負けたままでは終われません
「やっぱりあんた弱いわね」
ココちゃんが負けてしょんぼりと耳を垂らすマロンに言い放つ。
あれだけ顔にでるんだ、このゲームは向いていないだろう。
「むぅ~……もういっかい!」
マロンが場に置かれたカードをかき集めてシャッフルし始める。
「何度やっても勝てないわよ?」
「かてるもん!」
これは新しいマロンの顔を見た。
いつも素直で聞き分けのいい子だが、友達の前ではそれだけではないらしい。
シャッフルし終えたカードをまた4等分に配り、俺たちの前に置かれる。
まあ、魔王狩りは手札や引きの運要素もあるゲーム––負け続けることはないだろう。
♢
「にゃにゃー……にゃ!」
勝負は見事に先ほどと同じ展開となった。
「またまけた~」
どうやら本当にカードゲームが向いていないようだ。
しかし、マロンはまたカードを集めていく––まだやるつもりのようだ。
「つぎはかつよ~!」
またカードが配られていく様をみて、ココちゃんはため息を吐く。
このままではこの魔王狩りは終わらないな。
仕方がない。
「マロン、ちょっと」
「なに~?」
ココちゃんたちから顔を背け、マロンの耳元で他に聞こえないように話す。
「勝つための作戦会議だ、静かに聞くんだ」
「さくせん~?」
「マロンは顔にでやすい。手を置いただけで魔王かそうじゃないかすぐわかる。その自覚はあるか?」
「そうなの~?」
どうやら顔にでていることさえ自覚がなかったようだ。
「それで、だ。次も魔王と数字の残り2枚になったとき、魔王のカードが取られそうになったら悲しそうな顔をして、数字のカードが取られそうになったら嬉しそうな顔をするんだ」
「それでかてるの~?」
「ああ、勝てる」
「じゃあ、がんばってみる!」
顔に出るならそれを逆にとってやればいい。
これで勝てるはずだ。
さて、じゃあ第3ラウンドといこうか。
♢
しかし、マロンは引きも弱いな。
魔王狩りは魔王のカードさえ引かなければ運だけでもある程度勝てるはずなのだが……。
残ったのはマロンとココちゃん。
最後の2枚、魔王と最後の数字のカードはマロンの手中にある。
さっきの作戦を試す機会だ。
やはりという感じで、ココちゃんもマロンの手札をつまんでは顔をうかがう。
だが、マロンもよくやっている。
俺の言った通り、先ほどとは逆の感情表現を見事に演じている。
「マロン、最後まで残ったあなたの勝率は知ってる?」
「う~ん……」
「0%よ!」
そう格好よく言い放ち、ココちゃんはマロンの手札からカードを引く。
「やった~!」
「な、どうして?」
どうやら作戦は無事成功したようだ。
ココちゃんが引き当てたのは魔王カード。
マロンは作戦がうまくいき、耳をピクピクさせて喜ぶ。
ココちゃんは余程自信があったのだろう。
驚きの表情をみせ、そのあと先ほどのセリフが恥ずかしかったのか少し頬を赤らめる。
「じゃあ、いくよ~」
次はマロンの番、ここであがれればマロンの勝利だ。
「あ~。また、まおうさん……」
しかしそれほどうまくいかないのがゲームらしい。
マロンが引いたのは魔王、また先ほどの状況に戻った。
「そう。パパの入れ知恵ね」
ココちゃんがまた顔をうかがった後、俺の方をギロッと睨んで言う。
なんて鋭い眼光なのだろうか。
そして、ココちゃんは見切ったとばかりにカードを引く。
「あ~……」
「マロン、最後のチャンスを逃したわね」
ココちゃんの手札が場に捨てられる。
勝負はマロンの全敗で決した。
「もういっかい!」
「マロン。それはまた後だ、もうご飯の用意をしないと」
マロンがまたカードを集めようとするが、俺はそれを制する。
「むぅ……」
可愛くむくれるマロンだが、わかったとカードを箱に直した。
「部屋に行って遊んでなさい。ご飯ができたら呼びに行くから」
「は~い! みんなこっち~」
マロンがみんなを連れて部屋に向かっていった。
さて、と。
ご飯の用意をするか、初めてだからちゃんとしたものをつくらないとな。
♢
「こんなものかな」
テーブルには俺が頑張ってつくった料理が所狭しと並び、その光景になんともいえない達成感を感じる。
さて、マロンたちが待つ部屋に呼びに行くか。
「マロン、できたぞ!」
ん? 返事がないな。
マロンの部屋の扉前から呼ぶが、中からなにも音が聞こえない。
どうしたんだ?
「入るぞ」
扉を開けるとそこには川の字で眠る、とても可愛い3人の天使が居た。