飛鳥と緑の王子
『どこに連れて行かれるのだろ……』
飛鳥の不安は募るばかりだった。
馬車に着くと緑の王子は座席に飛鳥を寝かせた。
緑の王子と爺やも席に着いた。
使用人が馬車の扉を閉めると馬車は走り出した。
「よろしかったのですか。こんな娘を城に入れて……」
爺やはあきれていた。
「別にいいではないか。誰にでも優しくすることは……」
緑の王子は窓の外を見た。
それから城につくまで沈黙が続いた。
使用人が馬車の扉を開けて、爺やが出た。緑の王子も寝かせていた飛鳥を抱えて馬車を出た。
「お帰りなさいませ」
多数の使用人が深々と頭を下げた。
「ただいま」
緑の王子は微笑んだ。
「こちらでございます」
爺やが部屋の前まで案内し、部屋の扉を開けた。
「ありがとう」
緑の王子は部屋に入り、飛鳥をベッドに寝かせた。
「のちほど、紅茶を持ってまいります」
爺やが頭を下げて出て行った。
緑の王子は飛鳥のベッドに座った。
「綺麗な顔だな……」
緑の王子は飛鳥の頬に触れた。そして、飛鳥の唇にキスした。
「おとぎ話では、これで目覚めるんだが、そんな訳ない……」
緑の王子が自傷ぎみに笑っていたが、飛鳥の目が開いたため言葉が詰まった。対する飛鳥も目が開いたことに驚き、緑の王子から目をそらした。
「すまない。本当に目覚めるとは……」
王子も急いで飛鳥から顔を離した。
「いえ……こちらこそ動けるようにしてもらってありがとうございます」
飛鳥は顔を赤くした。
しばらくの沈黙が続いた。その沈黙を破ったのは飛鳥だった。
「これ以上いても邪魔になるだけでしょうから失礼します」
飛鳥は起き上がり、ベッドから足を下ろした。
「待ってください」
緑の王子が飛鳥の手を握った。
「邪魔にならないのでもうしばらくいてくれませんか」
緑の王子はうつむき、顔を赤くさせた。
「……はい」
飛鳥の顔も赤くなった。
「お名前を聞いても……」
緑の王子が赤くなりながらも飛鳥の目を見て尋ねた。
「……飛鳥です」
飛鳥も緑の王子の目を見て答えた。
「飛鳥さんですね。変わった名前ですね、どこか違う所から来たのですか?」
緑の王子は微笑んだ。
飛鳥は本当のことを言ってはいけないような気がして、嘘をつくことを決意したそのとき、部屋の扉のノックが聞こえた。
「失礼します」
爺やが紅茶を持って部屋に入ってきた。
「お目覚めになられたのですね」
爺やは嬉しそうに飛鳥の顔を見た。
爺やは緑の王子に紅茶を渡すと、飛鳥の側まで来て紅茶を渡してくれた。
「ありがとうございます」
紅茶の温度は飛鳥を安心させた。
「王子、この後舞踏会がありますのでご用意を」
爺やが釘を刺すような口調で言った。
「わかってる。もしよろしければ、舞踏会に一緒に来ていただけませんか?」
緑の王子は飛鳥の手を強く握った。
「けれど、私、踊ることが出来なくて……」
飛鳥は申し訳なさそうな顔をした。
「それでもいいのです。もっとあなたと一緒に居たいし……知りたい」
緑の王子の顔がみるみる赤くなっていった。
「私なんかで良ければ……」
飛鳥も顔を赤くさせた。
「それでは、服を着替えなければいけませんね」
爺やが飛鳥を見ながら微笑んだ。
「では、いきましょうか」
爺やが紅茶のカップを回収した。
緑の王子は飛鳥の手を取り、歩き始めた。