告白
人間は××をやめない。これはその理由を知るための物語。そして、自らを見つめ直すための物語。この物語を読み終えたとき、あなたはこの世の……
「なんで?」
「なんでって言われても」
告白された。小学校からの知り合いではある。
「琴平くんのこと、うちはめっちゃ好きやのに」
「ごめん」
「めっちゃ勇気だしたのに」
「ごめん」
嫌いではない。見た目は好き。気も割と合う。
「障害者やから?」
「あほか! そーいうんちゃうし」
うそだ。
「過剰反応。絶対そうやわ」
「そーいうんちゃうけど、お前のこと、恋愛対象には思えねーってだけ」
そうだ。障害者と付き合ってるとか、絶対周りからさらにバカにされるに決まっている。そんな相手を恋愛対象なんかに見れるわけ……いや、それだけじゃない。
ふと目に映る、ポニーテールの黒髪と透き通るような白い肌。柔らかな頬に手を伸ばせば、いまの彼女は触れることを許してくれるのかもしれない。俺が知っている小学生の頃の彼女はもういない。高校生になって、彼女は大人になった。こんなにも素敵な子に毎日癒やされたら、もしかしたら俺は救われるのかもしれない。ただ、彼女だって分かっているはずだ。俺が触れれば、自分も黒く染まっていくことを。
「もういい」
たまたま誰もいなくなった放課後の教室。そんなシチュエーションに背中を押されて、大池は俺に告白をしたと思う。太陽の光と宇宙の暗闇が日本の夕方を作り出すのにはまだ早い時間。明るい教室のなかで大池の背中が小さく見える。ぎっこをひく足。大池は生まれつき左足が思うように動かないらしい。筋肉を補助する金属の音がカシャカシャと教室の壁にいくつも反射している。
大池は自分の机に置いてあった革のカバンを持って、教室の扉を力強く閉めて出ていった。俺は何も悪いことはしていない。むしろ良いことをしたんだ。なのに、脳みそから変な物質が湧いて、俺の心がすさんでいく。俺は良いことをしたはずなのに。
そうだ、好きでもない人に告白されたから断っただけ。おれにはすでに好きな人がいる。当たり前のことをしただけ。何が悪い。
五月のサラサラとした風は心地がいい。もう春の香りが混ざってはいない。上昇していく温度とともにテンションが上がっていくひともいっぱいいるってのに。
この世界はクソだと思う。世界は苦しみばかりだ。にこにこしながら朝の電車に乗っているやつなんてごく一部。だいたいふて腐れた顔をして、今日という日を憂いている。
最高に楽しい時間は一瞬で終わる。ほんのひととき。あとはつまらないとかしんどいとか、そういう時間ばっかり。世の中は残酷だから、何も悪いことをしていない人間が不幸になることは日常茶飯事。さっきの大池だって、断った俺だって。
この世界に生きていて、何の意味があるんだろうって思う。めんどくさい学校に行って、病人や死人がいっぱい出ている会社に行って、年を取ったら病院に入って、そこで死ぬ。成長のため、成長のため、成長のため。成長なんていったい何になる。成長したら生きていて、何か得なことがあんのか。成長したって、死んでしまえば全部一緒じゃないか。
こんな黒い世界を神様ってやつが創ったんなら、とんだ笑い者だ。人間様のほうがよっぽど素晴らしい世界を創った。