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第13話 応援を力の糧に

 その日、いつものように仕事から帰宅してパソコンを立ち上げてWEB小説投稿サイトのページを開くと。

 お知らせの有無を告げるベルマークに、赤い印が付いているのを見つけた。

 このベルマークが設置されるようになったのは割と最近のことではあるが、それまでに印なんて付いたことがなかった僕にとって、それは心臓を跳ねさせるほどの出来事であった。

 どきどきしながらベルマークをクリックすると。

 『エピソードに応援』と書かれていた。

 その下には『耄碌魔王に守らせたい十の公約』の文字が。

 そう。僕の投稿した小説が、遂に人に評価されたのである。

 これには、緊張で引き締まっていた頬も緩んでしまう。

 僕は笑顔になって、着ているスーツが皺になることも忘れて思わずガッツポーズを取っていた。

 それを見ていたのだろう、アオイが呆れたような声を漏らした。

「……何してるの」

「何って、僕の小説が評価されたんだぞ。これを喜ばずにいられるか」

 僕は上着を脱いでベッドの上に放り投げ、椅子に腰掛けた。

「今回の小説は自信作なんだ。いつか絶対に評価されるって思ってた! 嬉しいよ、まだ二話なのに応援してくれる人がいて」

「それでそんなお祭り騒ぎみたいになってるのか」

 アオイは苦笑した。


「それで満足しちゃうなんて、小さいなぁ」


「…………」

 僕の顔から笑顔が消えた。

 こいつ……せっかく人が喜んでるところに水を差すのかよ。

「……喜んじゃ悪いのかよ」

「悪いなんて言ってないよ。ただ、絶対に人気作品を書くんだって意気込んでた割にはスケールが小さいなって思っただけだよ」

 特に悪びれた風もなく、アオイは言う。

「喜んでもいいけど、そこで満足しちゃ駄目だよ? 人間ってのは満足したらそこで努力することをやめちゃう生き物だからね。書籍化されるような作品を書くのが類の目標なんだから、ひとつ二つの評価で満足しちゃいけないんだよ」

 貰った評価を力の糧にして、更なる高みを目指す。

 応援してくれた人をがっかりさせないように、これからも読んで良かったと思えるような物語を書き続ける。

 それが応援してくれた人に対する御礼なんだよと、彼は言ったのだった。

「どうせなら、何百人の人に評価されるような作品に仕上げてみせなよ。それが応援してくれた人に対する御礼になるんだからさ」

「……アオイ」

 僕は引き締まった面持ちのまま、閉ざしていた口を開いた。

 ふっと息を吐いて、言う。

「そんなこと、言われなくたって分かってるよ」

 僕は絶対に小説家になる。

 どんなに時間がかかっても、そのために何十、何百という作品を書くことになろうとも。

 絶対に、夢を諦めたりなんてしない。

 そのために、多くの人に感動してもらえるような小説を書き上げてみせる。

 読者になってくれた人のため以上に、僕自身のためにも。

「さあ、書くぞ!」

「……先に着替えて御飯食べたら?」

 意気込んで小説のデータを画面に呼び出す僕に、ツッコミを入れるアオイ。

 僕はそれを横に流して、手を動かしながら答えた。

「この勢いが重要なんだよ。今書けば凄い文章が出来上がる気がするんだ」

「……まあ、類は自分で自分の面倒を見られる大人だから、僕がいちいち言う必要はないのかもしれないけど」

 アオイは念を押すように、言った。

「執筆に躍起になって日常生活に支障をきたすなんてことはならないようにしなよ?」

 アオイの言葉を聞きながら、僕は一生懸命に文字を画面に打ち込んだ。

 何だか、今までにない出来栄えの小説が書けそうな気がする。そう思うと、体に圧し掛かる仕事疲れも気にならないのだった。

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