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大好きな婚約者、僕に君は勿体ない!◆は?寝言は寝てから仰って◆  作者: ナユタ


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40/48

*34* この気持ち。

本編は残すところ最終話とエピローグのみ!

最後までお付き合い頂けましたら幸いです~♪


(*・ω・)\(^ω^*`)<すれ違いさんもう少しだよ。



 十四歳で領地と婚約者の元を離れてから、三年目。


 長かったような短かったような三年間で、ダリウスからもらったカードと、贈ってくれた花の名前を記した手帳をベッドの上に広げて思わず微笑みが零れる。


 あの“聖火祭”の夜から、私とダリウスの関係性はまた少しだけ以前と形を変えた。婚約者であることに変わりはないのだけれど、それだけでは足りないような存在とでも言うのかしら?


 結局私は冬期休暇を学園の研究室で過ごし、ダリウスからは途切れて久しかったカードが送られてきた。まだ向こうは忙しいようで、花の手入れまで手が回らないから花はおあずけだけれど、それでも構わないわ。


 毎週送られてくる簡単な近況報告と“相談事”が少しだけ綴られたカードは私の新しい宝物だもの。


 そしてあの夜に魔法をかけられたのは私だけではないようで、アリスやメリッサ様の二人にもそれまでの関係性を変える転機を与えたようだった。


 メリッサ様は今日の卒業式が終わり次第、あの魔力測定をした忌まわしい大聖堂で、アルバート様と今度こそ幸せな報告を挙げ――……第二王子の妻を輩出したという実績は残すものの、アルバート様の命の元、長年彼女を虐げたご実家との訣別をはかるそうだわ。


 アリスは身内から犯罪に手を染めた者が出たことを考えれば異例のことだけれど、今日の卒業式に出席を許された。というのも彼女の身柄を預かっていた、ハロルド様のお知り合いのご夫妻からアリスを養女にしたいとの申し出があったから。


 夫妻に子供はおらず年齢的に実子はもう望めない。それにアリスも初めて自分を“子供”として甘やかしてくれる当たり前だったはずの温もりに触れ、まだはっきりとは答えていない様子だけれど、今日で決まりそうな気がしているのよね。


 ――……アリスの場合、問題はその後だと思うけれど。



『ちょ、ちょ、ちょ、二人とも!! わたしどうしたら良いと思う!?』


『あら、どうなさったのアリスさん? まるで猫をあやすような面白いお声を出したりして』


『そんなメリッサ様……本当のことでももう少しやんわりと注意してあげないと、如何にアリスとはいえ傷付き……ませんわねぇ』


『おーい、二人とも甲乙つけ難く酷いよ? わたしの扱い雑じゃない?』


『そんなことは良いからアリス。何が“どうしたら良いと思う”のか仰って』


『あら、それもそうですわね。原因の“何か”が分からないことには相談にも乗れませんでしてよ?』


『あ、やっと聞いてくれるんだ? それがねー……ってあのさ、その前にちょっと確かめたいんだけど、二人はさ……その、身分差婚ってどう思う?』



 ――と、いうようなやり取りが今から二週間前にあったところですものね。


 だから今日の学園の卒業式は私達にとっても、彼等にとっても、一世一代の出来事になるに違いない。


 私は念入りに姿見の前で制服のリボンタイを整え、黒いローブを上から羽織る。トップが四角い房飾りの付いた帽子を斜めに被り、ピンでずれないように固定したけれど、癖毛が邪魔で絡まりそうだわ。


 クルリとその場で一回転して最終チェックを終えた私は、卒業式で読み上げる答辞を綴った紙と、机の上に置いてあった箱を手にして部屋を出ようとして――……一度だけ振り返って、三年間を過ごしたこの生活感の薄い部屋に一礼した。


 今日私がどんな答えを出そうとも、一度として自分の居場所だと思ったことはなかった部屋だけど、それでも三年間のここでの思い出を残すには充分だったわ。


 式が終わる前からどこか清々しい気分を胸に、私は部屋を後にした。



***



 式を執り行うホールに辿り着くと、そこはもう式の関係者でごった返していて、私はメリッサ様と今日やってくるはずのアリスを探して爪先立った。


 けれどよくよく考えてみたらあの二人を見つけるのは、割と簡単なのよね?


