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1.無双高校生誕生☆

とある年のとある夏。とある街の住宅街で一人の青年が帰路に就いていた。

このわずか数分後に異世界へと飛ばされるなど、予想もつかなかっただろう。


彼の名前は葛城かつらぎ綾斗あやと。高校2年生、17歳。5/24日生まれ。童貞。

特に変わっているところはない…、訳ではないが、本人曰く普通の高校生らしい。勉強と運動はそれなりにできる。筆記テストでは大体一桁に入るほどだ。

彼女いない歴=年齢。別にモテないわけではない。むしろ、かなりモテている。現に2年生になってからの4か月で9回ほど女子からの告白を受けている。綾斗も彼女が欲しくないわけではない。というより彼女欲しい。

この男が好かれるのは文質彬彬ぶんしつひんぴんであるからだろう。顔は学年トップと言っても過言ではないイケメンで、表情と口調はクール。一方、性格はとてもまったりとしている。困っている人には手を差し出すし、頼まれごとには弱いなど、外面とは打って変わっている。そんなギャップに惹かれる女子が多くいる。

そして、一番変わっているところ、それは超強運の持ち主である、ということだろう。商店街やデパートのくじ引きを引けば、まず「はずれ」を引くことはない。5回もくじを引けば2等位のが一つは出てくる。あたり付きアイスを買えば4本に2、3本の割合で「もう一本」が出る。まわりからは「運だけで世界征服できる」などと言われている。本人も自覚はしているが、世界征服する気なんてさらさらない、というかできるわけがない。

そんな高校2年生は空想や妄想をすることが好きであった。特に登下校中は、ほぼ毎回空想にふけっている。最近は「自分が異世界に飛ばされたら」をテーマに空想・妄想ワールドを広げている。無意識の独り言も多いので、通行人などからはたまに変な目で見られる。

「やっぱ、異世界行ったら自分の国を築いてそこにハーレム作るべきだな。うん。」

なんて考えていると、どうしてもぼけっとしてしまうため、転んでしまう、ということも少なくはない。今朝も縁石につまづいて車道に落ちかけた。しかし、そんなことで大怪我を負ったことはないのであまり気にしてない。

「おわっ!?」

また転んだのか、と思ったが何かがおかしかった。

(あれ、俺落ちてね?)

そう、綾斗は落ちていた―――

なぜか蓋が開いていたマンホールに。

(もしかして俺、死ぬのか?)

などと思った刹那、大きな衝撃を受け、目の前が暗くなった。




とある暗い部屋。そこに一人の青年が倒れていた。

「ここは…どこだ…?俺…生きてる…のか…?」

そこにいたのは、マンホールに落ちたはずの高校2年生、葛城綾斗であった。

「俺…確かマンホールに落ちて…そのまま……。ここはマンホールの下なのか?」

そう思って天井を見上げてみるが、それらしきものはない。とりあえず体を起こして立ち上がった。辺りを見回すと、とても大きな画面のテレビが一台だけ、置いてあった。他に何かないか探してみたが、出入口さえ見つからなかった。暗く、少し湿った密室に巨大テレビが一台だけ置いてある、という特異空間の中、突然

「コンニチハ、カツラギ アヤト サン。テレビノ画面ヲタッチシテ下サイ。」

機械を通したような無機質な声が部屋に響いた。さすがにこれには驚いた。

「い、いきなりなんだよ!」

「画面ヲタッチシテ下サイ。」

「ちょ、俺の話を聞k」

「画面ヲタッチシテ下サイ。」

「……。」

らちが明かないので、テレビの画面をタッチした。すると、画面にはルーレットのようなものが表示された。ルーレットの中には2倍や30倍、1000倍など、様々な数字が書き込まれていた。

