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王殺しの魔術師 ~落ちこぼれ少女はやがて最強へと至る~  作者: 王水
第4章 魔導院の最強下級魔術師
163/166

163 クラス分け

 実技試験の余波は、次期セック皇帝と目されるレリーナに対しても様々な影響を与えていた。

 もっともそれは周囲とは異なる形ではあったが。


「フローラさんはとても可愛らしい方でしたわね」


 レリーナが金髪縦ロールの同級生についてそう評する。


 いかにもお嬢様スタイルなフローラだったが、その内側からは隠れた苦労の影が見え隠れしている。

 その強気な態度も、実はただの虚勢に過ぎない。

 レリーナはその事を良く見抜いていた。


「アステリアさんはなんといいますか……とても自由な方でしたわね」


 アステリアに成り代わったステラは、正にそんな存在だった。

 その成り代わりに気付いた訳ではないが、しかしその本質をレリーナは正しく捉えていた。


「ふふっ、あのお二方も素晴らしかったのですが、わたくしが一番気になったのはやはりあの方ですね」


「といいますと? やはりジークハルト王子ですか?」


 側近の騎士エドガーがそう尋ねる。


「いえ、あの方など別にどうでも良いのです。わたくしが一番興味を寄せているのは、そう! エステルさんですわ」


「は、はぁ。我が妹にですか? 確かにあの電撃(スパークボルト)は驚異的な威力でしたが……」


 エドガーは、トレイズの次男に当たる青年だ。


 そんな彼の目から見ても、あの時の妹の姿は確かに凛々しいモノではあった。

 しかしそれだけでは以前の怠惰な印象は消せず、どうしても厳しい視線を向けてしまう。


「もう、エドガーったら。わたくし魔術のことなどどうでも良いのです。それよりもあの方は内に強い想いを秘めております。金剛石のように硬く、そして鮮烈な想いを。そんなあの方を見ているとわたくし……」


 興奮した自身の顔を恥ずかしそうに両手で覆うレリーナ。

 だが隙間から覗く口元は、怪しく歪んでいた。


「そ、そうですか……」


 エドガーにとって、レリーナは大変優秀な主であったが、同時に多くの問題も抱えていた。

 まず彼女はそれ程魔術に興味がない。


 やれと言われればやるし、それであっさりと常人を遥かに上回る成果を出しても見せる。

 しかし本心では、どうでもいいと思っていることが透けて見えていた。


 というか本人には、その事をまるで隠すつもりはない様子だ。


「わたくしあの3人と仲良くなりたいわ。特にエステルさんとはね。そうね、だったらまずはお茶会かしらね。手配をお願いできるかしら?」 


 レリーナが興味を向けるのは、いつだって他人だ。

 特に変わり者をこそ良く好む。


 そんな彼女の傍に置かれる自分もまた変人なのではないか。

 エドガーは常々そんな恐怖を覚えていた。



 事前の筆記試験と実技試験の結果から、本来なら6つのクラスに分けられる事が決まっていた。

 

 主として上級貴族たちがAクラス。

 中級貴族たちを中心としたB・Cクラス。

 下級貴族たちを中心としたD・E・Fクラスだ。


 もちろん階級は絶対ではなく、個人の実力によって前後はするのだが、しかし新入生の実力はやはり実家の財力こそがモノを言う。

 事前の個人教育の成果は、投じた資金の多寡に比例する傾向が強い。


 なので多くの学生は階級そのままのクラスへと落ち着く事になる。


 ここまでは例年通りだったが、今年に限り特例としてAクラスの上に、Sクラスが設置される事が急遽決定した。

 近年、いや100年程遡っても例がない程に今年の新入生は豊富に過ぎた。


 特に小聖印持ちである6人の実力はずば抜けており、彼らを他の上級貴族たちと同じクラスに据えるのは、互いにとって良くないと判断されたのだ。

 