 それまで私と同じ黒いローブを着た学生達で一杯になっていた視界が不意に左右に割れて、そこをさも当然のようにこちらへ向かってくる煌びやかな一行が……。


 アルバート様を先頭に、メリッサ様、クリス様、見えないけれど多分間にアリスを挟んでハロルド様が続いた一行は、私を見つけると親しみを込めた微笑みを浮かべてこちらに近付いてくる。


 けれどアルバート様は私に向かって軽く会釈をすると、少し屈んでメリッサ様の耳許に何か囁きかけて、こちらまでは来ないで後ろのクリス様と一緒に踵を返して行ってしまった。


 残されたメリッサ様は淑やかに近付いて来ると「お待たせしてしまってごめんなさいね?」と柔らかく微笑んだ。その表情は出会ったばかりの頃の感情を殺した笑みではなく、安らぎを得た自然体のもので。


 私はそんなメリッサ様を見つめながら「少しも待っておりませんわよ」と扇を開いて口許の笑みを隠す。こうして淑女の嗜みとして微笑みを隠すようなことも、もうこの先あまり必要なくなるわ。


 二人して扇の下で交わす笑みの間に「イザベラ遅いよ~」とここ最近の生活で、すっかり口調が男爵令嬢のものではなくなってしまったアリスの声がハロルド様の背後から聞こえる。


「“遅い”だなんて、アリス。まだ式までは時間があるのに私が遅れたような発言はお止めになって下さ……る?」


 アリスの見当違いな不満にそう言い返して声がした方を見やった私は、一瞬目を丸くしていたに違いないわ。


「お、良い反応もらっちゃったな~。どう? この新生アリスちゃんは」


 おどけた言葉ほど内心自信がないのか“新生アリスちゃん”の表情はどこか固い。けれど私はその姿に好意的な感覚を抱いたので素直に「短い髪も似合うわね?」と笑いかけた。


 肩まであったダークブラウンの髪は、領地にいた男の子のような短さに切りそろえられ、くしゃりと無造作に撫でつけただけの頭の上に被る帽子のせいで、一見すると男子生徒のようね?


 でもきっと、彼女にとってはこれが本来の姿なのだろうと思わせる天真爛漫な笑顔は、とても眩しくて素敵だわ。


 後ろに控えるハロルド様もアリスがこちらを向いているのを良いことに、凄く嬉しそうにその姿を見つめている。これならもうこのお二人も心配なさそうね?


 ハロルド様は「アリス、その……また後で、な。そっちの二人も――特にエッフェンヒルド。あんたはメリッサ嬢に卒業式の後の話を聞いとけよ?」と謎な発言を残してアルバート様達の後を追って生徒達の中に消えた。


「何なんですの、あの脳き「ん、じゃないから!」」


「あら、アリスったら私の発言に被せてくるだなんて良い度胸ね?」


「だっていま確実に脳筋とか言おうとしたでしょう?」


「でもアリスさん、ハロルド様は残念ながら脳き「だから違うってば!」」


「「最初に言い出したのはそちらですのに。ねぇ?」」


 などとメリッサ様と一緒になってアリスをからかっている内に、卒業式の準備が整ったのか徐々に周囲から上がっている話し声が小さくなっていく。


「んー……そろそろ始まるみたいだね? イザベラはもう壇上に向かった方が良いよ。わたしとメリッサ様は下からイザベラの勇姿を見守っていてあげるからさぁ、全力であの面白い答辞ぶちかましてきてよ! もし途中で噛んでもわたし達が拍手でごまかしてあげる」


「えぇ、そうですわ。イザベラさんのあの斬新な答辞で、今日の式にお見えになっている頭の堅いお偉方を驚かせて差し上げて?」


「――二人が私の書いた答辞をどう思っているのか、今のでよぉく分かりましてよ? ふふ、でも良いわ。下から観客として楽しんで頂戴。でもその前に一つ聞いておきたいのだけれど、どちらかダリウスを見なかったかしら?」


 先週の手紙でダリウスに、今日の式に研究の協力者として出席してくれるように頼んでおいたはずなのに見当たらないことを二人に伝えると、私より早く会場入りした二人もまだ見ていないと言う。


 そのことがほんの少し不安だったけれど、アリスが「絶対見つけて捕まえておくから」と言い、メリッサ様も「家の者の手を借りる最後の案件に相応しいですわ」と続いてくれたので、私も二人を信じて壇上へ向かおうと踵を返した。


 ――と、急にメリッサ様が私のローブの裾を引っ張って、あることを耳打ちして下さる。アリスはキョロキョロと周囲にダリウスがいないか捜してくれているようで、こちらに気付かない。


 メリッサ様から耳打ちされたその内容に、思わず人の悪い笑みが零れてしまい、私は慌てて扇で口許を隠した。どうやらハロルド様とアルバート様の思惑に加え、私達まで巻き込んで下さるおつもりなのね?


 その素敵な悪巧みに「大賛成よ」と返事をして、私は最後の賭けに出るために壇上へ続く舞台脇の階段へと踏み出した。


 ――――さぁ、ダリウス。私の準備は万端だわ。


 ここにはあなたの味方をしてくれる人間なんて誰一人としていないのよ。


 だから早く諦めて、私の前に姿を見せて?



房付き帽子とローブって、

本当は大学の卒業式に使用するアイテムだけど、

どうしても格好良いから使ってみたかったんだ(´ω`*)<フィクションです!

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