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みじん娘っ!りたーんず  作者: スタイリッシュ土下座
11/12

すろっと

 僕と因縁の宿敵は対峙した。そこは決戦の舞台とは到底思えないほどに下品に煌びやかであり、僕らを彩っていた。


儀式ゲームをする前に……何かを賭けるというのはどうかな?」


「何を賭けたい、さっさと言え」


 すると彼はまた邪悪な笑みを浮かべた。まるで物事が上手いように進行しているかのように彼は答える。


「光一だけじゃない、お前ら一家と山中一家の皆殺しを要求する」


「乗った」


 僕は淡々と切り返す。既にコイツは僕の心を読んでいる。言葉にするだけ不利だ。


「随分と早い決断だね、どうにもならなくなっても知らないぞ?」


「黙れ」


「で、君は何を望む?金か?女か?それとも権威か?」


「そんな僕にとって無駄なものは所望しない」


「なら言葉に出してはっきり言ってもらおうか」


 彼の挑発に僕は間髪入れずに答える。


「平穏」


「平穏だと?生命体を殺すだとほざいていた人間とは思えない台詞だな」


「僕が望む平穏はそんなもんじゃない、僕の平穏を脅かすお前との精神のリンクを外し、完全にお前には消滅してもらう。それが賭けの条件だ」


「貴様、図に乗るなよ!」


 彼は余程激昴していたのか持っていたペンを握りしめ、砕き落とした。それを投げ捨て、冷静さを保とうとしている。


「お前も僕の消滅を求めているんだろ?おあいこ様だ」


「僕は偉大なる生体神、ゲノム様の息子だ!お前程度の人間と比べられるほどの次元に存在しない!」


「落ち着け、アンタは僕のような人間程度を見下しているようだが、そんな態度じゃ公平フェアなプレーは期待できない」


「ほざけ……!所詮ゲームが始まれば何も言えなくなる」


 彼は言い切り、懐からサッカーボール程度の大きさのスロットマシーンを取り出した。


「ルールは簡単だ、お互いにスロットを回し7が揃った回数を比べる」


 彼が言い出したゲームに僕は幾つもの疑問が湧いた。


「ちょっと待て、スロットっていうのは7が出ない場合がほとんどじゃないのか?だとすると運が良かった方の勝ちじゃないか」


 少し間を置いて、彼は息を漏らしながら応える。


「わかってないね、光一。僕がわざわざ真剣勝負で運試しを持ち込むと思うか?」


「どういうことだ」


「このスロットの1列は6個、その内7は2個あり、それに目押し可能な程のスピードに設定してある、決して小細工等も使っていない」


 淡々と話す彼に僕は次第に焦りを感じ始めた。おかしい。

 諸悪の根源である彼は前にも愚策を仕立て僕を陥れようとしてきた。

 しかし、今回はまるで正々堂々と勝負しているかのように見える。彼が汚い裏の手を使わないはずがないのだ。


「今回は5回戦で7を揃えた方が勝ちだ、その代わり勝ち数が同数でもお前が勝ちのものとする」


「何!?」


「まぁ始めに勝負を仕掛けたのは僕だからな。もっとも、"君は僕を倒せない"けどね」


「調子に乗りやがって、さっさとゲームを始めろ!」


 余裕綽々な彼に苛立ちを感じながら急かす。一体奴は何を企んでいるのか。どんなに考えても僕には理解出来なかった。


「そうだ、お互い賭けるものを呼んでおかなくてはな」


 そう言うと彼は指をパチンと鳴らした。すると、仁子、福利、バニラ、緑、山中の5人が彼の後ろに並んだ。


「お前ら……!」


「これはあくまでも精神分離体だ。話しかけても何も応答しないぞ、あくまで人質だ」


「趣味が悪いぞ、お前」


「そんなんじゃあない、勿論お前の後ろにも僕の分身を立ててあるよ」


 後ろを見ると確かにリボソムを更に透明にした幻影が僕の後ろに立っている。

 即ちこの勝負に勝てば、奴が消滅することは保証されているのだ。


「そろそろ試合開始ゲームスタートだ!光一!先行は貰う」


 すると彼はスロットを回し始める。彼は目押し可能とは言っていたが、リールの回転は普通のスロットとあまり変わらない程の早さである事が予測される。

 彼がボタンを3回押した後、彼はうつむき邪悪な笑みを浮かべた。


「フフフ……」


「どうした、何がおかしい……!」


