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みじん娘っ!りたーんず  作者: スタイリッシュ土下座
10/12

しゅうらい

 楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去るものだ。

 残された苦痛という感情は僕を包み込み一瞬で身を焦がしてしまうほどの悪夢になるのだった。


「光一、おはよ」


「お前が早起きなんて珍しいな、朝ごはんできてるぞ」


 何の変哲もない退屈な日常は"あの日"以来変わることが無かった。


「光一様、おはようございます」


「福利もおはよう、飯できてるぞ」


「光一君、おはようです」


「バニラちゃんもお目覚めか」


 3人にご飯を食べさせ、僕は洗濯物を干しに向かう。パン、パンと洗濯物のシワを伸ばす度に僕はため息を吐いた。

 ここまで平穏で暮らしていて、アイツが何も起こさないはずがないと。

 洗濯物干しを終え、リビングに戻ると、仁子達は朝のニュース番組をいっちょまえに見ている。

 話の盛り上がり様を見るあたり、どうやら共通する話題があるらしい。


「……遅刻するぞ?」


「あっ、そうだった!」


「仁子ちゃん、急ごう」


「光一様、行ってきます!」


「気をつけてな」


 僕は彼女らを笑顔で見送り、またため息を吐いた。僕自身も知っているのだ。

 半強制的に彼の邪悪な思考の片鱗がわかってしまう。その彼の名はリボソム。

 僕が昔発明した最高傑作、超生物進化薬を求め、僕に取引を言い渡した邪悪な生体神の息子である。

 どう足掻いてもその心は静まることはなく、またしてもいつあの惨劇を目の当たりにするのか分からなかった。僕の額に一滴の冷や汗が流れ落ちる。


「……いっけね、僕もそろそろ行くか」


 いつも通り白衣を身にまとい、仕事用具と書類を持って僕は車に乗り会社へと向かう。道路は少しずつ渋滞していた。


「おかしいな……ここの道はいつもはあまり混んでないような道だ」


 すると何事も無かったかのようにまた車は走り出す。僕はハンドルを握りながら考えた。

 僕の心の中に眠る"それ"がどんどん大きくなっていることに。


「よくわかったな、ご名答だ」


 誰もいないはずの後部座席から声が聞こえた。

 恐る恐る振り返ると最早見慣れたかのような緑色の半透明な彼は腰掛けていた。


「……お前」


「何だ光一」


「いい加減にしろよ、しつこいぞ」


「元々復讐を試みている身だ、しつこいのも当たり前だろう」


「何を企んでいる」


「さぁね、僕と心をリンクしているお前ならわかるんじゃないのか?」


「黙れ!」


 僕はそこにあったコンビニの広い駐車場に車を停めた。

 後ろにいる彼の方のドアを開け問い詰める。


「ずっと僕を監視し続けていて、何がしたいんだよ」


「答えは既に"実行"に移ってるよ、光一」


 僕を目の前にして余裕をかます彼に僕は更に聞き通す。


「山中と遊んだ時も、夏祭り行った時も、お前が監視していることは知ってたんだよ!さっさと答えろ!」


「答えはお前のすぐ後ろにある」


 僕は言われるがまま、後ろを振り向いた。すると、10m先の方で大爆発が起こり、車が燃え上がっている。それも1台2台どころの騒ぎではない。至るところで炎上が起こっている。


「お前……何をしたんだよ!」


「僕はお前を"監視"していた訳じゃない。お前の中の答えを求めていたんだ」


「どういう事だ」


「偉大なるゲノム様は言った、『お前のその"記憶を操る能力"で光一から超生物進化薬の情報を聞き出せばお前の天下だ』と」


「どういう事なんだ……だから」


「僕はお前の心の中の記憶に侵入し、超生物進化薬の情報を奪い取ろうとしたが、どうやらお前の記憶にセキュリティーロックがかかってたみたいでね……だから思い出させてやったのさ、お前の娘や山中、その他お前に関わっていた様々な奴をお前に仕向けてね」


「ふざけるなよ……」


「ふざけているのは君の方だ」


「何だと?」


「この惨劇はお前がやったんだ。お前がゲノム様に超生物進化薬の情報を渡していれば、今更こんなことにはなっていなかった。これはお前の責任だ」


「馬鹿言え!僕が易々とゲノムのクソ野郎に叡智を渡すと思うのか!?今更そんな事を言うな!甘ったれ貧弱小僧が!」


「そんな事言っていいのか?」


「何がだよ」


「僕は既に君のセキュリティーロックを解除して、超生物進化薬を手に入れたんだ。さっき渋滞してただとかほざいていたが、あれは街行くドライバーにその成分を注入してやったのさ。」


「嘘だろ……」


「お陰で人間共の感覚は暴走、アクセル全開で建物に突っ込んでいったよ。賢いお前ならわかるだろうとは思ってたんだがな」


「野郎……!」


「だから僕に抗うのはやめろ、被害が拡大しても知らないぞ?」


 僕は悲しみと同時に怒りが湧き上がってきた。だが、相手はあくまでも精神生命体である。

 半端に攻撃を食らわせても結局返り討ちに遭うだけである。僕は込み上げる怒りを歯茎から血が出そうなほど噛み締めていた。


「僕を殺したいとお前は考えている、そうだろ?」


「言わなくてもわかるだろ、理解しろ」


「いいだろう、愚かなお前に少しだけチャンスを与えてやる!」


 そう言うと前の儀式ゲームの時と同じように世界は一転した。

 背後に見えたコンビニはいつの間にか街灯で賑やかな建物に変わっている。


「何のつもりだ……」


「このまま人間共を支配するだけでも光一、お前を処分することはできるが……それじゃ僕は満足出来ない」


「またゲームか?」


「その通りだ、この前負けた屈辱を残したままお前に死なれても僕の中に後味の悪いものを残す。だからお前には"完全敗北パーフェクトルーズ"を味わってから死んでもらう!」


 カジノに吸い込まれるように入った僕は光に包まれた。気がつけば僕はカジノチェアに座っていた。

 カジノテーブルを挟んで、向こうには奴が不敵な笑みを浮かべながら座っている。


「わかったよ、テメェが泣き喚いて許しを懇願するまで勝負を受けてやる!かかってきやがれ!」


 僕はこの勝負に勝たなくてはいけない。絶対的な恐怖に立ち向かう僕は少しだけ身を震わせた。


「フフフ……面白い!さぁ、最終決戦を始めようじゃないか!光一!」

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