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8 大魔導師ステラ

本日更新2回目です。


続きは明日となります。

「やっと静かになったようですね」


 謎の声がエステルの頭の中で響き始めてから、30分程が経過した。

 ようやくというべきか、その声は騒ぎ立てるのを止めてくれたようだ。


「では解読の続きとまいりましょうか」


 謎の声のうるささに中断していたが、エステルの本来の目的は魔導書を読み解き、彼女の抱える致命的な欠点の解決法を見つける事である。


『……無駄さ。その魔導書には大した内容なんて書かれていないよ。ただのダミーに過ぎないからね』


「……そうなのですか? しかし何故貴方がそんな事を知っているのですか?」


 騒ぐことは止めたようだが、別に居なくなったという訳でもないらしい。幾分トーンダウンした口調で、エステルへと語りかけてくる。


『その本は元々ボクが造った魔導具だからね。……まあ改造されてボクの封印に利用されちゃったけどさ』


「そうなのですか。それはなんといいますか、ご愁傷様です」


『はぁ……なんていうかさ……。確かエステルって言ったっけ? 君ってすっごく変だよね。ボクの声にも全然驚かないし、何よりボクの精神支配をあっさり撥ね退けちゃうし……』


 呆れたような不貞腐れたような、そんな声で呟く声の主。


「……そうでしょうか? 落ちこぼれだの恥晒しだのとは良く言われますが、変だと言われたのは多分初めてな気がしますね」


 実際はエステルの事を変だと思っている人間は数多い。だが、それと彼女が魔術を使えない事実が合わさる事で大抵は蔑みの感情へと変換されてしまっていた。なので彼女だけがその事実を知らないだけに過ぎない。


『へぇ、それは意外だね。ともかくこれからしばらくの間、よろしく頼むよエステル』


「はぁ。よろしく、とはどのような意味でしょうか?」


『いやー。実はねぇ、君の身体を乗っ取ろうとしたんだけど、逆にボクの方が取り込まれちゃってね。そんな訳で君の頭の中に居候する事になっちゃったんだよね』


「それは……その、なんと言えばいいのでしょうか? すいません?」


 エステルとしては特に何かしたつもりは無かったのだが、どうやらそんな妙な事態になっていたらしい。イマイチ状況が理解出来ずに、そんな疑問符交じりの謝罪が飛び出すことになる。