「今カラ能力ノ倍率ヲ決定シマス。画面ヲタッチシテスタート、モウ一度タッチスルトストップデス。」

「の、能力の倍率〜?なんだよそれ!」

綾斗の質問に、無機質な声は初めて答えてくれた。


「…アナタハコレカラ異世界ヘト転移シマス。ソノ際ニアナタガ持ツ全能力ガ、今ノ何倍ニナルノカを決メル、ソレダケノコトデス。」


「異世界に転生!?どういう事だ!?」

『異世界』という単語に反応した綾斗はすぐに聞き返した。しかし、

「今カラ能力ノ倍率ヲ決定シマス。画面ヲタッチシテスタート、モウ一度タッチスルトストップデス。」

それ以上は答えてくれなかった。

「なんだよ、早く回せってか。まあ回すしかないんだけどさ。」

とりあえず画面をもう一度見てみる。

(最高倍率は金色の〈1000倍〉で、最低は黒の〈2倍〉…。差がデカいな、オイ。)

ルーレットには他にも〈3倍〉〈5倍〉〈10倍〉〈30倍〉〈77倍〉〈100倍〉〈500倍〉〈777倍〉があった。

「にしてもこのルーレットはどうかしてるな。」

というのも、ポケット(※)の広さが明らかにおかしい。各倍率の広さはほぼ一緒だ。しかし、〈2倍〉だけは違った。

―――ルーレットの3/4ほどを占めていた。残った1/4に他のポケットが押し込まれていた。

「このルーレット作った奴だれだよ…」

項垂うなだれるのも無理はない。神が「お前2倍な」と囁いているようなものなのだから。

「まあ、回すしかないか。うん、まだ希望はあるぞ。俺は強運だ。たとえ1000がダメでも残りのどこかには当たるだろ。」

そうやって自分に言い聞かせて、心の準備をした。

「よし、回すか。」

大きく深呼吸を3回して、画面にタッチした。

するとルーレットが異常な速度で回転しだした。速すぎて色が混ざって見える。

「こんなに速く回す必要あるのか?」

綾斗はそう呟いた。


ルーレットが回り始めてからおよそ1分が経過した。

「よし、そろそろ止めるか。」

また深呼吸を3回して、画面に触れた。

バシッ!!

「!?」

ルーレットは綾斗がタッチした瞬間、その場で止まった。

「いや、ルーレットってゆっくり減速しながら止まるのが普通だろ…」

綾斗はさらに呆れた。

「あ!結果!どうなったんだ!?」

赤い針の先を見る。そこは黒色と金色の境目ぐらい…。だが、少し黒色寄りだ。

「に、2倍……」

超強運・葛城綾斗、今回ばかりは運に見放され、2倍を引いてしまった。

「2倍程度の能力で国とかハーレムなんて作れるわけないだろ…」

綾斗は超落ち込んでいた。異世界に行ったら国とハーレムを作るのが夢であったこの男にとって、たったの2倍はあまりにもダメージが強すぎた。

「あっち行ったらどうやって生きていけばいいんだよ…。」

などと落胆していると、突然


「オメデトウゴザイマス!!超大当タリデス!!!」


あの無機質な声が部屋に大きく響いた。いつもより大きい声だったので綾斗もビクッとなった。

「ち、超大当たり?なんのことだ?」

もう一度ルーレットの針の先を見る。さっきは焦っていてよく見なかったが、金色と黒色の境目のところには、シャーペンの芯よりも細い虹色の線が引いてあった。針の先は確かにそこを指していた。

