獣耳幼女たちが我が家でお泊り会をするようです
「ごしゅじんさま~」
「ん? どうしたんだ?」
夕食後、食器を洗う俺の元へマロンがやってきた。
「あのね、あのね! 明日お友達、家に呼んでもいい?」
ふむ、どうしたものか。
自慢ではないが、俺は有名人だ。
一応、姿を隠すようにここに住んでいる。
町などへ行く際は変装をしているほどだ。
マロンにもこの家のことは秘密にするように言いつけてある。
なのであまりここに他人を連れてくることはしたくはない。
「やっぱり……だめ?」
したくないのだが……。
答えを渋っていると、さっきまでのパッと咲いたマロン笑顔がみるみる悲しそうな顔になっていく。
そんな顔をされると俺に拒否権などもはやあろうはずがないのだ。
「あ、ああ、いいよ。 誰が来るんだ?」
なかなかに感情の移り変わりが早い。
いいよと言った瞬間また先ほどの笑顔がマロンに戻る。
まあ、マロンぐらいの子供なら正体がばれる心配もないだろう。
「えっとね。 ココちゃんとニヤちゃん!」
やはりいつも学校の話によく名前が出てくる2人が来るようだ。
虎の獣人ココちゃんに、猫の獣人【ニヤ】ちゃん。
「わかった。 それじゃあマロンは友達とちゃんと遊べるように部屋の片付けをしないとな」
「はぁ~い! おかたづけしてくる~」
そこまで汚い部屋ではないものの初の来客である。
ちゃんと綺麗な部屋で迎えられるようにマロンに片づけを諭すと早速とんでいった。
それだけ友達が家に来るのが嬉しいのだろう。
仲良くしてくれている友達だ。
俺もちゃんと出迎えなければ。
と、なれば明日は買い出しだな。
♢
「ごしゅじんさま~おまたせ!」
「あぁ、お疲れさま。 それにこんにちはココちゃん、ニヤちゃん」
校門でいつもどおり待っていると、学校が終わったマロンが姿を現した。
もちろん俺はいつもどおり変装ばっちりである。
「こんにちは。 今日はお邪魔させていただくわね」
「こんにちはぁ……」
ココちゃんにニヤちゃんも一緒だ。
ココちゃんは相変わらず大人びた感じである。
対してニヤちゃんはすでに眠たそうで、欠伸で眼尻に出た涙を腕で拭いながら挨拶をする。
ニヤちゃんは少しクセっけのある短めの白髪にピンとしたネコ耳が立つ。
青色の丸い目をしており、背がこの中では一番低い。
マロンの話ではかなりマイペースな子らしい。
「それじゃあ早速、家に案内するからついてきてね」
「わかったわ」
「ふぁ~い……」
俺は家に案内するため歩き出し、後ろから3人が仲良く話しながらついてきている。
だが、家までの経路を教えるわけにはいかない。
なのでとりあえず人通りの少ない場所を目指そう。
♢
「うん、ここでいいか」
町から少し離れた平原。
道からも離れたため、人通りはほとんどない場所だ。
「ごしゅじんさま?」
自分の家の方角ではないことを気付いているマロンが、不思議そうに俺の顔を見上げている。
「ちょっと待ってね」
「何をするつもりなの?」
ココちゃんはなにやら不審そうに問いかけてくる。
まあ、それは仕方がないだろう。
「転移術式」
俺の前に俺の身長ぐらいの縦長楕円が縁どられる。
その中は渦巻く様に空間が歪んでいる。
転移魔法。
俺が編み出したオリジナル魔法である。
空間と空間をつなぎ合わせ、一瞬で遠くの場所へ行くことができる優れものだ。
これで俺の家の在処がばれることはないはずだ。
「にゃに、これ?」
ずっと眠たそうだったニヤちゃんが興味を持ったようで、その目を丸くしてその門の傍でクンクンとにおいを嗅いでいる。
「それじゃあ行こうか」
「にゃ?」
俺はニヤちゃんの手を持ち一緒に門をくぐった。
「にゃ、にゃにゃ、にゃにゃにゃ? 家だ!」
何もない平原から突如として俺たちの家の玄関が目の前に広がる。
そのことがとても不思議だと、両手を挙げて飛び跳ねてリアクションするニヤちゃん。
うんうん、これでこそ驚かせがあるってものだ。
「ここが俺とマロンの家だよ」
「はぇ~」
口を開けて感心している様子のニヤちゃん。
そこへマロンとココちゃんもゲートを潜ってきた。
「ここは?」
「わたしのいえだよ~」
やはり不思議そうな表情をするココちゃんにマロンが言う。
「どういった魔法なのかしら? あんな魔法は見たことがないけれど」
ココちゃんがそういうと、今度は逆にマロンが不思議そうに頬に指をついて顔を傾ける。
それもそうだ、マロンにとってはこれぐらいは普通なのだから。
「こんな魔法を使えるなんてあなたのパパ……もしかして、ただものじゃあないわね?」
ココちゃんがジロッとその鋭い瞳が俺に向けられ、一瞬ギクッとした。
なんという娘だろうか。
家の在処を誤魔化す魔法だったが逆に不審がられてしまったようだ。
マロンより勘が鋭く頭がいい。
いや、俺がマロンを基準に考えすぎていただけだろうか。
なんとかただの一般人だと誤魔化してリビングにみんなを案内する。
こうしてこの家に初めて客人を呼び、お泊り会が始まったのだ。