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129 見知らぬ待ち人

申し訳ありません。

先程間違えて1話先の130話を投稿してしまいました。


もし読まれた方がいましたら、どうか忘れて頂けると助かります。

まだ修正前なので、色々とあれなのです。


 ウォーデン賢王国を後にしたエステルとグラントの2人。

 現在彼女たちは帝国領の一つ、クリスナーダ侯国へとやってきていた。


 国境を、いつも通り姿を隠して強硬突破した2人。

 そんな彼女らだが、実は知らぬ間に危ない橋を渡っていた。


 クリスナーダ侯国を治める領主は、女帝の右腕たるトレイズだ。

 そんな彼は、探知能力に秀でた魔導師だった。

 

 本来ならば今頃はこの領地に戻っている予定であった。

 しかし女帝より命を受けて、急遽ネルトゥス方面の国境へと向かう事になった。


 もしそれが無ければ、彼によって2人は察知された可能性が非常に高かったのだ。


 そしてその事実こそが多くの者たちにとって運命の分かれ道となってしまう。

 


 現在エステルたちは、グレンツェの街を訪れていた。


 街道沿い、それも国境近くにあるため交易によって栄えた街だ。

 ここで彼らはもう一人の同行者――シエロと合流する予定となっていた。


「まさか……同行者の正体が、かのヘヴンリードラゴンだったとはな」


 グラントが怖れいったような様子でそう呟く。

 ムジョルニア雷平原を統べる長たるドラゴン――リントヴルムによって生み出された3体(・・)の分身が彼らだ。


 シエロはそのうちの一体で、赤い鱗を持った個体である。


 人化の術を扱えるため、人間社会に紛れ込む事も出来る。

 その能力を買われ、ステラから帝国内の情報収集を命じられていたのだ。


「俺より強いというのも頷ける話だな……」


 その話を聞いてグラントは驚くと同時に納得もしていた。

 ミョルニルドンナーを用いた全力のブラッドとカトレア、他精鋭騎士たちを相手取り、本気を出すことなく完封できる存在なのだから。


 シエロとの合流場所は街の中心にある噴水、その周囲にある広場だった。

 待ち合わせ場所としては割とメジャーであり、だからこそ他の者に紛れて自然に合流出来る。


「エステル様ですね? お待ちしておりましたわ」

 

 その場所でメイド服を着た一人の女性が彼女らを出迎えた。

 パッと身三十路前くらいの、地味で印象に残りづらい顔立ちをした女性だ。


 恭しい態度での出迎えだったが、しかしその青い瞳だけは興奮したように揺れていた。


「(……ステラ? この方なのですか?)」


 シエロの人化した姿をエステルは見たことがない。


 しかし眼前の女性は、彼女の知るシエロとは明らかに纏う雰囲気が異なっていた。

 だからこその疑念だ。


『いや、知らないよこんな奴』


 一方人化したシエロの姿を知るステラも、この女性には心当たりがない様子だ。


「さて……あなたはどちら様なのでしょうか?」


 言いながらエステルが短剣を構える。

 異変に気づき、グラントもまた無言で腰の剣へと手を添える。

 