「まず一回目だ」


 彼がそう言って見せてきたのは、7が三つ並んだスロットだった。

 決して絵柄や台をすり替えた訳でもない。僕に緊張が走る。


「いきなり……当てやがった!」


「まず一回目は○だ、さぁ、お前の番だよ」


 僕の方にも先程リボソムが回していたスロットが台の上に置かれていた。緊張して手汗が流れる。


「どうした?早く回せよ」


「わかったよ、やってやる」


 レバーを回した。確かに動きは早いが目押し出来ない程ではない……。しかし、何か予測できない。

 確かにリールは回ってるしボタンもちゃんと機能するはずだ。こうなればヤケだと思い、とりあえずボタンを1回押したのだが。


「残念だったな、BARの絵柄だ」


「何!?」


 僕の額から冷や汗が垂れる。この時点でリボソムが目押しを1回失敗しないと勝つ事が確定しない。

 僕の中でまたしても焦りが生じる。


「次は僕の番だ」


 何かがおかしい。奇妙な感覚に囚われる僕は困惑を隠せなかった。すると彼はまたしても顔を上げて手で覆った。


「素晴らしい!二連続で7が揃った!やはり僕は本当にツイてるぜ!」


「なっ……!」


 彼は2回目の7揃えを達成していた。このままでは、確実に僕と山中の一家は彼によって殺されてしまう。最悪のシナリオが脳裏に浮かぶ。


「さぁ、光一!せいぜい足掻いて見せろ」


 彼からスロットを受け取った僕は息が荒かった。

 このままでは本当に完全敗北してしまう。僕の彼に抱く不審さは次に絶望の未来へと変わっていた。


「早く引き金を引け、日が暮れちまう」


「う、うぉぉぉぉ!!!」


 僕は一心不乱に回し、リールの動きを読んだ──その瞬間ときだった。僕の中でありえない事がわかってしまった。


「リボソム……!お前……!」


「何だ?まだ私を疑う気か?」


 すっとぼける彼だが僕には理解していた。そう、このスロットは僕の番だけ"7が存在していない"のだ。

 どのリールを追ってもそのリール毎に2つある7が見つからないのだ。


「早くボタンを押せ!光一!いつまで時間をかけるつもりだ!」


 彼の癇癪に再び憎悪の心を取り戻す。とはいえ、ここの舞台は彼が主催している場所だ。

 今更このゲームを始めてしまった以上、異議申し立てを受け付ける者も近くに存在しない。


「くぅぅッ!」


 僕が2個目のボタンを押した時点で、そのスロットは回収された。


「残念だったなぁ?光一!お前が出したのはサクランボのマークだ」


 僕はこの時点で不可解な謎に何かを確信していた。

 だが、それを今彼に言ったところでどうなるという訳ではない。僕は彼に3回目の7を揃えられないように懸命に祈った。しかし……。


「ハハハハハ!やっぱり僕はツイているぞッ!」


「また揃ってしまった……!」


 これで僕とリボソムの得点は0対3。少なくとも僕が回せるチャンスは3回なので次にリボソムが7を揃えた時点で、僕の敗北は確定する。


「光一、やはり人間というものには限界というものがある。このまま大人しく僕の所で研究員として働くんだったら、お前らの命だけは助けてやるよ」


「五月蝿い!誰がお前なんかの契約に乗るか!」


 急に強気になるリボソムに僕は絶望と同時に激しい憤怒を憶えた。

 既にこのトリックは僕には理解出来ていたからだ。


「……イカサマをしている」


「今更何を言う?光一?ギャンブルの世界で劣勢時にイカサマだと言っても信用して貰えないのは流石のお前でもわかるはずだろう?」


「アンタは7をすり替えた」


「何を惚けたことを抜かしやがる」


 急に彼の顔は鬼の形相に変わった。どうやら図星らしい。


「僕がスロットを回している間、1個目のリールの端に電子的なノイズが入っていた。つまり、お前は7を別のマークにすり替えている、これはお前がスロットの絵柄を見てないのに結果がわかっていた事から明確だ」


「そんなものは言いがかりだ、お前が何を言おうとも今は回すしか選択肢は無いんだよ」


「もう一つ理由がある。僕が最初に7を揃えれなかった時は1回目のボタンで×、2回目のボタンで×と決定されていた。元々"7を揃える為のゲーム"の1回目のボタンで7を揃えることができない事が確定しているはずのにわざわざ2回目のボタンで×を付けるだろうか」