『ははっ、まあ仕方ないさ。それより自己紹介をしておくよ。ボクの名前はステラ。古の大魔導師ステラって言えば、少しは聞いたことあるんじゃないかな?』


「ステラ……ですか。ああ、確か始祖達の魔術の師匠という方でしたか? 星神教では神としても崇められている人物でもありますね」


『ふぅん、ボクの事はそんな感じに伝わってるんだ。まあ別にどうでもいいけどさ。ともかくボクがそのステラで間違いないよ』


「……ではあなたは実は凄い魔導師だったという事なのでしょうか?」


『ふふん。その通りだよっ! って全然信じてないね? いいよ。なら早速ボクの凄さを見せてあげるよ』


「いえ、別にそのような事は……」


 一応の社交辞令としてエステルは否定の言葉を口にするも、実際ステラの言葉は図星であった。


『へぇ……なるほどねぇ。君って魔術が使えないんだね』


「……どうしてその事を?」


 だがエステルの抱える悩みをステラがあっさり言い当てた事で、その表情に真剣味が差していく。


『そりゃぁ分かるさ。だって今のボクは君と同化しているんだよ? だったら君の心を読み取るなんて朝飯前さ』


 最初の醜態を挽回するかのように、強気の姿勢を見せるステラ。


「それは……なんとも凄いお方なのですね、ステラ様は」


『……やっぱり変だよ君。普通の人間は心を読まれたなんて言われたらまず嫌がるもんだよ』


 その事に対しエステルが称賛の言葉を贈るも、ステラの声色は逆に険しくなる。


「……そうなのですか? なぜでしょうね?」


 本当に分からないといった表情で、ただ首を傾げるエステル。


『……まあいいや。それよりもエステル。このボクが君の悩みを解決してあげるよ』


「……それは本当ですか?」


 だがそんなステラの言葉を聞きエステルの目の色が変わる。

 本来ならば一笑に付すような話だったが、ステラが力の一端を示した事で僅かばかりの期待感を抱いてしまったようだ。


『そうだよ。一応確認しておくけど、君は魔力が無いせいで魔術が使えないんだよね?』


「ええ、恥ずかしながらその通りです」


 言葉とは裏腹に特に恥ずかし気な表情を浮かべるでもなく、淡々とそう答えるエステル。


『ふふん。その程度の問題、偉大な魔導師であるボクになら解決なんて簡単な事だよ』


「それは……本当なのでしょうか?」


 ステラが只ならぬ存在である事をエステルはもう薄々理解してはいたが、しかしまだ信頼を預けるには至ってはいない。


『だから本当だってば。この大魔導師ステラの名に誓って約束するよ。……というかね、実のところもう解決済みなのさ、君の抱える問題についてはね』


「それは……どういう意味でしょうか?」


『そのままの意味さ。そうだ、まだあの魔導具は使われてるのかな?』


「あの魔導具ですか?」


 あの魔導具と言われても、エステルには何のことだかさっぱりだ。しかしステラは彼女の心を読んだらしく、すぐに目的の存在を探り当てる。


『そそっ、個人の魔力を測定するカード型の魔導具の事だよ』


「ああ、もしかして貴族証の事ですか?」


 そう言ってエステルが懐からブロンズカラーのプレートを取り出す。エステルにとってはあまり良い思い出のない魔導具である。


『そうそう、それそれ。今からちょっと起動してみてよ』


「はぁ、別に構いませんけど……」


 そう答えつつもエステルはあまり気が進まないでいた。

 というのもこれまで何度も起動をしたが、プレートへと刻まれた文字に変化があった事など一度も無かったからだ。


 貴族証とは、持ち主が貴族である事を示す身分証明書であるが、同時に所持者の魔術適性を測る魔導具でもあった。

 そしてそれは彼女にとっては、嫌な現実を突きつけて来る存在でもあるのだ。


「何度見ても結果は一緒ですよ……。魔力量は0で、魔術適性はオールFなのですから……」


 自身の現状を嘆き、悲し気な表情を浮かべながらそう呟くエステル。

 大抵の事は気にしない彼女であっても、その事にだけは心を痛めているのだ。


『まあいいから見てみなって』


 だがステラの強い押しに負けてしまい、渋々ながらプレートへと記された文字へと視線を送るエステル。

 しかし、そこには彼女にとって思わぬ結果が記されていた。


 ◆◆◆


[名前]エステル・フォン・シュヴァイツァー

[保有魔力]0 → 測定不能

[魔術適性]

光:F → A

闇:F → S

火:F → B

水:F → C

風:F → B

雷:F → B

土:F → C


 ◆◆◆


「……は?」


 驚愕に目を見開き、プレートの文字を見つめたまま固まるエステル。


 そこには落ちこぼれとしての象徴であったオールFの評価値は全て上書きされ、高い評価値がズラリと並んでいた。

 一般にBランク以上が一つでもあれば、上級魔術師を名乗れるレベルであると言われている。そしてエステルの魔術適性値は火、風、雷の3属性においてそのBランクを示しており、光属性至ってはその上のAランクを示していた。

 そして極め付きは闇属性の部分に記されていたSランクという評価値だった。このランクは小聖印持ちでもなければ到達は困難であるとされ、これまでのエステルからすれば空の彼方とさえ言える領域だった。双聖国全体を見ても闇の評価値Sランクを有するのは、聖王ユリウスとその息子アルヴィス、騎士団長であるリーンハルト、そしてエステルの父であるハインリヒの僅か4名しかおらず、その希少さはもはや語るまでもない程だ。


 何の因果か、落ちこぼれと蔑まれていたエステルのプレートに、突如としてそんな評価値が刻まれたのだ。彼女の心情を察すれば、動けなくなってしまうのも無理は無いと言えるだろう。


『へぇ、君でもそうやって驚く事があるんだねぇ。ちょっと安心かな』


 ニヤニヤと楽しそうな口調でそう述べるステラ。


「……これは、どういうことなのですか、ステラ?」


 プレートを強く堅く握り締め、視線をそこから離さないままにそう尋ねるエステル。


『おや、イキナリ呼び捨てかな? まっ、別にいいけどね。どうもこうも見たまんまの通りだよ。それが君の本来の魔術適性なんだよエステル』


「本来の……?」


『そっ、君は元々魔術適性が無いわけじゃないんだよ。ただ魔力が無かったせいで、正しい測定が出来てなかっただけなのさ』


「魔力が……無かったから……?」


『そりゃ魔導具だって万能じゃないからねぇ。所有者の魔力を吸い取ってそれを基に測定するのに、吸い取る魔力そのものが無ければ当然正しい測定なんて出来る訳ないんだよね』


 電気を流さずして電圧の強さを測れる訳がない。エステルがやっていたのは、まさにそれと同じような事だったのだ。


「……ですが。そもそも私にはその魔力自体が無かったはずでは? それにこの保有魔力の欄にある"測定不能"とは何なのでしょうか?」


『あーね。どうもその魔導具、ボクが昔使ってたやつよりも随分と性能が劣化しちゃってるみたいだね。属性適性も大雑把な値しか出てこないし、魔力量の測定限界もかなり低いみたいだね』


「……ということは、もしかして」


『まっ、そう言う事だね。君の保有魔力量が多すぎて、その魔導具の測定限界を超えちゃったんだろうね』


 ステラのその言葉が正しければ、0だったはずのエステルの魔力が突然、通常の魔導具では測定不能な程に膨れ上がったという事になる。


「何故そのような事になったのでしょうか?」


『その理由は至って単純だよ。君がボクを取り込んだからさ』


「ステラを……取り込んだから?」


『そう。精神と魔力は本来切り離せない存在なんだよ。だからボクの精神を取り込むという事は、同時にボクが持つ魔力をも取り込むという事にも繋がるのさ』


 ステラの取り込み自体、エステルが意図してやった事ではなかったが、結果としてそれはエステルに大きな益をもたらす事となったようだ。


『おめでとう。これで君も晴れて魔術師の仲間入りだ。まぁ、ボクにはまだ全然及ばないけどね』


「……ありがとうございます」


『あれ、あんまり嬉しそうじゃ……って泣いてる!?』


 無表情かつ淡々とした口調は変わらないが、しかしエステルの目からは水滴がぽたりぽたりと流れ落ちていた。


「あら、何故でしょうか。目から汗が……」


『いやいや、明らかに涙じゃん、それ』


「……そうなのですね。これが涙なのですか。初めての経験です」


『……泣くのが初めてって。……しかもホントなんだ。やっぱり君って凄く変わってるよ、エステル』


 呆れるようにしてステラがそう呟くも、その声にはどこか温かい色が存在していた。


なんかこう一気に強化された雰囲気を醸し出してますけど、最強への道のりはまだまだ遠いのです。

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