

「これ見てや」

 おれは話題を変えたくて、道具袋からシールド・アイアスを出した。

「また当たったん!」

 ミーナが身を乗り出して近づいてきてくれた。

「めっちゃ軽いのに、めっちゃ硬いねん」

「うっそ。あたしにも持たせてや」

「ほら」

「重っ」

「ミーナは魔法使いやから、力は上がらんもんな」

「他の盾を持ったことないし、比べられへんね」

「グレートシールドとかほんまに重いねん。ミーナが持ったら多分潰れんで」

「グレートシールドってよく見るけど、あれってそんなに重いんや」

「あれがいま出回ってる盾で一番重いと思う」

「へー」

 ミーナはおれに盾を返して、「構えてみてよ」とリクエストした。

 おれはシールド・アイアスを左腕に装着して、守りの体勢をとった。

「おー、めっちゃかっこいいやん。そうやってあたしのこと守ってくれんの?」

「それはない」

「なんで!」

「ミーナみたいなたくましい子を守る必要なんてあるか?」

 ああ、うそだ。おれはシールド・アイアスを手に入れる前からずっとミーナのことを守ることばかり考えている。

「ひどっ。こう見えても、か弱いんよ。レンが思ってる百倍ぐらい」

「仕方ない。じゃあ、守ってやろう」

「お。その気になってくれたか。ありがと」

 ミーナが不意に見せる笑顔は強烈だ。脳が震えて、その場に立っていられなくなる。

「アイスもうすぐ食べ終わるみたいやし、どっか行こう」

「せっかちな人やなあ。もう少しゆっくりしたらええのに」

「関西人ですから」

「あたしは別にゆっくり派ですけど」

 そう言いつつ、ミーナは残っていたアイスを全部口に入れて、グラスを返却口へと持っていった。

 アイスクリーム屋を出て、ミーナはおれと肩を並べて歩き始めた。

 横にいる。ただそれだけなのに、心が高まる。

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