先輩の再来
飛鳥は辺りが見えないぐらいの暗闇の中で目が覚めた。
「……夢の中か」
飛鳥には先ほどベッドに入って寝た記憶があったため、すぐに夢と理解した。
「夢じゃないよ」
どこからか分からないが男性の声がした。飛鳥はその声に聞き覚えがあった。放課後飛鳥と出会った拓也の声と似ていると思っていたが1回しか会っていないため確証が持てなかった。
「誰?」
「誰って、放課後図書室であったのに忘れちゃったの?」
コツコツと靴の音を鳴らしながら飛鳥の方に近寄ってきた。飛鳥の予想通り拓也が暗闇の中から出てきた。
「神城先輩!!」
「こんばんは、飛鳥ちゃん」
拓也は微笑みながら飛鳥の目の前に来た。
「神城先輩がいるってことは夢?」
飛鳥は拓也を見ながら首をひねった。
「だから夢じゃないってば……」
拓也は苦笑いをした。
「じゃあ、これが夢じゃないとしたらここはどこなんですか?」
飛鳥は拓也の発言に疑いをもった目で見た。
「そんな、疑った目で僕を見ないでよ……まあ、ここが夢ではないと言っても信じてはもらえないだろうけどさ……」
拓也は悲しそうな顔をした。
何故か拓也が悲しそうな顔をすると飛鳥は悪いことをしたかのような気持ちになった。
「何故、君がそんな悲しそうな顔をするんだよ」
拓也は飛鳥の顔を見て困ったように微笑んでいる。
「夢じゃないってことの証明にはなると思うけど……体の感覚はあるだろ。疑うなら自分の頬をつねってみるといい」
飛鳥は拓也の言われた通りに自分の頬を力一杯つねった。
「いしゃい」
飛鳥は自分の頬を力一杯つねったため涙目になっている。
「だろ。これで夢ではないということは信じてくれたかな?」
拓也は飛鳥のつねって赤くなった頬を撫でた。
飛鳥は拓也の行動に赤くなり、固まることしか出来なかった。
「飛鳥ちゃんはすぐ赤くなるね」
拓也は笑いながら飛鳥の頬から手を離した。
「じゃあ……夢ではないということを信じてもらえたことだし、先ほど質問があった現在の状況を話そうか」
拓也は飛鳥と距離をとり、パチンと指を鳴らした。すると今までの暗闇から一転、赤い壁紙、赤い絨毯、飛鳥と拓也が座る椅子が机を挟んで置いてあり、机の上にはほのかに灯るランプがある部屋に変わってしまった。
飛鳥は何が起こったのか理解できず立ちすくむしかなかった。