「全く、お前の理論は意味不明だ、これだから理系は」


「仮にお前が7を見れる、僕が7を見れないと仮定すれば、僕が1回目に押したボタンの絵柄は7ということになる」


「何が言いたいんだ、駄弁るのもいい加減にしろ」


「結論はこうだ、『お前は僕の見えている視界の記憶を操り7を別の絵柄にすり替えている』そして『何処かで僕が止めた絵柄を確認している』」


「だから何だと言うのだ、勝手な妄想をするのは死んだ後にしろ!ほら、さっさと回せ!」


 そう言い放つと彼はテーブルに軽く叩きつける形でスロットを置いた。絵柄の所に電子的なノイズがバチッバチッと音を立てている。


「やはりな」


「イカサマだろうと何だろうと僕は知らない!この世はな、勝者こそが正義なんだよ!僕の如き崇高なる存在が勝者にのし上がるべきなんだ!」


「それは違う!お前はただ父親の悪しき権威にすがり、邪魔者を排除しようとする自分勝手な赤ん坊に過ぎない!アンタは崇高なると自分の事を奉っているが、実際はそれこそお前の描いた空想に過ぎない!」


「じゃあ、さっさと引き金を引いて僕を打ち負かしてみろ!できるんだろ?ほら!」


「現実から逃げるな!リボソム!例え僕を打ち負かし、殺したとしてもお前のしている行為はいずれ、自分達の身さえも滅ぼすのはゲノムの息子であるお前でもわかるはずだろう!今ならまだやり直せる!」


「馬鹿言うな!現実から逃げているのは愚かな人間であるお前に過ぎない!その引き金を回して、自分の身を滅ぼすのはどちらだ?やり直せるだとか言ってる暇があるならさっさと決着をつけてみろよ!」


「あぁ、わかったよ!やってやるよ!この卑怯者がぁぁぁ!!!」


 僕はリボソムの言葉に逆上し、無計画に引き金を引いてしまった。僕は気づけば大量の汗を流している。ここで7を出さなければ、BADENDだ。

 しかし、僕にはその7を見る手は残されていなかった。僕達の命がここで終わってしまうことを覚悟した。


「リールを見るのです、光一」


 後ろに立つ何者かが僕に指示をした。ふと顔を見上げてもその存在が直で見えるはずのリボソムは全く"後ろのそれ"に気づいていない。

 言われた通りリールを見ると、そこには今まで見えなかった7の文字がくっきりと見えていた。僕はすかさず、その7をタイミング良く合わせた。


「おい」


「何だよ、生きることをせがんでも遅いんだよ!」


「揃ったぞ、首の皮一枚でな」


 僕はそのスロットを彼に見せた瞬間、彼は驚きを隠すことができなかった。

 そのボタンをとした後は僕には全くもってバラバラの3つの絵柄に見えているが、僕にはわかる。

 何故なら彼には7が三つ揃っている光景が見えていることを確信していたからだ。


「な……何故だ!何でお前は7を揃える事ができたんだァァァァ!?」


 錯乱し、頭を抱えるリボソムだったが、正直頭を抱えたいのはこっちの方だった。

 一体、誰が僕を手助けしてくれたのか。仁子達がこの会場に来ることは有り得ない。

 ここは彼の生み出した精神世界であり、現実世界とは全くもって違うパラレルワールドである。だとすれば、思い当たる節は──。


「光一、こちらを見るのです」


 僕はすぐさま声の聞こえた方向を振り向くと、そこにはあの白き長髪の神々しい御方がいた。


「貴女は……!」


「そうです。私の名はディーナ。あの手紙があなたに届いているかは分かりませんが、ゲノム様死亡時に生体神の後を引き継いだ者です」


 そう、彼は僕がゲノムを倒した後に生体神の後継ぎの報告を寄越した心正しき生体神である。

 ゲノムとは血縁関係があり、神界での厄介者だった彼を沈めてくれて光一には心から感謝していると手紙には書かれてあった。


「しかし、何で僕を助けて頂けるのですか……?貴女は神のはず」


「いえ、元々助けて頂いているのは私の方でもあります。元々神界での影響を人間界に与えてはならないのです。しかし、ゲノム様は自分の物欲に溺れ、貴方を襲いました」


「えぇ、知っています」


「貴方様は忌々しきゲノム様を打ち砕きましたが、またしてもその息子であるあの小僧が人間界に危害を加えようとしています。流石の私でも今回だけは神界特権を頂き、私が貴方の加勢を致します。」


