伝説の最強冒険者は犬耳幼女と暮らす
かつて英雄と呼ばれた冒険者がいた。
世界でも10人しか存在しないSSS級冒険者。
最強のパーティを組み、その中でも最強の存在。
あの世界を混沌に陥れたドラゴンをも打倒した者。
世界はこれからもこの男が平和のためにその力を振るうのだろうと思っていた。
しかし、今その男を表の世界で耳にするものはいない。
そう、それは突然消えたかのように。
そんな彼は今どこでなにをしているのか、それは––。
「ごしゅじんさま~。おはよ~」
「おはよう、マロン」
山奥にたった一軒、自然に囲まれ、不自然に姿を見せる城の様な家が存在する。
こんなにも立派で存在感を放つも、その存在はこの世界の誰も知らない。
そこで彼はひっそりと暮らしていた––犬耳をした幼女と2人で。
栗色の綺麗なふわふわの耳。
その耳と同じ色のショートカットの5歳程の女の子。
とことこと小さな足で彼に歩み寄り朝の挨拶をする。
耳を垂らし、頭を彼に向けるマロン。
その頭を彼––レオ=リチャードが優しく撫でる。
「ふにゃ~」と顔を崩して喜ぶ彼女。
マロンはレオに撫でられるのが大好きで、そのモフモフとした栗色の尻尾をバタバタと振るう。
そしてその顔をみてレオも癒されるのだ。
その姿は人間と亜人であるがまるで親子のよう。
もちろん、本当の親子ではないがその仲の良さはそれ以上のものであろう。
「よし、歯を磨いてきなさい」
「はぁ~い」
とことこと両手を広げながら洗面所へマロンは向かっていく。
レオはその間に作りかけていた朝ごはんを仕上げ、木造りの茶色の四角いテーブルへと運ぶ。
4人用のテーブルに2人分の食事が並べられる。
くるみのパンにあっさりとしたスープ、そして牛乳。
一般的な家庭の朝ごはんである。
獣人だからと言って人間と食べるものが違うなんてことはなく、同じものを食べている。
「わぁ~、おいしそ~!」
洗面所から戻ってきたマロンが朝食を見て、真ん丸な大きな赤い瞳をパッと輝かせる。
元気よく彼の対面である自分の席に飛び乗り、さっそくパンを手に取る。
「いただきます!」
「はい、いただきます」
その小さな口をめいいっぱい大きく開いてパンを頬張る。
言いつけ通りよく噛んで飲み込み、牛乳でのどを潤す。
「おいし~!」
「そうか、それはよかった」
「ん~っ」
白い膜を張った、彼女の口の周りをレオが前に乗り出して紙でふき取る。
目をつむり、ふき取られるマロンの顔を見て、彼はまたどうしようもなく癒される。
かつて最強の冒険者と呼ばれていたレオ=リチャード。
英雄、鬼人とも呼ばれ、伝説となった彼。
それは今となっては幼女の一挙手一投足に顔を緩ませる1人の親バカになっていた。
そう、これは彼が彼女に癒される物語。
戦いに明け暮れていた男の、親バカスローライフを追う物語である。