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12 大聖印の入手手段

本日更新1回目。

続きは夜の予定です。

 聖印の同士の相克によって、エステル本来の魔力が現在失われている事実がステラの口から語られる。


「ようやく話が見えてきました。奪われた私自身の魔力を、何らかの手段によって取り戻そうという事なのですね?」


『うーん、それはちょっと違うかな。こう言っちゃ悪いけど、君の魔力なんてボクから奪い取った分の足元にも及ばないよ。ぶっちゃけあっても無くても大して変わらないんじゃないかな? それよりも今の君に必要なのは、聖印がもたらす恩恵なんだよ』


 小聖印や大聖印は、単なる王候補者や王の証というだけに留まらず、所持者に対し様々な恩恵をもたらす。

 例えば、対応する属性の魔術適性の成長を促したり、保有魔力を増幅させたりなどといった効果である。大小で効果に差はあれど、例え小聖印であってもその有無によって大きな格差が生じてしまうのだ。


『その辺ももちろん重要なんだけどね。けど何より魔術師としての高みを目指す上で、特に大聖印の存在は必要不可欠なんだよ。何と言ってもあれを持ってないと扱えない魔術が複数存在するんだからね』


「禁呪の事ですね?」


 そのいくつかついては隠し書庫の魔導書に記されていたが、知識だけでは扱う事が不可能な特殊な魔術である。


『そう。せめて禁呪くらいは扱えるようになって貰わないと、ボクに対抗するなんて絶対に無理だからね。その為にも君には全ての大聖印を手に入れて貰う必要があるんだ』


「なるほど。全くもってステラの仰る通りですね。私が魔術師として歩んでいく上で、全ての大聖印を入手する必要性については理解しました。ですがそれは一筋縄ではいかない事のように思えます。何か具体案があるのですか?」


 簡単に全ての大聖印を入手するとステラは言うが、それには並々ならぬ困難が伴う事だろう。普通の人間なら――いや魔術に精通している者ならば尚の事、一笑に付すような話であった。

 だがエステルはステラの言葉を至って真剣に受け止めており、現実にそれを為すべく方策を模索し始めていた。

 そんな彼女の真摯に他ならない態度を見て、ステラは機嫌良く笑う。


『あはは。ホント君は面白い子だね。……転生者って訳でもなさそうだし、一体どう育ったらこんな子になるんだろうね?』


「そうですか? 私は至って普通だと思うのですが……」


『それで大聖印の入手手段についてだったね? 闇と光の大聖印については簡単だよ。効力を発揮してないだけで、君は両方の小聖印を既に持っているんだからね』


 エステルの言葉を軽く受け流し、ステラが本題の答えを述べる。


「なるほど。恩恵は得られずとも継承の儀式自体は可能、という認識でよろしいのですね?」


『条件はちゃんと満たしてるからね』


 小聖印は王候補者の証とも呼ばれるように、大聖印を引き継ぐ為の必須条件である。故に正規の手段を通じてエステルが大聖印を入手する事自体は可能なようだ。


「ですが、それは闇と光の大聖印の2つに限った話でしょう? 他の5つについては、また話が別では?」


 エステルが所持している小聖印は闇と光の2つのみ。他の属性の適性もそれなりにはあるのだが、残念ながら小聖印を得るまでには至っていない。


『今資格を持ってないなら、これから手に入れればいい。ただそれだけの話だよ』


「……ですが私は既に刻印の儀式を終えています。あれは確か一生に一度だけしか出来なかったはずでは……?」


 それも5歳を大きく超えてしまうと、そのたった一度すら出来なくなるという大変厳しい制限が存在していた。それもあって小聖印を持つ者は希少なのだ。


『……なるほどね。そこから既にズレてる訳かぁ。……その認識は大きな間違いだよエステル。連続で行うと負担が大きいから、まあいくらか期間を開けてからやった方がいいのは確かだけど、別に回数に制限なんてないよ』


「……では何故、行われていないのでしょう?」


 小聖印の有無は魔術師としての人生に大きな影響を及ぼす。後から手に入るならば、どのような代償を支払ってでも手に入れたいと思う魔術師は数多い事だろう。

 

『まあそれについては、いくつか理由は思いつくんだけど、今ある情報だけじゃハッキリした事は言えないね。ともかく小聖印の入手は今からでも問題なく可能な事だけは確かだよ』


「そうですか。現在小聖印を持たなくとも、今後の努力次第で得る事は出来るのですね」


『そう言う事だよ。君はまだ若いし、それに一番低いのでもCランクだったから、多分どうとでもなると思うよ』


「となると問題は、どうやって大聖印を譲り受けるかになりますね」


 大聖印は王の証。それを譲り受けるという事は、すなわちエステルがその国の王位に就く事をも意味する。たった一つを譲り受ける事でさえかなりの困難が予想される上、それが他国ともなれば反発は絶大なものとなるだろう。尋常な手段ではどの国もまず認めはしない事が簡単に予想出来るのだ。


『そっちはもっと簡単さ。譲ってくれないなら、所持者を殺して奪い取っちゃえばいいんだよ』


 ごく軽い口調でステラがそう告げる。


「殺して奪い取る……ですか? 大聖印持ちを殺すのは骨が折れそうですね」


 対するエステルだが、非情なはずの内容に対して、場違いなほどに呑気な態度だ。


『まあそうだろうね。でもそのくらい出来ないとボクに追いつくなんて夢のまた夢の話さ』


「あの、そういえば確か大聖印の所持者が死んだ場合、疑似大聖印となって候補者へと宿るのでは無かったですか?」


 エステルが一つの懸念を口にする。

 疑似大聖印は見た目こそ真なる大聖印と同様であったが、得られる恩恵は小聖印と同程度でしか無い。当然、エステルが欲する禁呪の使用制限解除も手には入らないのだ。


『ああ、そう言えばそんな仕組みもあったね。でもね疑似大聖印なんて、単にロックが掛かってるだけで、ボクからすれば普通の大聖印と何も変わらないのさ』


「成程。ステラに掛かればそのロックの解除も容易いという事なのですね」


『そう言う事』


「ではもう一点質問です。大聖印の所持者を殺したとして、私に疑似大聖印が宿らなかった場合はどうするのですか?」


 大聖印の所持者が死んだ場合、次の宿主の選定には属性の種類によって様々な基準が存在していた。なので候補者が複数いる場合、所持者を殺しても確実にそれが手に入るとは限らない。


『それも簡単だよ。だったらそいつも殺しちゃえばいい、ただそれだけの話さ。君の下へと宿るまで、所持者を殺し続けてもいいし、あるいは候補者を全部殺しちゃっても構わない。いくらでもやりようはあるのさ』


 だがどの属性においても共通しているのは、小聖印の所持者である点だ。ならば小聖印を得た後で、エステル以外の候補者がいなくなれば確実に彼女の下へと大聖印は宿るのだ。

 そして小聖印の所持者はそんなに数が居ない為、ある意味では確かに有効な手段であると言える。


「ああ、それもそうですね」


 人を殺せと指示する師匠に、それをあっさりと受け入れてしまう弟子。なんとも歪だがとても噛み合う2人であった。


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