「ん?倍率が書いてないぞ?おーい、ここは何倍なんだ?」

「ナント、超大当タリハ〈10000倍〉ニナリマス。」

「い、い、10000倍!?」

綾斗は大きく目を見開いた。

「ほ、本当か!?本当に10000倍なんだな!?」

「ハイ。虹色ノポケットハ10000倍デス。」

「キターーーー(゜∀゜)ーーーーッ!!!!!!」

綾斗のテンションは今最高潮だ。なんせ、たったの2倍から10000倍だ。諦めかけていた夢が叶いそうなのだから無理もない。

「やはり俺はスーパー強運いや、究極強運アルティメット・ラッキーボーイだったようだな!」

ちなみに、この男は高2ではあるが、中二病真っ盛りである。そんな綾斗が一人で盛り上がっていると、

「ア、アノ…」

「ん?なんだ?」

「副賞ノ説明ガマダナノデスガ…」

「副賞!?そんなのもあるのか!?」

「ハイ。超大当タリ限定ノ副賞デス。」

「中身は!?どんな内容なんだ!?早く!」

「オ、落チ着イテクダサイ!」

無機質な声から初めて注意を受けた。

「デハ説明シマス。超大当タリノ副賞ハ、『特殊魔法プレゼント』ト『特殊スキルプレゼント』ニナリマス。」

「特殊魔法と特殊スキル?具体的にはどんなものなんだ?」

「エート、魔法ノ方ハ『自由魔法』ト『創造魔法』ノ2種デス。スキルハ『LVアップ時能力2倍』デス。」

「自由魔法?創造魔法?能力2倍?それってどんなものなんだ?」

「スミマセン、時間ガ近ヅイテイルノデ、説明ハ省カセテクダサイ。説明ハアッチノ世界デモ確認デキマスノデ…」

「そ、そうか。分かった。ところで時間が近づいているってのは?」

「能力ノ倍率ガ決定シタラ10分以内ニ転移サセナイトイケナイノデス。」

ずっと話をしていて気づかなかったが、もうすぐで10分が経とうとしている。

「デキレバ説明モシテアゲタカッタノデスガ…」

「いいよ。どうせあっちの世界で確認できるんだろ?なら無理して今やる必要はないと思うぜ。」

「ハハ…、ソウ言ッテ頂ケルトココロガ楽デス…。」

この無機質な声にも心はあるんだなと綾斗は思った。

「サテ、ソロソロ転移サセタイト思イマスガ、ヨロシイデスカ?」

「ああ、いいぞ。」

「ソレデハ、転移ヲ開始シマス。」

すると、足元に青い魔法陣が浮かび上がった。そして、目の前が少しづつ白くなっていく。

「ついに異世界へ行くんだな…俺…」

そんなことを呟いたとき、視界は完全に白くなった。と同時に体が浮かび上がった。


「デハ、異世界デノ良イ生活ヲ!イッテラッシャイ!」


無機質な声がそう告げると、急に体が前に押し出されるような感覚を感じ、そのまま気を失った。


                  ☆


草の生い茂る広い草原の中、『能力10000倍』と『特殊魔法:〈自由魔法〉〈創造魔法〉』、『特殊スキル:〈LVアップ時能力2倍〉』を手にし、異世界転移した高校生・葛城綾斗は岩に寄りかかって倒れていた。

「ん、んん?ここは…?」

目が覚めた綾斗は立ち上がった。

「こ、ここは、異世界…?本当に来たのか…!?」

叫びたいほど嬉しかったが、今はそれを堪えて辺りを見回した。

前方には広い草原が広がり、遠くには山脈だろうか、山々が連なっていた。後方には広大な海が見えた。左方にも草原が広がっていた。そして右方、少し奥の方に要塞都市らしきものの壁と、城の上部が確認できた。

「お、あそこに要塞都市が見えるな。城が見えるってことは王都か?よし、行ってみよう。」

この世界についての情報が欲しかった綾斗は、とりあえず人が多そうな王都らしき要塞都市に行くことにした。

「っと、その前に能力の確認だな。んと…ステータスとかは開けるのか?」

開き方が分からない綾斗は、とりあえず『ステータス』と念じてみた。すると、パッと目の前にステータスが表示された。

「おお、すぐ開けるし、便利だな。んで、ステータスは…?」

綾斗の今のステータスは次のようになっていた。


  カツラギ アヤト 【無国籍】

  L V:1

  H P:2100000

  M P:700

  SKL:〈LVアップ時能力2倍〉〈自由魔法〉〈創造魔法〉


「はは……」

自分のステータスを見た綾斗は苦笑いするしかなかった。

「HPが210万とかチート並みだな。MPは元が少ないんだから仕方ないな。それで…SKLは『スキル』のこと…。魔法はスキル扱いか。」

ステータスを確認し、口元が少しニヤけていた綾斗はステータスを閉じて、なぜか海の方に向かって進んだ。


海の近くまで行くと、崖が見えた。高さは4、50mほどはある。足元も断崖絶壁だ。

「よし、ここらでいいか。」

そう呟いた綾斗は思いっきり息を吸い込み、大きな声で叫んだ。


「俺はこの世界に自分の国とハーレムを作るぞぉォ!!!!!」


その声は海の彼方へと消えていった。

(※)ポケット … ルーレットでボールが落ちるところ。ここでは倍率が書いてあるところを指す。

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