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124 狂信者たちの罠

少し早いですが、夜は忙しそうなので今のうちに投稿です。

 自身へと迫る危機を察したのか、カエデの身体は無意識にその回避へと動いていた。


『……完全に意識の外側からの不意打ちだっただろうに。やはり君は並外れた存在だね。いや当然の話なのだけれども』


 首元に迫る脅威に反応して、一歩後ろへと引きながら刀で受けようと腕を上げた。

 その結果が今だった。


 右手を斬り飛ばされ同時に獲物も失ったカエデだが、しかしその命に別状はない。

 その事実に対しペッカートルがそう述べる。

 

 上っ面でカエデを褒めこそすれ、その実、上をいった自らの手腕こそを誇る言葉だった。


「……油断した、と言うべきなのかしら?」


 一方でなんとか死を免れたカエデだが、しかし状況は最悪だ。


 傷口の止血はなんとか済ませたものの、再生までは手が回っていない。

 触媒などなくとも再生魔術の行使を可能な彼女だが、しかし一瞬でという訳にはいかない。


 そして彼女の眼前に立つ2人は、その暇を与えてくれそうにはない。


「あなた何者かしら?」


 カエデが自身の腕を奪いとった男へとそう尋ねる。

 敢えて余裕の表情を浮かべるカエデだったが、その額には脂汗が滲み、虚勢は明らかだった。


「……セティ」


 目の前に立つ青年が、簡潔にそれだけ答える。


 青年は黒いアサシン服を纏い、その両手にはそれぞれ短剣が握られている。


 白と黒の入り混じった長い前髪と口元を覆う程に長い(えり)

 それらが青年の素顔を――表情を見え辛くしていた。


『これで形勢は逆転です。このまま一気呵成に無力化するとしましょうか』


「……分かっている」


 オリーディアを捕えた影を切り裂き、カエデへと短剣を向けるセティ。

 救出されたオリーディアがその隣へとレイピアを構えて並ぶ。

 

