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人間は神様に勝てない  作者: 永瀬けんと
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仲良し三人組

「いやいや、ビジネスって、リスク軽減のために色々手を伸ばしておくもんだから。農業で言えば、トマトがダメになったらいけないから、キュウリもつくっとく的な感じ?」

 浩平は同棲(どうせい)を始めて一年になる菜月と視線をぶつけた。

「私は、何か一つに絞ったほうが集中できていい気がするけど、有名企業の元エース営業さんがそう言うんだから、そうなんでしょうね」

 菜月は少しニヤリと笑った。

「おれはエースでは無かったです、先生」

「あ。また私のことを先生って言った」

「海外で傭兵(ようへい)として数年働いてたとか、そんなレアな人から色々鍛えられてたら、先生とか言いたくなるって」

「私は先生って呼ばれるの嫌だって前も言ったじゃん。今日の夜ご飯、アボガドサラダいっぱい作ってやるんだから」

「残念。今日の晩飯当番は俺でしたー」

「ゴホン!」

 神木が二人の会話を裂くように、わざとらしく咳払(せきばら)いをした。

「なんだ神木、(うらや)ましいならさっさと彼氏つくれ」

「君のようなセクハラ発言するパートナーはいらないって、心から思うよ」

「セクハラじゃねーし。お前のことを思ってだし」

「そもそもこの子、男とか全然興味無さそうだけど」

 菜月は白いヘッドギアを頭から外した。

「あれ? もしかして、もうお昼?」

 浩平が菜月に訊くと、菜月は壁に掛けられた時計を指差した。

「まだもう少し時間あるけど、区切りもいいし、ご飯食べに行きますか」

 一緒に時計を見ながら神木がそう言うと、「オッケー」と言って、浩平もヘッドギアを頭から外した。

「何食うの?」

 浩平がぼさぼさ頭をかきながら訊くと、神木と菜月は目を合わせて、「それはもう」「ねー」と言いながら(うなづ)きあっていた。その光景に、浩平は首を軽く(かし)げたが、とりあえずもう行くところは決まっているということで、黙ってついて行くことにした。

 ―――お好み焼き。“(こな)もん”文化が根付く大阪を代表する食べ物のひとつ。関東の縁日でみる“大阪焼き”や“広島焼き”はどちらも大阪人も広島人もほとんど認知の無い粉もの。大阪人が知っているお好み焼きは関西風お好み焼きで、広島人が知っているお好み焼きは広島風お好み焼き。ちなみに広島人は大阪人が広島風お好み焼きを“広島焼き”と呼んでいることを許してはいない。

 具材、主にキャベツを(あらかじ)め生地に混ぜて焼くのが関西風お好み焼き。対して広島風はまず生地だけクレープのように薄く焼き、その上に山盛りのキャベツをはじめ、その他の具材を乗せて焼く。

 大阪と広島のお好み焼きの違いは作り方だけではない。文化的にも決定的な違いがある。その違いゆえに、日本全国でお好み焼きと言えば関西風お好み焼きのことで、広島が独自のお好み焼き文化を持っていることを最近まで知らなかったというひともいる。

 その文化的な違いとは大阪人は関西風お好み焼きを自分の家でもよく作るが、広島人は広島風お好み焼きをほとんど自分の家では作らないのだ。理由は簡単、関西風お好み焼きは調理工程が少なく誰でも簡単に作れる一方、広島風お好み焼きは調理工程が多く、プロの仕事と認識されているからだ。これは、広島のほうが人口あたりのお好み焼き屋の数が多いという統計にも表れて

「もういいよ、神木」

 浩平はめんどくさそうに頭をボリボリかいた。

「お好み焼きは焼き上がるまでに時間がかかるんだ。それまでにお好み焼きに関する知識をだな、」

 グゥゥゥ。

「やべぇ、また腹が鳴った」

 浩平は眉毛を下げて、またお腹をさすった。浩平たちの席の鉄板にはまだお好み焼きたちは来ていない。もうすぐ八十歳を超えようかという大女将(おおおかみ)によって、無表情で調理中の段階だった。創業六十年以上の老舗の店は鉄板から壁から椅子に至るまで、これまで焼かれてきたお好み焼きの旨味が染み込んでいるのではないかとも思われ、店全体に食欲へ直撃する空気が漂っているように思えた。

 グゥゥ。

「あ、私もまた鳴らしてしまった……」

 浩平の隣に座る菜月も恥ずかしそうにお腹をさすった。

「気持ちは分かる、ただ君たちは修行が足りないようだ」

 まだ一度もお腹を鳴らしていない神木が口角をつり上げた。

「どういう修行をすりゃ、腹の虫を抑え込めるって言うんだよ」

 浩平と菜月は目を細めて神木を見つめた。

「こうやって、お腹をパンチパンチしてだな、」

 神木が自分のお腹をグーで軽く叩き始めると、ぎゅるるる! という音が神木のお腹から店内に響き渡った。

(おさ)え込むどころか、(ひど)くなってるんですけど」

 菜月の冷たいツッコミに、神木は「いやー、面目ない」と言って頭のてっぺんをポリポリかいた。

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