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135 星導くは破滅の調べ

 ネルトゥス公爵家が抱える大罪について、一通り語り終えたツバキ。


 彼女の表情は、己の死を覚悟したモノへと変わっていた。


「これで話は以上となります。決して許される事だとは考えておりません。ただ幼い娘にだけはどうかご容赦を頂けたらと……」


 自分たちが殺されるのは別に構わない。


 ただ幼い娘――サクラにその罪がないとは言えないが、しかしまだ無自覚なのだ。

 だからこその助命嘆願だったが、しかし混乱の極致にあるステラにその言葉は届いていない。


『あ、あはは……。良くもまぁ、そんな真似やってくれたねぇ……』


 ステラの声は明らかに引き攣っていた。

 それは多分怒りからだった。


 自分の肉体から皮膚細胞を勝手に採取され、挙句気が付けば彼女は父親になっていた。

 母になるような行為すらした事が無い彼女が、なぜか父親になる。

 そのあまりの意味不明さ、理不尽さを前に、自分でも理解不能な憤りに猛っていたのだ。

 

 だがそれが発露される直前、エステルの無邪気な声が響いた。


「あの。それって、ステラの時代には無かった技術ですよね?」


『ん? ああ、そう言う事に……なるのかな? まぁ、いくらボクでもすぐには再現できないだろうしね……』


 採取した皮膚から精子を生み出すなんて、ちょっとどうやればいいのか。

 彼女にもすぐには手法が思い付かない。


 そういう意味では、その礎を築いたネルトゥスもまたある意味では天才だったのだろう。

 方向性はともかくとして。


「良かったですねステラ。今の時代でもちゃんと魔導技術は進歩を果たしていましたよ」


 ステラは自身の知らない魔導技術を求めていた。

 その事を覚えていたエステルは、嬉しそうにそう呟く。


『あ、まぁ……。それもそうだね……』


 余りに邪気の無いエステルの言葉を聞き、すっかり毒気を抜かれてしまった様子のステラ。

 振り上げかけた拳をおろして、そうして彼女は現実を受け入れた。


「大罪を犯したネルトゥス公爵家。その討伐を行うのでしたら、我らイーラエクステラがその剣となりましょう」


 一方でペッカートルが跪きながら、そう宣言する。

 それにエマも慌てて追随している。


 彼らはいつでもツバキを殺しにかかれる姿勢だ。

 一方のツバキの側も、それに抵抗する様子を見せてはいない。


 ただ凛と立ち、黙って神託を待ち受けていた。


『あー。いや……。うん、もういいかな、ははっ。まぁ、今更怒っても仕方ないしね……』


 一時は怒りの感情に支配されつつあったステラだったが、エステルの言葉で冷静さを取り戻した。

 自身の尊厳を酷く冒されたように感じていた彼女だったが、しかしこれといって実害はない……はずだ。


 何よりこの程度の些事に怒ってしまえば、師匠としての尊厳が傷ついてしまう。

 それこそを一番に恐れたステラは、寛容さを示したのだ。


「おおっ、なんと慈悲深き御方なのでしょうか……」


 そんなステラの態度を見て、ペッカートルやエマなどは、感動のあまりにダラダラと涙を垂れ流している。


「……本当によろしいのですか?」


 一方のツバキはというと、恐る恐る確認の問いを投げ掛ける。


『はぁ、もういいよ。エステルに免じて許してあげるさ。それに考えようによっちゃ、別にそう悪い事でもないしね。一応、ボクの為にやってくれた事みたいだし。まあでも無断でやったのは、正直良くなかったと思うけどさぁ……』


 心の整理さえつくのなら、それらがステラへともたらす益は大きい。

 常々自分を大きく見せたがる彼女は、エステルの手前見栄を張ったのだ。


 もっともその言葉尻に、未練がましく批難が混じってしまう辺りが、なんとも彼女らしいところであったが。


「……感謝の言葉もありません。始祖ネルトゥスの犯した罪、そして公爵家の犯した罪。それら全てを贖うために我ら公爵家一同、ステラ様の手足となって働くことをここに改めて誓います」


 涙を流し頭を垂れたツバキが、改めてその忠誠を誓う。


 かくしてイーラエクステラと、ネルトゥス公爵家。

 2つの勢力がステラの傘下に収まる事となった。

 

『そういえばさ。その星神教の本体? 総本山とかはどうなってるのかな?』


 イーラエクステラは、星神教の末端組織であると名乗っていた。

 

 そして星神教がステラを崇める宗教団体ならば、それらもまた手駒として利用できるはず。

 そう考えての発言だった。しかし――


「あれらはネルトゥス公爵家など足元にも及ばぬ愚物どもです。あの者共は決してステラ様を崇めてなどおりませぬ。ただステラ様の御威光を利用し、自らの権勢を強化しているだけに過ぎないのです」


「不本意ながらペッカートルの意見には賛成です。あの者たちは大陸に巣食う度し難き王たちと何ら変わらぬ存在です。遠からずステラ様の邪魔となる事でしょう。なので、その討伐こそを提言致します」


『なるほどねぇ。ならそいつらを潰すのは君たちに任せようかな』


 その権威や威光だけを利用される。

 いわばステラの存在を体のいい道具扱いしている訳だ。


 そんな相手をステラが認める訳もなく、あっさりとその討伐が命じられる。


『そういえばボクの肉体はどうすればいいかな? こっちから回収に向かった方がいいの?』


「大変申し上げにくい話ではありますが、出来ればもうしばらくお時間を頂きたく……」


 そんなステラの問いに、心底申し訳なさそうな表情でツバキがそう答える。


 ステラの肉体には、厳重な封印処置が施されていた。

 肉体の保持のためではなく、主に盗難防止のためだ。


 始祖たちの目を盗み肉体を奪ったネルトゥスは、奪還される事を何より恐れていた。

 だからこその厳重さだった。


『なるほどねぇ。まあでも後は時間の問題って話だね』


 ステラの復活をカエデが確認してから、封印解除処置が急ピッチで進められていた。

 ならばその完了に合わせて、ネルトゥスへと向かえばいい。


 長距離転移の使い手もいる以上、そこに対した手間はかからない。


『ねぇ、その大聖印はエステルに譲っても問題ないよね?』


 ステラが言っているのは、ツバキが持つ土の大聖印のことだ。


「ええ、勿論です」


 ステラの命なら是非もない。

 そう即座に受け入れるツバキ。


「とはいえ、現状では受け取れませんけどね……」


 それを聞いたエステルだが、残念な表情を浮かべてそう呟く。


 彼女の土の魔術適性はまだ34しかない。

 小聖印を得られる50まで、まだまだ遠かった。


 当然ながら、まず先に小聖印を手に入れなければ、大聖印を継承する事は出来ない。


『直近の課題は適性の早期育成だねぇ。とはいえ、こればっかりは地道にやるしかないんだよねぇ』


「では当初の予定通り、火の大聖印を先に手に入れる方向で動くべきでしょうか?」


『それがいいかな。その間に彼らには色々と裏で動いて貰うとしようか』


 そう決めたステラたちは、ツバキやペッカートルらから多くの情報を聞き取っていく。

 そしてそれらを基にいくつもの指示を下していく。


 それを真摯に受け止めた2人は、転移の光を発しながらこの場を去っていくのだった。


これにてネルトゥス公爵家関連の話題は一旦お終いです。

次回からは3章序盤の山場へと向けて話が動く予定です。


しかし……なかなか章タイトルにある魔導院まで辿り着きませんね。

タイトル詐欺っぽくなってきたので、ちょっと章を分けようか悩み中です。

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