「もっと早くに仕掛けられたのでは?」


 救出された少女が、青年へと苦情の弁を述べる。


 本来の予定ならば、オリーディアがカエデと交戦しているその最中に、セティが仕掛ける予定だった。

 だがセティはそうせず、仕掛けるのを今にまで遅らせた。


 結果としては成功だったが、オリーディアは予定外に囚われる事態へと陥ってしまう。


「あのタイミングがベストだ。勝利の確信に緩んだ一瞬のスキを突く。それしか道はなかった」


 セティが計画を変更したのには、相応の理由が存在した。

 カエデの警戒が想定以上に厳しく、特に集中力が高まる戦闘中では、不意打ちが通じないと判断したのだ。


「それもそうですね……これは失言でした」


 セティの言葉に納得したのか、謝罪の弁を述べながら、オリーディアが白騎士の残骸へと駆け寄り再生する。

 これで実質3対1。利き腕を失ったカエデは更に追い込まれた事になる。


「腕の治療を試みているようですが、そうはさせませんよ。オーダー"殲滅"」


 僅かな隙を縫って、利き腕の再生を試みるカエデ。

 だがそれを見逃す者たちではなかった。


 迫る白騎士に対し、舌打ちをしながらカエデは再生魔術の行使を中断して、後ろへと飛び退る。


「……失敗したわね。ムラクモを借りて来るべきだったかしら?」


 予備の刀はいくつか持ち合わせているが、どれも業物ではあってもただの武器だ。

 この危機を打開する力はない。


 戦況は明らかにカエデの劣勢であった。


 白騎士を前面に押し出して、その背後から隙を伺うオリーディア。

 セティは短剣を掲げいつでも仕掛けれるような距離を保ちながら、風の魔術でその援護を行う。


 リスクは最小に、しかし遠からず確実に勝利を手に入れる、そんな嫌らしい戦いぶりだ。


 もはやカエデは反撃どころではなく、ただその攻勢をどうにか凌ぐだけで精一杯であった。


『武器を失った君に対し、こちらは2人と1体だ。これが最後の通告だよ。抵抗をやめて大人しく投降したまえ。そうすれば命の保証は約束しよう』


 ペッカートルの最後通牒の言葉だが、彼らの言う命の保証になんの意味も無い事をカエデは良く知っている。

 逆を言えば、命以外のあらゆるモノが保証されない事と同義なのだから。


 人としての尊厳など、彼らの前では塵芥に過ぎない。

 死んだほうがマシだと百度願っても叶わない、そんな地獄が待ち受けているに違いない。


「ねぇ、その前に一つ聞かせて頂戴?」


 カエデは残る左手を高く上げて、逆にそう尋ねる。

 その行為の意味は、妙な動きはしないとの証明だ。


『……何かな?』


 僅かな思案のあと、ペッカートルがその問いかけに応じる。


 リーダーが会話に応じたことで、オリーディアとセティもまた一旦、その攻撃の手を止める。

 もちろん怪しい素振りがあれば、すぐにでも攻撃を再開出来るよう警戒しながら。

 

「その子はどうやって私の探知をすり抜けたの?」


 言いながらカエデがセティを指差す。


『なに、単純な話で魔導具の力だよ。君が探知眼(サーチアイ)を使っていれば、恐らくは見破られただろうね』


「……そういう事だったのね。探知眼(サーチアイ)をすり抜ける子たちは、その為の布石だった。そういうことなのかしら?」


 最初の襲撃でその能力を敢えてバラし、そちらへと警戒の目を向けさせる。

 少女たちを仕留めても、彼女の性格ならば探知を切り替えない。

 同じような能力を持つ存在を新たに送り込む危険の方が高いからだ。


 何より別に"探知眼サーチアイ"に頼らずとも、彼女自身の探知能力は優秀である事が大きかった。

 大抵の魔導具による隠形ならば見破れる自負があった。


 だがそんな彼女の心の隙へと彼らは付け込んだ。

 大抵の枠外にある強力な魔導具を用いその姿を隠していたセティは、彼女の不意を打つ事に成功したのだ。


『御名答だね。最初から我々の狙いは君一人だったのだよ』


「サクラを渡せとか第三候補がどうとかは、全部ブラフだった訳ね……」


 差し出した招待状の文面を読めば、カエデが一人でこの場所へと出向いて来るだろうこと。

 それも彼らは予想していた。


 全ては彼らの手の平の内であったという事だ。


 もっともイーラエクステラ側とて、今動かせる全戦力をこの作戦に投じており、背負ったリスクも大きかった。

 薄氷の上を見事に渡り切ったが故の今の状況だった、


『さてと、そろそろ答えを聞かせてもらえるかな?』


 ツバキを筆頭としたネルトゥス公爵家側には、足止めとして真なる始祖(トゥルーオリジン)の一人ペレグリーを動員している。

 直接戦闘力には欠ける男が、転移扉を扱え、遠距離からの嫌がらせには向いた人材だ。


 ツバキらが異変に気付いてすぐにカエデの救出に向かったとしても、まだかなり時間の余裕はあるはずだ。


 しかしペッカートルは、それで油断する男ではない。

 これでカエデが応じなければ、交渉を即座にやめて強硬手段でもって彼女を無力化するつもりだった。


 だが彼女ほどの相手となれば、その捕縛は困難を極める。

 四肢をへし折り、視覚や聴覚を奪い取り、瀕死へと追い込む。

 最低限その程度の処置は必要となるだろう。


 そうする事自体に躊躇している訳ではないが、死なせないギリギリの調整は難しくリスクが伴うのだ。

 彼らは自身の死そのものは恐れないが、使命遂行の失敗は恐れている。


 だから交渉を行うのだ。


「答えなんて決まってるわ。お断りよ」


 だがペッカートルの要請をカエデは一蹴する。


『……そうかね。交渉はやはり決裂ということかな。では無理にでもお越しいただくとしよう』


 彼にとっても不本意な事ではあったが、しかし想定通りの展開でもあった。

 淡々とカエデの捕縛を指示し、セティとオリーディア、そして白騎士が再び動きだす。


ちなみにカエデがサーチアイを使ってた場合のプランも用意してあったため、1人でのこのこ来た時点で結構ピンチでした。


最初から施設の破壊を厭わず全力で戦ってれば3人相手でも余裕で勝てたのですが、なまじ強すぎるせいでのその判断が出来ませんでした。

結果、利き腕を失ってピンチに。


エステルみたいに腕をなくしても、平然と動いてる方がおかしいのです。


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