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◆プロローグ◆

いつも通りふんわり世界観の見切り発車ですが、

お時間があればおつき合いいただけると嬉しいです(´ω`*)



「ふぅん……あなたが私の婚約者? 何だか全然パッとしないけれど、永遠の愛の誓い方を知っていて?」


 居丈高にツンと澄ました七歳くらいの少女が、目の前に座る同い年くらいの少年にそう訊ねる。


 ふんわりとうねる豊かな夜色の髪に、切れ長な紫紺の瞳。血統書のついた黒い子猫のような生意気そうだが美しい少女に対し、少年の方は丸い鼻の上に大きすぎる眼鏡をかけ、鳥の巣のようにクシャクシャとした枯れ草色の髪に榛色の瞳をしたぼんやりとした印象だ。


 けれど同年代の少年ならば怒り出しそうな物言いをする少女を前に、腹を立てる様子の一つもない。見つめる瞳は穏やかな心根を表しており、その思慮深い性格を思わせた。


 少女達の両親はハラハラしながらもことの成り行きを見守っていたが、少年はフッと少女を見つめる瞳を優しげに細めて口を開く。


「そうだなぁ……もしもキミが僕の奥さんになってくれるなら、一年中キミの為に僕が育てた抱えきれないほどの花を贈るよ。大好きだよって書いたカードを添えてね?」


 少年の趣味は土いじり。今日も大切なお披露目を前に、せっせと庭師から分けてもらった小さな彼だけの庭を弄っていた。彼の両親が呼びに来たときには、オーバーオールを土まみれにして作業に熱中していたほどだ。


 慌てた両親が一旦屋敷で綺麗にしてから会わせたいと少女の両親に申し入れようとしていたところ、先を越した少女がさっさと冒頭の台詞を口にしてしまったのである。


 因みに田舎の小貴族とはいえ、両家の親が親友同士でもなければ冒頭の時点で即お流れと言われても仕方がない。その点で言えば少女達の両親は二重丸の関係性である。


 ド辺鄙な片田舎の、何てことのない名ばかり貴族仲間。


 招かれれば貴族らしい催しにも出るが、相手にしてもらえることもなく、貴族間の結び付きよりも領地の地主との方がよほど結び付きがある。そんな程度の両家なので縁談の話はほぼない。


 互いにこの縁談を失敗してしまえば嫁ぎ先と婿入り先に苦労するのは目に見えている。事実、上の子供達でコネを使い尽くした両家の最後の子供達。


 かと言って貴族にしては珍しく、無理強いしたくはない子煩悩な両家。


 いや、少女の方は見目が良いので選ばなければ嫁ぎ先はあるだろう。ただし、地位が低いので第一夫人は望めない。精々どこかの富豪や大貴族の愛妾として求められたりするくらいが関の山。


 そして何よりも……美しいが柔らかい物腰の両親に似ない、華やかな見た目通り居丈高な少女の性格が問題だった。


 この少年の答えに少女が頷くか否かで大きくその後の人生が変わる――。


 両親達が固唾を飲む中で、生意気そうな少女はその愛らしい唇を開いて、言った。


「――……ふ、ふん、まぁまぁですわね。合格にして差し上げますわ」


 その素直でない物言いに冷や冷やする両親達とは裏腹に、少年の方は穏やかに微笑むと自慢の庭から早速花を摘み取って少女の目の前に差し出した。


「ふふ、ありがとう。じゃあ……最初の花束をどうぞ。僕の婚約者さん?」


 優しい榛色の瞳が眼鏡の奥で柔らかく細められて。


 ほんの少しだけ頬を染めた少女が受け取ったのは――。


 真っ白な雲のようにふわふわと揺れる溢れんばかりのカスミソウだった。



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