狩りは獣の本能です!
家のある山の深く。
「やー!」
マロンがゴブリンの胸にいつもはしまわれている鋭く尖った爪をスッと伸ばし、突き刺す。
緑色の小人、シワシワの皮膚をした魔物であり、棍棒を武器として扱う。
最弱の声も高いゴブリン。
それはマロンでも狩ることのできる魔物だ。
彼女に引き裂かれたゴブリンはポンと音を立てて破裂して消える
そこから少しばかりのお金とボロボロの布切れが出てくる。
これを俺たちはドロップアイテムと呼んでいる。
「ごしゅじんさま~」
「おお、よくやったぞ! マロン」
よちよちと両手を皿にして、そのドロップアイテムを持ってきたマロンの頭をいつものように撫でてやる。
そしていつものようにふにゃっとした顔で喜ぶマロンに癒される。
どっちが褒美を貰っているのかわからないな。
「おっと、マロン。次は3体出てきたぞ」
「うん! マロンがんばる!」
マロンは俺の言葉に小さい両手を握ってファイトポーズをして振り向き、3体のゴブリンと対峙する。
いくら雑魚でも3体相手は厳しいか。
ここはそっと援護をしよう。
「強化付与」
開いた片手をマロンに向ける。
青色をした円形の魔法陣がそこから出現し、文字が形成される。
そしてその魔法はマロンに付与される。
「よし! いけ、マロン」
「はい! やぁー!」
マロンの爪の攻撃に倒され、消えるゴブリンたち。
棍棒で防御しようとするもそれすらも引き裂き、勝負は一瞬でついた。
「やった! みたみた? ごしゅじんさま」
「ああ、すごかったぞマロン!」
すぐにドロップアイテムを拾って駆けてくるマロンをすぐさま撫でてやった。
獣人は定期的に狩りをしなければストレスが溜まってしまうらしい。
若干5歳のマロンではあるがその特性はしっかりとついている。
1週間も狩りを休むと体がムズムズするらしい。
それは獣としての本能ともいわれている。
普通ならば親が狩りの見本を見せながら共に狩りをおこなう。
しかし、獣人の両親のいないマロンはそれができない。
だから俺が付いて狩りをおこなっている。
これでいいのかはわからないが、マロンが喜んでいるのだからいいのだろう。
「えへへ~」
すごく満足そうな顔をするマロン。
しかし、そこに危機が迫っていた。
はぁ、せっかくの癒しを邪魔しやがって……。
「––なにー? わ~、大きい……」
俺たちを大きな影が覆い、マロンが振り向く。
俺たちの前には3メートルはあろうかという大きな魔物。
赤い皮膚をした筋肉の発達した人型の魔物。
頭部には立派な白いツノが1本まっすぐ生えている。
オーガと呼ばれるその魔物は、俺たちに右こぶしを振り上げて勢いよく襲ってきた。
至ってのんきで危機感のないマロンだが、さすがにオーガには勝てはしないだろう。
しかたない、俺の出番か。
スッとマロンを抱え上げ、後ろに置く。
振り下ろされるそのオーガの右腕。
だが、しかし––遅い。
俺はその拳が当たる前に腹部へと自らの拳を打ち込む。
空間が曲がる。
その衝撃は風となって山の木々たちを激しく揺らす。
鳥たちはその衝撃で一斉に空へと羽ばたき、避難した。
「ごしゅじんさま。すごーい!」
ポンっと同じ音を立てて消え去るオーガ。
ドロップアイテムのツノとお金を回収する。
まあ、こんなものか。
振り向くと目を輝かせたマロンがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
「ごしゅじんさま、はい!」
手をいっぱいに俺の頭に伸ばすマロン。
……あぁ、なるほど。
俺は腰を下げ、頭をマロンに差し出す。
「よしよし~」
マロンの小さな手が俺の頭を懸命に撫でる。
「ごしゅじんさまは、なでなですきー?」
「あぁ、好きだぞ」
「じゃあもっとする~」
撫でる手の強さが一段と上がる。
にこやかな表情と真剣な表情が混じったその顔。
あぁ、やはり狩りをしていても––我が子は天使のようです。