「そんな訳で妾がこのクラスの担当教師となった。みな宜しく頼むぞ」


 Sクラスの教室に集められた6人にそう告げるのは一人の少女。

 燃えるように赤い髪をなびかせた背の低い少女――いや女性がそこには立っていた。


「「へ、陛下!?」」


 それを見て素っ頓狂な叫びをあげた彼らを、一体誰が責められようか。

 この国を背負うべき立場に立つ女帝が、まさかの教師役としてやってきたというのだから。


 優秀な彼らでも流石にこの事態は想定外だったらしく、その半数が口を開けてポカンとしていた。


 動揺が見えないのは、エステルとアステリア、それにレリーナの3人だけ。

 半数がこの事態でもまったく動揺しない辺りも、今年の新入生の異常さを物語っていた。


「ちょ、ちょっと!? これはどういう事なのですか!?」


 逆に一番動揺していたのは、フローラだった。

 彼女は金の縦ロールを激しく揺らしながら、そう叫ぶ。 


「どうもこうも、そのままの意味よの。妾がお主らの教育を行う。ただそれだけの話よ」


「ですからっ! どうして陛下直々に!? 訳が分かりませんわ!?」


「なぁに、お主らは少々出来が良すぎるのだ。故に妾が教鞭を取るべき、そう判断しただけのことよ」


「なるほどねー。ぶっちゃけ試験の時の教師程度じゃ、ボクら相手に何を教えられるのかって、正直ちょっと心配だったんだよねー」


 女帝の説明を受けて、ステラが納得した様子でそう告げる。


「……アステリア君。少し言葉が過ぎるのではないか?」

 

 そんな彼女の傲慢な物言いに対し、フェリクスが眉を顰めながらそう咎める。


「ねぇ、君の序列は? ちなみに僕は主席なんだけど? ねぇねぇ?」


「ぐぅっ」


 しかし即座のステラの切り返しを受けて、彼は口を噤まされる。


 ステラの指摘はある意味では正しい。

 この魔導院では、外での階級は考慮されない。

 学院内での序列こそが全てなのだ。

 

 故に主席のステラに対し、第6席に過ぎないフェリクスが下手な物言いは許されない。

 とはいえ、立場に笠を着たその物言いは明らかに性格が悪いとは言えるのだが……。


「まあまあ、アステリアさん。あまり弱い者いじめは宜しくないですよ」


「あー、そうだねぇ。ボクもちょっと大人気無かったね。こんな雑魚を虐めてもつまんないよねぇ」


「き、君たちなぁ……」


 エステルの方は、思いのまま発した言葉だったが、それに乗っかったステラは、明らかに彼を小馬鹿にしていた。

 それを受けたフェリクスは眉をしかめて、全身を震わせている。


「それで……陛下が僕たちの担当教師になったとの事ですが、実際のところそのようなお時間はあるのですか?」


 そんな彼らを無視して、ジークハルトがもっともな疑問を告げる。


「無論妾とてそう暇ではない。座学の多くは他の者が教えることになるの。妾の担当は主に実技よ」


「なるほど。陛下直々に魔術のご指導をいただけるとは。しかしそれは僕にも宜しいのですか?」


 留学生である彼に対し、他国の皇帝が本当にそこまでやってくれるのか? 

 そんな意味の問いだったが、アーデルハイトはあっさりと首肯する。


「うむ。お主がSクラスに留まる限り、他の生徒と扱いを変えるつもりないぞ」


「あの、陛下? それはもしかすると、場合によってはSクラス落ちも有り得ると、そういうお話なのですか?」


「当然の話よの。所詮お主らは現時点での上位6名に過ぎぬ。他の者がより良き才覚を示せば、席次が入れ替わる事もあろうて」


「……でしたら、余計に手抜きは許されませんね」


 その言葉を受けて、フローラが金髪を揺らしながら闘志を燃やしている。


「ああ、最後に一つ。今後、妾のことは陛下ではなく先生と呼ぶが良いぞ。魔導院内での立場は絶対だからの。それは妾とて同じ。そう示さねばならぬからの」


 生徒に生まれの序列ではなく、組織内での序列による上下を学ばせる以上、教師も同様でなければならない。

 もっとも、もともと魔導院の長であるアーデルハイトは、どの道序列としては最上位なのに変わりはないのだが……。


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