「ああ、これは失礼致しました。自己紹介もまだでしたわね。わたくしはエマと申しますわ」


 スカートの裾を軽くつまんで持ち上げ、そう一礼するその女性。

 態度こそ慇懃(いんぎん)だったが、その端には敵意のようなものが見え隠れしている。


「エマさん……ですか。それで私たちに何か御用でしょうか?」


 女性への警戒を強め、少しずつ後ろに下がりながら尋ねるエステル。


「実はわたくし、エステル様に少々お願いしたい事がありまして……」


「お願い……ですか?」


「ええ……物は試しに、少し死んで頂けませんか?」


 瞬間、エマが隠し持っていた短剣が振るわれた。


 しかしその刃はエステルではなく、近くの通行人の男へと振るわれた。


 その一撃で、男の首があっさりと地面へと落ちる。

 何をされたか理解できないまま、悲鳴さえ上げる暇もなく首を失った男の傷口からは、血が大量に吹き出していく。


「何を……?」


 彼女に対して死ねと言いつつ、無関係の人間を殺戮したエマの行動を不審がる。


 だがその意味はすぐに判明した。


『来るよ』


穿(うが)ちなさいませ!」


 首から上へと噴き出した血だったが、しかし地面へと落ちる事なく宙に留まっていた。


 その血がいくつもの槍へと変化していく。

 そしてエマの合図に応じて、エステルを貫かんと飛来した。


「っ!?」


 辛うじてそれを回避するエステルだが、血の槍はすぐさま反転し、再びエステルへと襲い掛かろうとする。


「大丈夫か!」


 だが血の槍は、後方から放たれた雷撃に貫かれ霧散する。

 グラントが魔術によって撃ち落としたのだ。


 そのまま彼は両手の剣を構え、エステルを守るようにしてその前へと立つ。


「ええ、助かりました。……しかし死ねとは随分とイキナリなお話ですね。何か私に恨みでも?」


 言いつつも、エステルに心当たりはない。

 この国に彼女の知り合いなど一人も居ないからだ。


 そもそも2人はまったくの初対面であり、エマという名前にもまったく聞き覚えがなかった。


 そんなエステルの疑問の声を受けて、エマが嫌らしい笑みを浮かべる。


「恨みは別にありませんのよ。ですがわたくし、エステル様に少々ばかり嫉妬をしておりますの」


「嫉妬……ですか?」


 その言葉の意味が分からず、エステルが首を傾げて疑念を呈する。


「キャァァァ! ひ、人が……首が……」


 だがそれにエマが返答する前に、周囲から悲鳴の声が上がった。


 通行人の女性が、その惨事に気付いてしまったのだ。

 一応魔導具で静音の結界を展開していたが、こうなってしまえばもはや意味はない。


 悲鳴を受けた野次馬たちが、連鎖するようにして次々と集まって来る。

 気が付けば多くの視線が、エステルたちへと突き刺さっていた。

 

『あははっ。こんな街のど真ん中で騒ぎを起こしたらそうなるよねー』


「はぁ、これは少し面倒な事になってしまいましたね……」


 しばらくは隠密行動を予定していた彼女たちだったが、初手から破綻の兆しが色濃くなる。

 

「エマとやら、せめて場所を変えないか?」


「お断りしますわ」


 グラントのそんな提案だが、しかしエマに一蹴されてしまう。


「このままではお尋ね者だぞ?」


 それでも諦めることなく翻意を促そうとするグラント。

 至極真っ当な指摘だったが、それでもエマは動じない。


「顔などいくらでも変えれますので、どうかご心配なく」


 彼女が自身の顔へと手を添えると、一瞬でその素顔がしわがれた老婆へと変化した。

 そこから更に生気に溢れた少年のモノへと変化し、そして元の地味な女性へと戻る。


『うーん。変装系の魔導具でも使ってるのかなぁ? でもそんな風にも見えないけれど?』


 エマの見せた芸当のタネは、ステラにも分からない様子だ。

 とはいえ、仮にそれが分かったところで現状大した意味は無い。


「やむを得ませんね。力づくで止めるしか無さそうです」


「そのようだな……。ここは危険だ! 急いでこの場から離れろ!」


 せめて被害を少なくしようと、グラントが大声で警告を叫ぶ。


「ふふっ、果たしてあなた方にそれが出来るのでしょうか?」


 かくして両者の戦いが、人気の多い街中で始まった。


同行者の正体はシエロでした。現状だと割と反則級の戦力ですね。

ホントは直ぐにバラす予定だったのですが、展開の都合上、こんなに引っ張ってしまう事態に。

ちょっと反省です。


ちなみにカエルムの方は、今頃リオンをしごいているはずです。

彼が騎士王家との連絡係です。

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