2話 出会いはいつも思い通りというわけではない
背後から声をかけてきた美女に、男は動揺するでもなくおかえりと声をかける。この美女を見ると彼女がまだ少女だったころを、出会った時のことを思い出す。
冬、雪が降る季節。視界は一面が白で覆われ、すべてが冷たく凍える季節。今は特に冬のど真ん中であり、あたり一面は凍てつく風が渦巻いている。そんな中、一人の少年が歩いていた。ローブを着込み、足を膝まで雪に埋もれさせながら顔に容赦なく冷たい粒が叩きつけられている。
少年は左手でローブのフードを押さえ、風で捲れないようにしている。右手は杖を握りしめバランスを崩さないように慎重に歩を進めている。驚いたことに少年は手袋をしていない。病的な白さではあるが手が凍っているようには見えない。体温を維持する魔法でも使っているのだろうか。
その後もしばらく吹き付ける雪、風により舞い上がった粉雪で全身を弄られながら歩いていると前方に木でできた壁が現れた。左右に視線を移すと、木の壁が左右に広がり少年の行く手を阻んでいる。吹雪でよく見えないがどこまでも続いていそうな壁だ。
「・・・・・・ついた」
少年はボソリと呟いた。今の言い方からして相当な距離を歩いてきたのだろう、顔には薄らと安心したような笑みを浮かべている。
「ん?お、おいっ!!そこに誰かいるのか!?」
壁の前で立ち尽くしていると上の方からやや掠れた男の声が聞こえてきた。少年は声を発さず、杖を頭上まで掲げて小さく呟いた。
「我が存在を示せ。・・・呼び火」
呪文を唱えると深い青色の炎が頭上で生まれ、あたり一面を照らす。火とは思えない強烈な光が生まれ、少年に声をかけた男の目にハッキリと見えるように、少年の周りを光で包む。
突然生まれた強烈な光に男は驚きつつも、吹雪の中立ち尽くす自分よりも小さな存在を認識すると慌てて仲間たちに声をかける。
「おいみんな!子供だ!!子供が門の前にいる!!!急いで開けてくれ!!それと毛布と温かい飲み物を用意してくれ!!急げえっ!!!」
男の声に反応した別の大人たちが、外に子供がいると聞いて大慌てで迎え入れる準備をする。どうやら壁の上から声をかけてきたのは警備兵のようだ。周りにも男と同じ格好をし、背に弓と剣を担いでいる。二人の警備兵が鎖を引き、門を開く。観音開きの門がゆっくりと開いていくのをぼーっと眺めていると、再び上から声が聞こえてくる。
「坊主!入れ!!」
急げと言わんばかりに声を張り上げた男に少年は小さく礼をして門を通り過ぎた。門を通り過ぎると不思議な壁を通り抜けたような感覚を覚えた。ふと周りを見ると、壁の内側には雪がない。風はあるにはあるが強くもなく弱くもなくといったようで、木が微かに葉を鳴らしている程度だ。どうやら町全体に結界が張られているらしく、雪と風の侵入を防いでいるようだ。
ようやく街についた、という安心感を得たせいか急激に体の力が抜けていくのを感じた。少年がそのまま意識を手放そうとした時。
「お、おい!」
そんな慌てた声が聞こえた、気がした。
「・・・・・・ん、んん・・・・・・?」
目を覚ますと知らない天井が目の前に広がっていた。木でできた家なのだろう、心地良い香りが部屋中に満ちていてとても落ち着く。なぜ自分がこんな部屋にいるのだろうとまだ寝ている頭で考えたが、再び牙を剥いた眠気に呆気なく押し負けて、二度寝をするべく瞼を閉じた。すると
「失礼いたします」
と女性の声が聞こえて、少年の意識は即座に覚醒した。
勢いよく掛布団を声の下方向へ放り投げ、声のした方の逆へと体を転がしベッドから降りる。ベッドに寝た状態であったことからして杖や武器の類は身に着けていないと即座に判断し、素早く辺りを見回し、近くにあった机の上に置かれている羽ペンが目に入り、足に力を入れて低く跳躍。
そのまま机に置かれている羽ペンを掴み取り前転。机の横を通り過ぎ、声のした方向へ体の正面を向けて構えを作る。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
少年は呆気にとられた表情を浮かべた。相手も、同じ表情をしていた。