「しかし、貴女自らが手を汚し、裁く必要はありません。これは僕が決めた勝負です」


「ですが、人間である貴方がゲノムの息子によって危害を加えられようとしていることには変わりません。根本はあの畜生の生命体が原因なのです、共に戦いましょう」


 僕は何かを言おうとしたが、どうやらディーナの気持ちは変わる事は無さそうだった。


「ただこれだけ聞かせてほしいです、"何で見えないはずの7が見えた"のか」


「光一の視界は現在、リボソムに操られています。だけど少しだけ、貴方の視界を私の視界でリンクさせ、正しく見えるように解放させました」


「成程、そんなことが出来るのか……」


 彼女の手助けが無いとこの状況は乗り越えることができないことを僕は悟り、覚悟を決めた。


「何ボソボソと呟いてる!?嫌味か!?それとも自信か!?いい加減潰れろぉ!なぁ、光一!?」


 絶対に敗れる事が無かった術式が敗れ、困惑を隠しきれない彼の前に、僕はスロットを優しく置いた。


「引いてみろよ」


「え……?」


「あと1回だ、あと1回でも、7を揃えればお前の勝ちは確定する」


「や……や……!」


「光一!それは無茶です!いくら神である私が加勢したとしても、彼のリールを操作することは……!」


 ディーナが忠告した瞬間、彼は今までに無い大声で泣き叫んだ。


「やってやるぅぅぅ!!!光一!さっさと揃えて!お前を!断罪してやるぅぅぅ!!!」


 だが彼の押した3番目のボタンは7ではないサクランボを示した。このゲームは7が出なければ価値がない。


「これで3対1は継続だ」


「嘘でしょ……!こんな事があるの……!?」


これには唯一神であるディーナも驚きを隠せない。


「な、何故だ……!どうして揃わなかった……!?」


「次は僕の番だ」


「光一ィ!何でなんだよ!まさか、お前もイカサマを……!?」


「イカサマなんてする訳がない、むしろ"イカサマをしないことがイカサマ"なんだ」


「説明しろおおおお!!!」


 頭に血が上った彼を横目に僕は答える。


「ここは精神世界なんだろ?勿論精神力が強い方が勝つ世界だ」


「だからどうした」


「お前をあえて煽り、着実に精神力を奪った。その結果、お前はスロットを合わせる冷静ささえ失った」


「貴様……!この僕が敗れることなんてありえる訳がないだろう!精神力も僕の方が確実に上回っている!」


「お前、一回精神力を辞書で調べた方がいいんじゃないか?まぁいい、僕の番だ」

 

 リボソムの手からスロットを奪い取ると僕はディーナとシンパシーを合わせた。

 リールに回る7がハッキリと写し出され、確実に7を出すことが可能になる。


「ほら、後1回で追いつくぞ!これで3対2だ!」


 7の揃ったスロットを見せるとリボソムの顔はまた生体神らしくないあらぬものに変化した。

 それはもはや生体というよりかは水状のように溶けきりそうになっているが。


「ディーナ、ありがとな」


「いえ、最後まで油断禁物です。共に闘いましょう!」


 僕らには少しばかりの希望が見えていた。後1回。クソ草餅リボソムが敗北してくれれば僕らの勝利は確実に見える。だが、何故か彼の中は笑いが込み上げていた。


「フフフ……アハハハハ!!!」


「気でも狂ったか!リボソム!さっさと引け!」 


「いや、まさかね……ディーナ!お前が手を貸しているとは思っていなかったよ」


「何!?」


 これにはディーナの方も驚愕していた。彼女はリボソム視点では見えないはずなのに、確実にそこにいるということが彼には分かっている。


「裏で光一の手を引いていたのか……!やけに光一の精神力が強くなったと思い、それを辿って行けば、まさかね!お前が裏切っていたとは思ってなかったよ!」


「ディーナ、本当なのか?」


 僕は聞き返すが、ディーナの方も険しい表情で答える。


「えぇ、私は光一と精神をリンクさせた結果、同じく光一とリンクを繋げていたのを逆探知され、奴にバレました。そして、実は……」


「何なんですか、一体何があるって言うのですか!」


「貴方はリボソムがゲノム様によって創られたと聞いているはずです」


「確かに、そう聞いてます」


「実はリボソムの原本を創ったのはこの私なのです。この騒動の全責任は私が取らなければならないのです」


 彼女から放たれた一言は僕の理解の範疇を超えていた。


「一体どういう事なんだ……。この状況は……!?」

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