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39 冒険者ギルド

本日更新2回目です。

続きは明日の予定です。

 戦都プロエリウムへとやって来た初日は、アズール商会への荷卸しやその他雑務によって1日が潰れてしまった。

 そうして彼らに手配して貰った宿で一夜を過ごしたエステルは、翌朝冒険者ギルドへと向かう。


 第一は身分証明書を得る事だったが、目的はそれだけに留まらない。この都市へと向かう道中、アズール商会の面々より聞かされた冒険者ギルドの仕組みを知ってから、エステルはある方針を固めつつあった。


『冒険者として出世して、貴族になっちゃおー計画発動だね!』


 一体何が楽しいのやら、テンション高くステラがそう叫ぶ。


「(ええ、それが目的達成への一番の近道のようですからね)」


 とはいえ別にその言葉自体には、エステルも特に異論はない様子だ。


 冒険者ギルドではその実力に応じてAからFまでランク分けが為されている。だがそれらとは一線を画するモノとしてSランクが存在する。

 立場としてはAランクの上位に当たるSランクだが、その内情は少々特殊であると言えた。というのもSランクの冒険者はその全員が貴族であるのだ。


 冒険者とは一般に一攫千金を夢見る平民達が成る職業であり、周囲からはならず者たちとして扱われる事も多い存在だ。しかしどこにでも変わり者は存在するようで、稀にだが貴族が冒険者登録を行おうとする事があるのだ。

 彼らは皆魔術師であり、大抵の冒険者より強い存在だ。同時に強い権力をも有している為、それに見合った高待遇を要求する者が多いのだ。しかし冒険者稼業というのは戦闘能力が第一ではあれど、それだけでは務まらない仕事も多い。そんな戦闘能力特化型の彼らの為に用意されたのがSランクなのだ。


 またこのSランクには時と共に別の側面も備わるようになった。貴族の婚姻相手は大抵同じ貴族であるものだが、それだけでは満足できない人間も多かった。そうした理由から時代が進むにつれ貴族の血は平民の中へと徐々に混じり始め、一部には貴族に匹敵するような魔力を持つ存在が現れ始めたのだ。

 いつの時代でも実力者の存在を求める者は多く、そんな彼らを取り込もうとする動きが貴族側で興り始める。当初は貴族達が見つけた優秀な人材を名誉貴族として取り込む事から始まったが、人材発掘を求める声の高まりと共に、ギルドにもその流れに適応する事が求められた。そこでギルド側は、元々存在したSランクという地位を利用する事にしたのだ。Aランク冒険者の中でも格別優秀な存在をSランクへと引き上げる制度を作り上げ、優秀な冒険者が貴族と成れる道を用意したのだ。


 この辺の事情をエステルが知らなかったのは、双聖国においては長らくその制度を利用した冒険者上がりの貴族が誕生していなかったからだ。古参貴族の勢力が強く、それらがプライドばかりが無駄に高い者達であった事が主な原因であった。

 対してここテイワズ騎士国は実力主義の風潮が強い国だ。いや実力至上主義であると言っていいかもしれない。例え元平民であろうと実力者を無意味に蹴落とすような風潮は存在しておらず、実際、冒険者上がりの貴族もそれなりの数存在していた。


 そんな訳でエステルはこの制度を利用し、冒険者として功績を上げる事で貴族の地位を目指す事にしたのだ。

 テイワズ貴族となれば、エステルの目的たる雷の大聖印を得るための機会は増えるだろう。しかも貴族に任命される際には騎士王との謁見の機会が与えられるのだ。その場においてあわよくば騎士王を暗殺し、大聖印を奪いとる事をもエステル達は目論んでいたのだ。


「(問題は冒険者として手っ取り早く功績を上げるにはどうすれば良いかですが……)」


『まあまあ、その辺はボクに良い考えるがあるから任せておいてよ。それよりもあそこじゃない?』


 昨日ジョセフに教えられたように道を歩いていたエステルは、いつの間にか冒険者ギルドの傍までやって来ていたようだ。

 頑丈さだけが取り柄といった感じの無骨な建物が立っており、入り口に掲げられた看板が無ければつい見逃してしまいそうな程に、良くも悪くも周囲の景色に溶け込んでいた。


「そのようですね。では参りましょうか」


 なんだかんだ言いつつもやはり冒険者という人種は荒くれ者達の集まりある面は否定できない。実際、付近には柄の悪そうな連中が数多くたむろしており、エステルへと多くの視線が突き刺さっていた。

 その内訳としては、幼い少女が何故こんな場所にいるのかという純粋な好奇心によるものから、彼女の身なり良さを見て良からぬ事を企てるものまで、多種多様であった。

 だがそんな視線の雨もエステルにとってはどこ吹く風であり、その足を止めることは出来ない。


「失礼しますね」


 そんな言葉と共に建物の中へ入ると、そこには冒険者と思しきいかつい風体の男たちが多数存在していた。


『あー。なんかむさ苦しい連中ばっかで嫌になるねぇ』


 冒険者稼業は肉体が資本というだけあってやはり男性が多い様子だ。身体強化魔術を使えれば男女の性差は一気に縮まるが、それが出来ない平民にとってはやはり中々越えがたい壁であるようだ。

