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最強へと至る者  作者: 源 義景
第一章  少年だった者の過去
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6話  女強し、大男雑魚氏

 ヒールの音を響かせて近寄ってきた女性には紺色の毛に包まれた狼の尻尾があった。脚はすらっと細く長く腰は女性らしい曲線を描き細くくびれ胸は存在を主張するように服を押し上げている。耳も狼のもので青い眼鏡をかけておりその奥で少しキツイ釣り目がディーベルトとボルグを捉えた。


「揉め事ですか?」


 見た目通りの凛として鋭い声で騒めいているロビーにもよく響いた。ボルグは職員をジロリと睨みすぐにディーベルトに視線を戻す。殺気はそのままだ。


「この坊主が喧嘩を売ってきたのでな」


 ボルグのセリフを聞いた狼女がディーベルトに意外といった視線を向ける。


「何故そのようなことを?」


 正直意外だった。子供相手だと思って一方的に窘められるとばかり思っていたが、ちゃんと双方に意見を求めてきた。心の内でこの人は凄腕だなと判断し、嘘偽りなく話すことにした。


「冒険者登録をしようとカウンターに真っ直ぐ向かっていたのですがこの方に行く手を塞がれ、ガキが来るとこではないさっさと帰れと理不尽なことを言われたので反発しました」


 俺のセリフを聞いた彼女は再びボルグを見た。とてもとても怒った目つきで。


「本当ですか?」


 一言聞いただけだ。それなのにロビー全体の室温が下がり空気が重くなったような、とてつもない圧が彼女の全身から放たれた。

 ディーベルトは正直一瞬恐怖した。目の前の大男の方が実力は上だと思っていたのだ。彼の殺気もかなりのものだが彼女の圧は格が違った。何者なのだろうと興味がわいたが、今は気にすることじゃないなと意識から遠ざけた。


「・・・・・・」


ボルグはディーベルトと違い冷や汗を流して黙り込んでいた。圧のせいで声が発せられないようだと表情や体の小刻みな震えでわかった。


「答えなさい」


 完全に命令口調だった。(女って怖いものなんだな)と勝手な偏見がこの時ディーベルトの中で生まれたのだった。しかしなんだか見ているだけというのも気が引けてくる状況だ。ボルグは完全に委縮し、腕を組んで皺の寄っているところに汗が溜まり水溜りのようになっていた。

 どれだけ目の前の女性が恐ろしいのだろうか、唇は真一文字に引き結ばれているがこちらも小刻みに震えていた。流石に見ていて不憫に思い声をかけることにした。


「怖くて口が開けないようですよ。そろそろ圧を緩めてあげた方がいいんじゃないでしょうか。周りの人たちも青ざめてますし」

「・・・・・・まぁ、これは失礼しました」


 この状態で声をかけてきたのが俺だったからか数秒驚いた顔で俺を見た後、とてつもない圧をまるで嘘だったかのように掻き消して薄く微笑み謝罪してきた。続けてどこから取り出したのか分厚い本を広げてペラペラとめくり、とあるページを見てそれを音読し始めた。


「ルスタン帝国冒険者規約第一条。冒険者登録申請は成人、十五歳からギルドにて申請し登録できることとする。また、登録の際は魔法試験および戦闘技術試験を行い一定水準を満たしていれば登録を許可するものとする。」


 読み終わるとパンッとはじけるような音を鳴らし本を閉じた。そしてその手から分厚い本が消えた。


(アイテムボックス・・・・・・いや、アイテムポーチか)


 アイテムポーチとはアイテムボックスを基に作り上げた簡易版である。


「以上ですが、貴方様はこの条件を満たしていますか?」


 鋭い目つきのままディーベルトを見下ろしてきたが、全く動じることなくスラスラと答えていく。


「十五歳という条件は満たしています。魔法試験と戦闘技術試験はどこぞの大男様が邪魔をしているため受けることができそうもありません。出直した方がいいのでしたら今日はこのまま引き返すことにします」

「・・・・・・いえ、構いませんよ。年齢条件を満たしているのでしたら男女問わず試験を受けられます。このギルド内で条件を満たしているのにも関わらず、見た目だけで相手を判断し登録申請を妨害するような者は罰せられますのでご心配なく。ではこちらにどうぞ」


 妨害するような者、の部分でボルグをチラッと見たのはこれ以上口を出すなという牽制だろう。事実ボルグは視線を受けてブルリと震えコクコクと頷いていた。これまでのやり取りを見ていた他の冒険者たちも目を逸らしているがちゃんと聴いていたのだろう、我関せずといった感じでまた世間話をし始めた。

 狼女がカウンターへと促し歩き始めたので後に続き、ボルグの股下を態と通り過ぎる。ボルグはそんな俺をただ無言で見つめていた。


 カウンターに着くと狼女がそのまま受付をするようで、他の受付嬢がアタフタとしているもののそれを無視して手続きの説明を始めた。


「ではお名前と出身、それからスキルを記入してください。そのあと魔法試験を行い続けて戦闘技術試験に移ります。試験が終わり合格いたしますと冒険者証が発行されますのでそのように」

「はい」


 聞きながらスラスラと名前を書いていく。家名は書かない方がいいなと判断しディーベルトとだけ記入しておいた。スキルは習得している中で当たり障りない徒手空拳Lv五と記入しておいた。出身は隠す必要もないのでレブルスと事実を記入しておく。書き終わった用紙を狼女に渡し、試験場に案内するというので後に続く。移動の最中に


「あの坊主、ボルグさんですらビビるあの人に身震いすらしなかったぜ・・・・・・」

「あの女帝相手に臆することくはなしかけてたわ、何者なのかしら」


 などと聞こえてきたが、何者なのかとは自分がこの狼女に聞きたい、と思ったのだった。

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