 

「おっ、嬢ちゃんこんな所になんの用事だい?」


 立ち止まっていたエステルへと、一人の厳つい男がそう声を掛けて来る。


「あの、受付はどこでしょうか?」


「受付か。それならあっちだぜ」


 エステルの質問に対し、男が指でクイッっと奥の方を指し示す。


「これはご親切にどうもありがとうございます」


 教えてくれた男へと一礼してから、そちらへと向かおうとするエステル。しかしそんな彼女の行く手へと男が立ち塞がる。


「待ちな、嬢ちゃん。礼ってのはなぁ、もっとこう分かり易いもんでするもんだぜ?」


 そう言って男が指で丸を描く。


「(……この方は何を言っているんでしょうか?)」


『うーん。多分、金を寄越せってとこかな? ああそうだ、だったらさ――』


「(なるほど……分かりました)」


「おいおい、嬢ちゃん早くしてくれや」


「そうだぜ。でないとちょーっと怖い目にあっちまうかもだぜ?」


「今夜はおねしょで布団が大洪水かもしれんなぁ。がははっ!」


 ステラとのやり取り間にどうやら男は仲間を呼び寄せたようだ。気が付けばエステルを3人の厳つい男たちが取り囲んでいた。


「ではお礼はこれでよろしかったでしょうか?」


 そんな男たちへと、エステルは金色に輝く大きな硬貨をマジックバッグから取り出し、彼らへと一枚づつ手渡していく。


「おいおい、マジかよ」


「ヒュー、まさか大金貨たぁ太っ腹だねぇ」


 エステルが彼らへと手渡したのは、大金貨と呼ばれる硬貨だ。その貨幣価値は10万ルビアであり、一般的な成人男性の大体1月分の稼ぎに相当する。受付の場所を教えただけの報酬としてはまず有り得ない大金であった。


 そんな大金を手にした彼らはホクホク顔でその場を去ろうとする。


「待つんだ君たち! こんな幼い少女から大金を脅し取って、自分が情けなくはないのか!」


 そんな状況を見かねた一人の青年がそう叫ぶ。


「ああん? てめえには関係ねぇだろうが」


「ったく、痛い目みてぇのかよ?」


 手にしたばかりの大金で久しぶりの昼酒を楽しもうとしていた所に水を差された彼らは、怒りの表情を青年へと向ける。


「そんな脅しに僕は屈しないぞ! その金を早くこの子へと返すんだ!」


 だが青年は一歩も引くことは無く、そう食い下がる。男たちと青年との間に一触即発の雰囲気が漂い始める。

 だがそれを制止したのは他ならぬエステルであった。彼女は両者の間へと割って入り男たちに手ぶりで退出を促す。


「……だとよ。嬢ちゃんのお蔭で命拾いしたな、餓鬼が」


 男たちはそう吐き捨てると、この場を去っていく。


「……良かったのかい?」


「はい。どうも助けようとして頂いたようで。ありがとうございました」


 完全に余計なお世話ではあったのだが、青年の行動が全くの善意からの物で有る事は流石のエステルでも理解していた。

 なので一応形だけでもそうお礼を述べておく。


「だけど……」


 青年は納得のいかない様子で尚も食い下がろうとするも、エステルはそれに取り合わない。


『正義感が強いのは別に悪い事じゃないけどさ。こっちの事情も考えて欲しいよねー』


 勇気ある行動を取った青年に対し、ステラの言い様はなんとも辛辣であった。


「あの、受付はあちらで良かったのでしょうか?」


「あ、ああ。そうだよ」


「では失礼しますね」


 まだどこか腑に落ちない様子の青年を捨て置いて、エステルは当初の目的へと立ち返るのだった。



「おっしゃー! 今日はマジついてるなぁおい!」


「ああ、これで当分は酒代に困んねぇな」


「おいおいテメェら。俺に感謝しろよ?」


 エステルから大金貨を計3枚も巻き上げた彼らは、上機嫌で酒場を目指して歩いていた。


「しかしあの嬢ちゃん、どこぞの大商人の娘かなんかかねぇ?」


「さて、どうだろな? だがまあ、ちょっと脅してやっただけで、ああもあっさり大金を出すとはな。ホントいいカモだったぜ」


「だなぁ。次会ったらまたたっぷり絞り取ってやろうぜ」


「ああ、今度は白金貨でも吐き出させてやるか」


 本日の思わぬ大収穫に気を良くしたのか、再度エステルから金を巻き上げる算段を始める3人。


「しっかし大金貨なんて、久しぶりに見たな」


 そのいかつい図体に反し、彼らの冒険者ランクは然程高くはない。当然、得られる報酬もそれ相応でしかないのだ。


「んだなぁ。精々、小金貨がいいとこだからな」


 そう言って男の一人が、ピンっと金貨を上へと弾く。


「金ってもんは、あるところにはあるもんだなぁ。ったく理不尽な世の中だぜ」


 空中でクルクルと回転した金貨が男の手元へと落ちていく。

 そしてそれが男の手の中へと収まったその瞬間――


 ドォォォンという大きな爆発音と共に、その金貨が弾け飛んだ。


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